CH2 「脳クチュは嫌」

目覚めたらいきなり視界の中心にマッドサイエンティストの顔がドアップで映し出される。悪い夢であってほしい。


 おいやめろよこえーよ引っ込めろよそもそもここまで近くで見なくてもいいのにっていうかお腹空いてたからご飯くれませんかってそういえば研究施設にそんなものないかもしれんから泣きそう。


 …生まれてからものを食べたことないんだよね。ということで、食べ物くれや。おっぱいでもなんでも…いや、やっぱやめとこう。精神が持たない。



ここで研究者は端末を取り出し、そのスクリーンに果物にも似たような形の物体が映し出される。



 わー見たことがない果物だー


はい。異世界確定。


 そもそもかなりマイナーな果物で異世界では無いという可能性は…なくは無い。


 もう赤ちゃんになった時点でほぼおわったんだが…(震え声)



研究者は端末を挙げたまま、じっくりと生まれてきた赤ちゃんである俺を観察していた。


 とりあえずなんか反応してあげよう。なんか喜びそう。


実験体は嫌だが、ゴミみたいにどっかにポイされて、野垂れ死よりもマシでしょ。というかこの人ならポイ捨てをやりかねない。そういう顔してる。


アニメや小説でよくあるやつ。


 「あぅ?」


 「■■■■■■■…!」


 何かの琴線に触れたのか、どうやらご満悦な様子。


 とりあえずポイ捨て(される側)は避けられたか。…主人公に助け出される生存コースを俺は望む。



大量のデータがパネルに表示され、マッドサイエンティストがその一つ一つに指を指し、まるでこちらに聞かせるように声を出した。



 え、これを覚えなきゃいけないの?マジすか…覚える言語は英語だけにしてください。


 この人、俺が赤ちゃんっていうことわかってるのかな。



そのあと、この人がもう一回一番最初の物体を指した。


 え゛これの名前を言えと?何言ってるかわかんないけど、とりあえずさっき話していた■■■と言ってみる。


 「えぅあぅうえ」


赤ちゃん舐めんな


 「■■■!?■■■■■■■■■…!」



 そんなに興奮しないでください。


 …マジで。


 脳血管が切れたらどうするんですか?…いや、むしろ切ってください。


 あ、でもその場合、この人主導の実験ならば自分が捨てられる可能性が大きいのでは?いややっぱ生きてください。


 っていうかよくこれでも聞き取れますね…この人の耳と理解力強過ぎだろ。赤ちゃん語を理解できるのは世界で母だけだと思ってた。


 あ…どっか行ったわ。


 っていうかマジでお腹空き過ぎて死にそうなんだけど…もう母乳でも…い、いやいや何考えてるんだ俺は!


 お?帰ってきた。そして俺を抱えて…待て、俺をどこに持ってこうとしてる!?やめろぉ!?


 謎の液体を満たしているガラス張りの金属容器の前に来た。ホルマリン漬け?いや、これは…


 と、俺を容器内に投げ捨てた。え゛?


 ドボン


 「ごぶばぶごぶごぶ…!」


 マジかこいつ!?



この時、何本かのケーブルが赤ちゃんの首や背中付近に集まっていく。



俺は頑張って目を開けてみれば、今にも突き刺さそうと、針の針先を向けられていた。



 プス


 あっふーんってい゛だい゛…!!!!


 ふざけようとしたけど、本気マジでクソ痛い。この人、鎮痛剤という物質を知らない人?


 …おーけー、だんだん痛みが静まってきた。鎮痛剤ナイス。


 そういえば赤ちゃんに薬剤は良く無いイメージが…無視しとこう。


 は…!!


 ts転生だったっ…!!!



 …おい何もいうな、赤ちゃんは頭を下げられないから、○ん○んがついてるか確認できるわけねーだろ。ま、ケーブルが通り過ぎたところに引っ掛かりというか感覚がなかったせいで分かったけどね。ふざけんな。


 あぁ…もし神様いたら…助けてくれませんか…



 「ごぼぼぼ…」


 「■■■…」


 何満足そうに笑ってんねん。


研究者は不気味に笑いながら手元のパネルを操作して、酸素の供給が始まったのか、一気に呼吸が楽になったような気がする。



 そういうものがあるなら一番先にやれよ。



研究者が何かの操作をしたと思うと、俺がいたカプセルのガラス部分に、見覚えのある謎の果物が映し出されていた。



 普通のガラスじゃなかったんかい。


 …前世の技術をワンちゃん同等か、または超えてるかもしれん。



 そして画面に変化が…変化?なんか物体すらなく、ピカソの絵みたいになってる。


 抽象的ですねぇ…審美感ないから、まるで画布の上でパレットを真っ逆様に落としたようにしか見えない。


 っていうかいつまで続くの?飽きるというか、頭がおかしくなりそう。






 お?やっと終わったか。絶対24時間以上経ってる。暇すぎて死にそう。


 そういえばお腹が空いてないnって痛い痛い…!!


急に頭をかち割れそうな痛みに襲われる。


それと同時に自分の中に知らない知識が大量に思い浮かび、すぐ後から新たに湧き出た知識によって流されていった。


これ知ってる。知識を強制的に入れるやつだ。前世にこういうものがあったら便利だなーと思ったけど、この痛みならちょっと迷う。


 っていうかガチでいってぇ…!!少しづつ痛みの度合いが減っていくんだけど、まさかさらに鎮痛剤を打たれたわけじゃ無いよね?普通に健康に悪そう。


 今じゃ大分痛みが軽減されて、軽度の偏頭痛程度となった。…本当に良くなってるのかな。


 脳クチュは良くないと思います()


 脳クチュじゃ無いって?ほっとけぇ



 まじで発狂しそう。でも発狂したで発狂を阻止する薬品に打たれそう。



 体感5時間ぐらい過ぎたけど、時間の流れがいまいち掴めない。速くこの痛み消えてくん無いかなぁって思ってるから、実際はもっと短いかも。


異世界デビュー失敗、大失敗。異世界じゃ無いかもしれんが



 なんか変化欲しいわ。現在進行形で人間とは思えない扱いだが、せめて健康で文化的な最低限度の生活が欲しい。


 ここ日本じゃなかったわ。っていうか日本でこんな施設なんてなかった気がする。国の暗い所なのかもしれないけど、そもそも言語が違うしな。


 そーいえばまだ何も食べてない。栄養は栄養液か?


 カプセルの中にぶち込むのか健康か?って言われれば、確かに生きてる。うん、生きてはいるね。



 おっと、怪しい模様が消えたね。代わりにガラスの向こうに映し出されたのは全ての元凶であるマッドサイエンティストの顔である。


 怪しい模様とマッドサイエンティストの顔という二択…選びたく無い。



 この状況で…ラスボス系か?理性が消えて暴れ回って、主人公に止められ、救われるというシチュ



 ふむ?なんか伝えてきた?


 “あなたは私が言った言葉を理解できますか?”


湧いた知識の中でどうやら言語系のものがあるらしく、問題なく理解できた。技術力すげー


 “はい、できます。”


 当地の言語で返しとく。…前世でもこんな技術あれば良いのに…トラブルしか生まない気がするが。


 それで無事いけたような…頷いたし。


 っていうか今気づいたけど、なんか研究者が1人だけじゃなくて、まだいっぱいいたわ。あのマッドだけじゃないんかよ。


 お?マッドさん来たわ。やっぱ偉い人かな?周りの人も明らかに敬意を払ってるし。



 何か操作して、うっ頭が痛…もうよそう。


 不思議な感覚だけど、なんかコンピュータのようなものとつながった気がする。今ならどれだけ難しい問題も一瞬で解けそうな気がする。


 でも数学限定な。国語とかはむりむり!漢字で分かんないものはどう考えても分かんない。


 どうやら情報をそのまま脳に入力していたみたいだ。ひぇこえー



 そして今はこの研究者らから問題が出された。どうやら解け!らしい。


 …今思ったんだが、前世で高校に上がっていくにつれて問題の語尾が乱暴になっていくの何なん?


 とりあえずほい、答えどうぞ








 なんかめっちゃ歓声上げてるんだけど?


 とでも言うと思ったか?前世あるのに価値観も前世で、この問題の難しさは良くわかる。


 でも、この研究者たちは間違いなく頭がいいはずだから、この問題が解けないはずがないことに疑問を感じた。

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