103 バリスタ壊して小休止




 ヴェルナ様を捕虜の乗った馬車の前に降ろすと、すぐさま上昇。

 ヨニ先輩に詳細を話す暇はなかった。バリスタが稼働しそうだったからだ。狙いはシルニオ班長だと思う。敵の騎鳥兵を蹴散らす中心人物だからね。

 ヨニ先輩にはヴェルナ様が話してくれるだろう。というか、指示するかも。ヴェルナ様って生粋の指導者っぽいもんね。

 あっちは大丈夫。

 とにかく、先にバリスタ対策だ。


「チロロ、お疲れ様だけど、もう少し頑張って。塔の上のバリスタに向かうよ」

「ちゅん!」


 近付かせまいと敵の騎鳥兵がやってくる。相手をしてる暇はないから躱して素通りだ。

 すると、シルニオ班長とオラヴィ先輩がこっちの状況に気付いた。


「カナリア、こちらは大丈夫だ!」

「シルニオ班長なら俺に任せてくれ!」


 オラヴィ先輩……。いや、そうじゃないよね。班長大好きワンコめ。力が抜けそうになったじゃん。

 気持ちを立て直そう。


「よし、端から壊していくよ。チロロ、槍や矢が飛んでくるから気をつけて」

「ちゅん!」

「みみっ」


 ニーチェが返事をした途端に急降下。

 本当はバリスタを壊す方が楽だ。魔法をぶっ放せば、ノーコンの僕でも壊せる。ていうか、塔ごとなんとかできそう。

 でもそうなると、もう戦争なんだよなぁ。

 あくまでも防衛のための争い中だから、こっちから吹っかけるわけにはいかない。

 少し控えめなぐらいがちょうどいいのだ。


 ちなみに、この世界のバリスタは魔道具製で魔力が必要。つまり、発動を解除するための魔道具を投げれば止められるってわけ。


「一時間しか保たないけど、なんとかなるなる」


 ぶち当たった魔道具がカッと光る。近くにいた兵士たちが慌てて逃げるけど、それ爆弾じゃないから。

 ついでに部品の一つでも外しておけば一時間を超えても動かせないよね。その場に飛び降りる。

 可能なら動力源を外したいところだけど、そういうのは大抵奥まった場所に作るものだ。諦めて、手前のレバーみたいな棒を引っこ抜いた。

 身体強化魔法が効いているので簡単だった。

 兵士が急いで戻ってくるのを横目に、さっさと逃げる。


「チロロ!」


 旋回して戻ってきたチロロに飛び乗る。そのまま次の塔へ向かって急加速した。



 次々とバリスタを止めたけれど、半数を過ぎた頃から時間が掛かり始めた。敵もバカじゃない。僕たちを迎え撃とうと待ち構えている。

 ただ、なにしろチロロは速い。狙いを定めようとしても放った矢はすでに後方へ。では進行方向に放てばいいと思って狙ったらしい矢も外れる。チロロは急加速だけでなく急停止に転回も上手い。とにかく軌道がコロコロ変わるのだ。どうやっても当てられない。

 まぐれで当たりそうになったところで僕が打ち払うしね。

 身体強化で視力も良くなっている。飛んでくる矢の軌道を躱すぐらい、わけなかった。

 もちろん、バリスタから何度か矢は放たれた。二つ向こうのバリスタだった。間に合わないと悟った僕は、咄嗟に引っこ抜いていたレバーの棒を投げた。

 カーンと音を立てたよね。軌道もじゃっかんだけどズレた。

 おかげでシルニオ班長たちは無事。馬車にも届かなかった。


 なんとか最後のバリスタを止めた頃、ヴァロたち第二陣が到着した。

 同時にセルディオ側の門から騎獣に乗った兵士が飛び出てくる。騎獣の多くはカメールだ。何頭かはホルンヴォルフだった。シュティーアもいる。

 その頃には地上の馬車の周りにいたセルディオ兵は蹴散らされていて、アルニオ側に向かっていた。

 奪い返そうとカメールの数頭が先を急ぐ。が、そうは問屋が卸さない。ヴァロが急降下して邪魔をした。

 ヴァロとアドはそこで分かれた。アドだけ飛び立つ。ここまで乗せてこられただけでもすごいことだと思う。しばらく休憩させないとね。

 ヴァロは、騎獣に乗って駆け付けたミルヴァ姉さんと合流して無双状態。

 相手がカメールに乗っていようがお構いなしだ。

 その間にヴェルナ様の指揮で馬車はアルニオの門を通った。


「よし!」


 とりあえず第一目的達成。

 もちろん、まだまだ安心はできない。なんてったって、奴等はアルニオの領土に兵士を入れるような輩だ。

 緩衝地帯にいる間に話を付けておく必要がある。

 そのためにも外交官さんには頑張ってもらわねば!


「おーい、カナリア」

「あ、ユッカ先輩」

「助かった。お前のおかげで射られなかったわ!」

「ユッカ先輩、入り込みすぎでしょ。敵の騎鳥と混戦状態で助けようがなかったですよ」


 注意したのに、まるで褒められたみたいな顔で「わはは」と笑う。本当、可愛い顔してるのにオラオラ系だよなー。


「敵さん、騎鳥兵を引っ込めたな」

「皆がかなり数を減らしたからね」

「お前だろうが。えげつないほど落としたもんな」

「え、そこまで酷くないと思う」

「ははっ。そうだ、地上班は落ちた兵士を相手側に返したんだな」


 シルニオ班長とオラヴィ先輩はヴァロの応援に向かった。その間に地上班たちは馬車の護衛として門を出た。まだ戻ってきていない。


「ここは緩衝地帯だから縄を打つのを遠慮したんじゃないのかな。騎鳥だけは連れていってましたね」

「うちの国の騎鳥だろうしな。セルディオには騎鳥がいない」

「騎獣は不明ですかね」

「難しいな。悔しいが、人質が戻ってきただけでよしとしなきゃならない」

「やっぱりそうか~」


 門からヘルガ先輩とニコが出てきた。サヴェラ副班長とヨニ先輩は捕虜の方に残ったんだろう。外交官さんたちの馬車も着く頃合いだから護衛も必要だ。あと、ヴェルナ様がいるしね。


「このまま捕虜交換で上手くいくといいけどよ」

「まずはうちの捕虜がちゃんと揃っているかどうかじゃないですか?」

「だよなー」

「これ、でも、どうやって収拾するんでしょうね。話し合いで終わると思います?」

「それな。ここまで拗れて、ハイ終わり、ってなわけにはいかないだろ。うちだって面子を潰されてんだ。領土侵犯はないわ。いくらセルディオの十八番だっつっても、目の前でやられたんだぞ」


 言いながら腹が立ってきたらしい。ユッカ先輩が可愛い顔のまま「クソ」だとか「やっちまいてぇ」だとか物騒なことを言い出した。

 ユッカ先輩の暴走を止めてくれるヘルガ先輩とヨニ先輩はいない。

 僕はとりあえず「お腹減ってませんか」と声を掛け、収納庫からパンを取り出した。

 騎鳥にも固めビスケットを渡す。


「気が抜ける奴だな、こんな時によぉ。まあいいか。腹減ってたし」


 ユッカ先輩はもぐもぐしながらも、辺りをくまなく見ている。時折チラッと地上も確認する。


「地上は膠着状態だな。やっぱ、シルニオ班長が入ると場が引き締まるってなもんだ」

「あ、そうだ。オラヴィ先輩の後追い、ヤバくないです?」

「それな! あいつ、指示を都合良く解釈しすぎんだよ」

「あの人、もしかしてシルニオ班長が昔助けた動物か何かの生まれ変わりですかね」

「……ぶはっ、な、なんだそれ。いや、それ、ぐはっ」


 ツボに入ったらしく、笑いが止まらなくなった。

 ユッカ先輩、こういうところあるよね。まあ、これで肩の力が抜けたならいい。



 しばらくして、また塔の上が慌ただしくなった。セルディオ側の門も開く。

 門から出てきたのは王子だ。騎鳥に乗っている。何故か歩かせていた。飛ばないんだ。ふーん。

 塔の上には兵士たち。バリスタが動かせないと分かると、移動させて新たな魔道具を設置しようと頑張っている。

 見たことのない魔道具だった。


「カナリア、あれ、なんだと思う?」

「僕も初めて見ました」

「地上の応援に行くのと迷っていたけど、僕たちはこっちにいた方がいいかもな」

「ですね」

「あ、敵には天族もいるだろ? そいつが出てきたら頼むぞ。僕たちには無理だ」

「やっぱり出てきますよね~」

「出るだろ」


 だよねー。

 となると、どこから来るか、だ。


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