108 緩衝地帯の魔物掃討戦
緩衝地帯に溢れてきた魔物は大小様々だ。
当然なんだけど、魔物寄せをしたんだからセルディオの砦にある塔に向かうよね。
アルニオ側にも人はいるから狙われる。でも、積極的に向かう先はセルディオだ。人間にとっては頑丈な砦でも魔物にとってはただの足場だし。
「あ、あ、あ」
「さすがにこのままだと食べられちゃうから、縄は外します。頑張って逃げて」
僕は王子の縄を小刀で切った。
なのに王子は腰を抜かしたのか立ち上がれない。
あと、助けに来たはずの兵士が半分になってる。今更だけど逃げたみたいだ。なんという忠誠心!
しかも彼等は門を閉じなかった。まあ、勝手に閉めたら王子を置いてくことになる。そこはいいんだ。たぶん何も考えてないんだろうしさ。
それより逃げることしか考えてないのが問題だ。魔物をどうするつもりなんだよ。どこまでも追いかけていくぞ?
「僕はこれから魔物退治で忙しいんです。さっさと向こうに戻ってください。ていうか、あんたたち兵士も戦えないなら邪魔だよ。死にたいの? 王子を連れてさっさと安全な場所に移動しなよ。……安全な場所があれば、だけど」
「こ、こんなことになるとは思っていなかったんだ。まさか、こんな数の魔物が!」
「はいはい」
言い訳を聞いてる暇はないんだって。もうすぐ来るんだから。
僕は彼等の相手を止めた。
「チロロー!」
「ちゅんっ」
待ってましたとばかりに門を擦り抜けて飛んでくる。頭の上にはニーチェだ。
僕は低空飛行でやってきたチロロに飛び乗った。
「ま、待て、俺を!」
「非道な真似をする他国の王子を助ける義理はありませんー!」
王子は愕然とした様子で、その場に崩れ落ちた。我に返った兵士の何人かが彼を引きずっていく。門を通るのと魔物が辿り着くのが同時ぐらいの鈍さだった。
そもそも、門を閉じたって魔物は砦を乗り越えられる。実際、セルディオより低いとはいえアルニオの壁は越えられた。
さて、そうなると、あちら側に入った魔物の対応はどうなるのか。
せいぜい自分たちで頑張ってとしか言い様がない。
僕らはアルニオ側を守るからね。
まずは上空まで一気に上がった。
全体像を見る必要がある。
「思ったよりも多いなぁ」
「ちゅん」
「あ、ミルヴァ姉さんとヴァロが追いやってくれてるのか。倒すより、そっちが早いもんね」
二人が頑張って追い立てている。だから魔物が砦の壁を越えたんだ。
煙が立っているのは魔物避けだな。混乱中でも効いてるのは、奴等が魔物寄せの魔道具に集中しているせいかも。
一部はアルニオ側の避難場所にも向かっている。対応できているのはシニッカ姉さんの指揮のおかげっぽい。
騎士や兵士も頑張っている。
安全な結界内から攻撃を放つ人もいて、冷静そうだ。あちらは任せていいな。
というのも、魔物の多くが緩衝地帯に入ってきたからだ。魔物寄せの魔道具すごすぎない?
「僕らは緩衝地帯にいるのを倒そうか。あいつらがアルニオに戻ってくると厄介だ」
「ちゅん」
「みみっ」
「ニーチェもやる気になってるとこ悪いけど、危ないからちゃんとチロロの中に潜ってようね?」
「み!」
顔だけ出していたニーチェは急いでチロロの毛の中に入った。
僕らが下降していくと、シルニオ班長が待っていた。
皆も一緒だ。ユッカ先輩は魔道具を壊してスッキリしたみたい。顔に出てる。
オラヴィ先輩は褒めてほしいのか、シルニオ班長に期待の目。
「クラウスから連絡があった。万が一を想定して騎士を呼び戻したいそうだ。先導と補助を二人に任せる」
視線がユッカ先輩とオラヴィ先輩に向かう。褒められなかった犬がしょんぼりしてる姿がチラッと過る。僕は頭を振った。
「代わりに傭兵を二人こちらへもらう。カナリア、君も魔物退治だ。問題ないね?」
「はい」
「ぐぬぅ、俺はカナリアになりたい」
オラヴィ先輩が訳の分からないことを言い出した。シルニオ班長は頭が痛そう。
「……オラヴィ、君を頼りにしているから頼むんだ」
「はいっ、すぐに行ってきます!」
言うなり、猛スピードで飛んでいった。なんだあれ。
「班長ぉ、飴と鞭の使い方が雑になってきてるー」
「ユッカ、君も急いで」
ユッカ先輩はニヤニヤ笑ってオラヴィ先輩を追っていった。
「こんな事態なのにどうして君たちは本当に」
「えっ、僕まで一緒くたにされてます?」
「君が一番だ。平然としすぎだよ。とにかく、魔物の対処だ。倒せなければ追い払うだけでもいい」
「セルディオにですね! 頑張ります!」
「……はぁ、そうだね。さっきの王子への対応といい、なんというか、君は」
呆れたんだろうけど、シルニオ班長は途中で笑い出した。真面目な顔を続けられなかったんだな。
「君がいると、なんとかなるという気がしてくるよ」
「なんとかなりますよ!」
「そう。じゃ、存分にやってくれるかい。後始末については考えなくていいからね。それは僕らの仕事だ。君はただ魔物を倒すことだけに集中してくれればいい」
「はい!」
存分にやっていいとお墨付きをもらった僕は張り切った。
緩衝地帯には他に人はいない。ヴァロたちが来る方向じゃなければ何をしてもいいってことだ。
まずは爆風を起こす魔道具を放り投げる。森の中だと躊躇するけど、ここは緩衝地帯。全く問題ないでしょう!
多少、砦に影響はあるかもしれないけど魔物がもう滅茶苦茶にしてるからさ~。
今更だよね!
てことで、ドーンと爆発音と共に地面が揺れた。すっごい穴が空くじゃん。おかげで魔物が一塊で倒れた。
シルニオ班長が何か叫んでたけど、空の上だし、二つ目三つ目の魔道具が破裂するので煩くて聞こえない。
とりあえずヴァロたちが来るまでに数を減らしておきたいから、魔法も撃つ。
「【霧雨】【雷撃】【風切】っと、あ、やっぱり目標からズレちゃうなぁ」
「ちゅん」
「大丈夫だって。威力が弱すぎたみたいだから、次はもう少し魔力を込める」
「ちゅん!」
「みっ!」
ニーチェが「やっちゃえ」的な応援をする。言葉じゃなくて感情でね。
この中ではニーチェが一番戦闘的かもしれない。一番可愛いのに……。
「【雷撃】」
バリバリバリバリッと大きな音がする。目標物から外れて地面や壁を撃ち抜くけれど、半分ぐらいは魔物に当たった。
「よし、減った」
「ちゅんちゅんちゅん」
「みみみ」
「アドたちが来た? 分かった、魔法は控えておく」
さすがに逆向きには飛ばないとは思うよ。でもほら、一応ね。
魔道具なら大丈夫かな。投げるのはそこまでノーコンじゃない。
最後の留めとばかりにドーンとやっておく。ひっくり返る魔物を始末するのはシルニオ班長だ。さっと飛び降りて切りまくる。
そこにヴァロとミルヴァ姉さんもやってきた。二人とも飛び降るやいやな切り倒していく。さすが。
今度は方向を変えて、もちろん三人とは全く違う場所に次の魔道具を投げる。
ドーンと音を立てる度に魔物が吹き飛んで、地面にはボコボコの穴が空いた。
「こんなものかな」
「ちゅん」
「よし、掃討戦やるぞー!」
「ちゅん!」
「みみっ」
爆発やら物音で怯えた魔物がどんどんとセルディオ側に逃げていく。中途半端に空いたままだった門扉からだけじゃなく、高い壁も越えていく。ツルツルした壁材じゃないし、魔物にとっては多少の壁なら登ってしまえる。
アルニオ側から来て緩衝地帯で爆発、驚いてそのままセルディオ側へ。そもそも、セルディオの塔の上に呼び寄せの魔道具は設置されていた。なら、目標に向かうよね。
僕らは残った魔物をただ倒していった。
セルディオの面倒なんて見てられない。そんな余裕があるならアルニオの砦内や建物内に入り込んだであろう魔物を倒すよ。
とにかく、ただひたすらに皆で魔物を倒し続けた。疲れたら騎鳥に乗って上空で待機。少し休んではまた地上に降りて倒す。これの繰り返しだった。
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