085 語るうちに語ってくれた、勉強会仲間
僕は愚痴を零すつもりで延々とギリムの悪行を語り尽くした。服を破られて背中を見られた話以外にも、普段から偉そうな態度で周りに迷惑を掛けていたからね。ネタはあるんだ。
僕に嫌がらせをしたのも母さんへの横恋慕が原因だと締めたところで、セリアが呆れ声で感想を口にした。
「あれだけ偉そうに話してたのに、やることはくだらねぇな」
「ねっ、ダサいよね! だからモテないんだよ」
セリアがぶっと吹き出す。
それから落ち着いた様子で僕をまたジッと見つめた。
「お前も俺と同じか」
「どうだろ。僕の背中の羽、こんだけしかないからね」
そう言って拳を握る。
「あ、見る? 自分だとちゃんと見えないんだよね。手は届くんだけど、独り立ちしてから羽のお世話に自信がないんだー」
「え、いや、マズイだろ」
「なんで? サヴェラ副班長、別にいいですよね」
「カナリアが良ければどうぞ。他に誰の目もありません」
「はーい」
OKもらったので脱いじゃう。
セリアが何故か慌てるけど、パパッと騎士服を脱いだ。
「ほら、背中」
「お、お前、女のくせになんてことを」
「僕、男なんだけど」
「えっ……?」
「申し訳ありません。あなたが勘違いしているかもしれないと気付いていたのですが、面白、いえ、口を挟めずにいました。彼、これでも正真正銘の男です」
サヴェラ副班長が助け船を出してくれる。
セリアはぽかんとしたあと、訝しげに僕の顔を見て、ゆっくりと背中に目を向けた。
「……俺よりも小さい羽だ」
「喧嘩売ってる?」
「い、いや、そうじゃなくて」
慌てるセリアがおかしくて笑うと、何故だか一緒に笑い出した。涙まで出てる。
それが良かったのかな。セリアはいろいろスッキリしたみたい。
大きな溜息のあとに、自分自身について語り始めた。
もちろんサヴェラ副班長がしっかりと調書に書き留めてくれたので問題なし。
僕は時々相槌を打つだけ。途中で脱線しかけた時に「こっちこっち」と呼び戻す役どころだった。
お互いに服を着直し、昼食も一緒に摂って夕方まで過ごすうちにセリアは僕らに慣れたみたいだ。
最後の方は友達みたいな感じで、彼の大変な人生について語ってくれた。
「そっか、セリアは滑空程度には飛べるんだね」
「ああ。だから父から『使えない』と言われても、向こうの奴等には『使える』と思われたようだ。無理矢理、軍に入れられた」
「兵士扱いじゃなかったって言ってたよね?」
「ああ。奴隷扱いだ。今回の作戦にも無理矢理連れてこられた。カナリアは幼い頃に天族の里を出たなら知らないかもな。天族は騎鳥と同調しやすい。空の飛び方も指南できるんだ」
「あ、それ、知ってる」
「母親が教えてくれたのか?」
「うん。風の読み方、使い方も教えてくれたよ。母さんは里でも有名人だったんだ。だからかな。ギリムが執着しちゃって」
「あいつか」
「うん。あ、そうだ、セリアはお父さんから天族の里について教わってなかったの?」
「俺は『使えない』息子だからな。ただ、小さい頃に何度か『俺の父親は里長だ』と自慢していた気がする」
ふんふん頷き、僕は衝撃の事実をセリアに告げた。
「残念なお知らせです。セリアとギリムは従兄弟になるよ」
「……嘘だろ?」
「今の里長の息子がギリムだもん。セリアのお父さんの年齢を考えると、たぶん里長の弟になるんじゃないかな」
嫌そうな顔をするセリアに「分かる~」と同意した。あんな奴と近い関係って嫌だよね。
セリアは羽が育たなかったことで父親とは交流がないらしい。
捕虜になった父親は最初は奴隷だった。協力関係が続いたせいか、今は奴隷の身分じゃないんだとか。積極的に働いているとセリアが証言した。子供はもう一人生まれて、その子は天族らしい羽を持っている。
「俺は父が奴隷の時に生まれたから奴隷の身分のままだ。あとから生まれた子は平民になる。そのうち、貴族に売られるだろうがな」
「えっ」
「天族が増やせると、上の奴や父が話していた」
僕が困惑したままセリアを見つめていると、彼はハッと鼻で笑った。
「父と一緒に捕まった天族は反抗して、実験の末に亡くなったそうだ。元々怪我を負っていたらしいが……。そんな国なんだよ。俺だって、やりたくてやってるわけじゃない。逆らえなかったからだ。今回の作戦で逃げられるかもしれないと思っていた。でもダメだ。こんな羽じゃ、どこへも行けない」
「そう」
「俺に生殖能力があれば父のような暮らしができたかもな。けど、それは無理だった。魔法もほとんど使えない」
なんとも言えず、僕の顔はしょんぼりになったと思う。セリアは呆れ顔で笑った。
「お前、よく騎士なんてやってられるな。そんなんじゃ、しんどいだろ」
「しんどいけど、しんどいって思える自分が好きだからいいんだ」
「……そうか」
雑談は大事。
サヴェラ副班長はずっと書いている。ちゃんと知られてほしい。セリアの人生について。
犯罪を手伝っていたのなら罪に問われるかもしれない。だけど、どうにもできなかった人生なんだ。救われてほしいと思う。
調書を見せてもらったら、淡々と客観的に書かれてあった。そこに悪意はない。調書の書き方は人それぞれで、ゴリゴリの主観で書く奴もいる。それは悪い例として習った。
僕は試験を受けて準騎士になったものの、それは最低限の知識を確認されただけ。あ、体力があるかも調べられるよ。だって捕り物の時に走れないと意味ないもんね。他に得意なものがあれば加味される。僕の場合は自分の騎鳥を持っている上に乗れちゃうってところと、魔法も使えるというところが加点になった。
とはいえ、騎士学校でしっかり学んだ人よりも勉強は足りてない。当たり前だ。
だから、その分を補うために仕事の合間で勉強する。強制です。その代わり、上司の推薦と二年以上の勤務実績があれば騎士試験が受けられる。
ただで勉強させてもらえるのだから有り難い話だ。もっとも、準騎士は騎士のお手伝い的なところがあるし、従者からすれば大変だよね。
週に一回は仕事終わりに講習会もあって、疲れて居眠りする準騎士もいる。
そんな状態の時に調書を読まされるんだ。そりゃ眠くもなる。先生役の騎士に当てられて困った同僚に、僕は横から何度も助けてあげた。
その勉強会仲間が、セリアの調書を全部写してきてくれたのだ。ちょうど上司にも調書の写しが欲しいと言われていたらしい。魔道具を使うため、まとめてやると無駄がないのだ。
「ありがと。あ、やっぱり『悪い例』の調書があるよ」
「えぇ? だから、うちの班長も写しを取れって指示したのか」
「そっちの班、途中で補助に回されたんだっけ?」
「そうなんだ。交代した班の一人に居丈高なのがいてさ。うちの班長が心配してた」
「良い人だね」
「公正な方だよ。ちょっと真面目すぎるところはあるけど」
「あー、そのせいで残業が多くなっちゃうのかー」
「お世話もあるし、俺も休めないんだよな」
「お疲れ様ー。今だけ少し休憩したら? ソファ空いてるよ。お菓子もどうぞ」
彼は一瞬驚いて、それから破顔した。
「もらうよ。最初は変わってると思ったけど、カナリアって面白いし優しいよな」
変わってるも面白いもニュアンス的にどうなの。でもまあ、疲れた顔の仲間がまだ笑えるならいっか。
シルニオ班の執務室には誰もいないので今の僕は自由だ。事務仕事も片付けた。だから調書を読む時間もあるってわけ。
しばらくして、準騎士の彼が「そろそろ戻るよ」と立ち上がった。
で、ドアのところでふと振り返った。
「なぁ、会議、長引いてないか?」
「そういえば長いね」
シルニオ班長やサヴェラ副班長が帰ってこないことに気付いたみたい。彼の上司も出席してる。普段の会議とは別に、緊急で呼び出されたものだ。事件が起こると召集される。
騎士団が出張らないといけない事件が起こったのかなと思っていた。
「厄介な事件かもしれないな。盗賊団の件だってまだ片付いてないのに」
「セルディオ国と話が進んでいないんだっけ」
外交官が調整に入ってるそう。ただ、向こうは認めてない。なんか「我が国の兵士だという証拠はあるのか」と言ってるんだって。
盗賊団のほとんどは自白しちゃってるのに往生際が悪いなー。
とにかく、僕らはぽっかり空いた自由時間を有意義に過ごそうと話し、そこで別れた。
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