104 不明の魔道具と怪しい動き




 地上では王子が何か話している。交渉かな。

 シルニオ班長が頷いた。オラヴィ先輩に何か言うと、犬のように走ってく。めっちゃ速いじゃん。

 少しして、アルニオ国の門から新たに人が出てきた。カイラさんだ。お付きが何人か一緒。

 カイラさんの顔が渋い。なんだか後ろの人を気にしてるっぽいな。

 ……待って。もしかして、あれ、ヴェルナ様じゃないの?

 だから渋い顔なのかー。


「カナリア、なんか妙だぞ。あの魔道具、攻撃用じゃない。発射装置にも見えないし、火や水、矢が出そうな穴もないんだ」

「魔道具ではあるんですよね? 僕、父が作った魔道具以外はあまり見たことなくて」


 父さんが作る魔道具はちょっと変わっている。僕が前世の話をして、そのアイディアで作ったせいかと思ったけど違った。父さんは天才肌で他の人の発想とは一線を画しているらしい。

 だから普通がどんなものか、僕には分からないのだ。

 ユッカ先輩はチラチラと塔の上を確認しながら教えてくれた。


「魔道具なのは間違いない。セルディオ製は動力源に何を使っているのか分かりやすくするために露出させているんだ。ほら、レバーの下に丸い突起物があるだろ」

「ああ、金色の」

「魔金を使ってるって示してんだ。めっちゃ自慢してるよな」

「それ、自慢って言うかなぁ」

「どっちにしても、金が掛かってる。あの大きさの魔金を埋め込んでるんだぞ? かなり広範囲に発動させられるはずだ」

「だとしても、それがどんな魔道具かは分からないんですよね」

「ただの箱だからな。上から見ると円柱形になってんのか?」

「真上に穴があいてるのかも。見てきます」

「おう、気をつけろよ」


 速く移動すると狙われる危険もあるので、ふんわりと飛ぶ。とはいえ警戒はされてるだろうけど。

 一応、両手を挙げて飛ぶか。

 でもまあ、案の定ざわざわされた。兵士が集まってきて投擲の準備。石かな。魔道具かも。当たらない程度に上空へ行こう。真上に放つには力が要るしね。


「うーん、穴はなさげ。あれ? 小さなブツブツが見える。……あれも穴と言えば穴か」


 本当になんだろう。全く想像がつかない。シャワーとか?

 なんてやっているうちに、地上では本格的な話し合いが始まった模様。

 テーブルに椅子まで用意されてる。

 セルディオ側の人数が多いな。

 それにしても、サヴェラ副班長やシニッカ姉さんが来ないのも気になる。そりゃ、護衛として残る気持ちは分かる。でも一応、向こうには兵士もいるはずなんだ。騎士だって、騎獣乗りだけど残ってる。

 何より、こっちにカイラさんやヴェルナ様がいるんだ。捕虜を守るのは兵士だけにして残りは全員こっちへ来てもいいぐらいだと思う。

 もしかして、まだ確認が取れていないのかな。あるいはスパイが紛れ込んでいたとか?


 気になるけど、ここから離れられない。

 上空からの監視は大事だ。

 しかも、この高さまで飛べる奴はそうそういない。みんな飛べることに憧れはするものの、あまりに高いと恐れをなす。

 落下への恐怖はどうしようもないよね。パラシュートを持ってたって不安だ。前世と違ってパラシュートも完璧じゃないし。

 特にセルディオ人は飛ぶことに慣れてない。だから見上げるばかりで、僕の位置まで飛んで来られないようだ。

 僕は高い位置から見守った。



 動きがあったのはそれから少しあと。

 ミルヴァ姉さんが門まで行って、声を掛けている。

 しばらくして、セルディオ兵の捕虜が数珠つなぎで歩いてきた。

 あー、ここで交換って話になったんだな。腹立つけど、戦争回避するには盗賊野郎を返すしかない。

 ほとんどの騎鳥や騎獣を取り戻せたからってのもある。

 けど、以前に盗まれた騎獣鳥たちは返ってこないままだ。取り調べても証拠がないってんで犯人と断定もできなかった。ほぼほぼ奴等の犯行だって分かっているし、もう少しで証言も引き出せるってところで捕虜扱いになったんだよなぁ。


 納得いかないけど、仕方ない。


 こっちはそう思っていた。

 相手は違ったみたいだ。

 何か揉めている。

 身振り手振りから、偉そうな感じが伝わってくる。

 おそらく、セリアも連れてこいって言ってるんだろうなぁ。

 数珠つなぎの捕虜は待機中。ここで渡すと相手の戦力になるもんね。綱を解いたら即暴れそうな予感。


 と、その時だ。


「ちゅん……!」

「みみみみ」


 空気が震えてる?

 チロロが気持ち悪いと訴えた。ニーチェも様子が変だ。

 地上を見れば、敵味方関係なく騎獣鳥たちが蹌踉めいている。

 また、ぶわわんっと空気が震えたような気がした。風が吹くというよりは、振動。


「みみっ! みみみみみ」

「え、変な音がするの?」

「みっ」


 僕はハッとして塔の上を見下ろした。レバーの位置が変わっている。稼働したんだ!


「やっぱり魔道具だったんだ! 振動させてる……? あ、違う、音だ!」


 これ、人間には分からない音が出ているんだ。

 そうか、魔物寄せだ!

 僕は声を張り上げた。


「魔物を狂わす音が出ている! 魔物に気をつけて!」


 ギョッとしたのはアルニオ側の人たちだ。

 すぐに動いたのはミルヴァ姉さんとヴァロ。門に向かって走る。状況を説明して備えるためだ。なんたって森が近いのはアルニオ側である。

 ヴァロも護衛するつもりだろう。

 カイラさんやヴェルナ様を守るのは騎士で十分だ。


 シルニオ班長がすぐさま近くの騎士たちに何かを命じた。

 相手はどうか。王子が後方に移動している。やっぱりそうだ。奴等、最初から魔物を使うつもりだった。


「門を守れ、後退しろ」

「残りの捕虜を奪還する!」


 前者はアルニオ側で、後者がセルディオ側。

 カメールに乗った兵士が走り込むのをシルニオ班長が止める。


 僕がどうするか迷っていると、セルディオ側の門から天族が飛び出てきた。王子と入れ替わる形だ。

 ところが。


「待て、お前はオーガスト様の護衛だ!」

「うるさい、セリアを奪還できるのは俺だけだろ!」


 上官らしき兵士が真っ赤な顔で地団駄踏んでる。天族の子は気にせずアルニオの門に向かった。

 これは僕の担当だな。

 ユッカ先輩を見ると頷かれた。チロロは十分休んでいたからか、猛スピードで飛んだ。


 天族の子の前に躍り出たのは門を少し過ぎた場所だった。

 はい、明らかに領土侵犯です。


 幸い、戦えない人たちは僕の渡したテントに入っていた。防御力が超高いテントだ。魔物が襲ってきても耐えられる。しかも結界付き。

 天族の子が突撃しても撥ね除けられる。まあ、突撃なんてさせないけどね。


「くそっ、またお前か! 邪魔するな!」

「こっちの台詞だっての。いい加減、自分が何をやっているのか理解しなよ」

「はぁ!?」

「君がセルディオの人間だって言い張るなら、ここはアルニオの領土だ。君に兵士の上官がいるなら、つまりは君も兵士だ。勝手に入り込んだら捕まえる。捕虜にできるんだよ!」


 チロロは小型の騎鳥だ。小回りが利く。相手が天族であっても自在に対応できる。

 しかも、上手に飛ぶとはいえ相手はまだ未成年(だろう)。応用力に欠ける。

 天才と呼ばれ、天族の里では英雄扱いされていた母さんに、チロロは毎日のように扱かれていた。

 そのチロロに対抗できるわけがないんだ。


「ちょこまかと、うるさい!」

「君にとったらセリアは兄だろ。助けに来たの? 稀少な天族だから?」

「そんなわけないだろ! あいつは天族じゃない。恥知らずだ。ああ、お前と同じだな。お前も『面汚し』って言われてたんだろ?」


 可愛い顔してるのに、片頬を歪ませて笑う姿はなかなかに醜悪。

 教育が悪いとこうなるのか。

 ちょっと同情してしまう。

 けど、それは今どうでもいい。

 僕にとって大事なのは彼の台詞の方だ。


「はい、言質とれましたー」

「はっ?」

「僕がそう呼ばれていたのは十年前。それも、里長の息子やその仲間たちになんだよなぁ」

「それがどうした」

「ギリムとセルディオ国が繋がっていた証拠じゃん」


 それでもまだよく分かってないって顔。

 ダメだなぁ。

 ギリムたちだけでなく、セルディオにだって不利なのに。


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