084 普段のお仕事とやっぱりの予定調和
しばらくは天族と無関係に仕事をこなしていた。
主に、無銭飲食&騎鳥盗難事件の犯人を尋問して芋づる式に仲間を捕らえるってお仕事だ。ちなみに、最初の一人が成功したあと自慢げに吹聴したせいで「だったら俺もやる」と仲間が増えていったらしい。最初はこそこそやってたのに、成功に味を占めて徐々に大胆になっていった。
外国人の振りをすることで捜査の目を掻い潜り、仲間内で警備隊をバカにしていたとか。情報共有した警備隊からは怒りの声が上がった。
騎士団できっちり締め上げて裁きの場に送ったので敵は討ったよ。犯人たちは奴隷落ちだ。被害を受けたお店に賠償できれば多少は罪も軽くなったかもしれない。でも「無い袖は振れない」とかで奴隷として買い取ってもらう形で賠償金とした。
他に、傭兵ギルドの依頼で魔物狩りにも行った。泊まりがけで少し遠い森に訓練を兼ねた遠征だ。僕の実力が知りたいと、女性の傭兵も一緒だった。すごく褒められた。見た目が可愛いのに強いというのは、敵を欺くのにちょうどいいそう。テント泊では一緒に寝たし、なんだろうな、ヌイグルミみたいな感じで可愛がられた。
最初は妬ましそうな視線だったのに、男どもときたら「可哀想になぁ」とニヤニヤ笑う。仕返しは簡単だ。女性方に「あの人たちに礼儀を教えてあげて」と言えばいい。
女性傭兵の仕事の大半が身分のある女性の護衛だ。礼儀作法の勉強は常にしている。獲物を見付けた彼女たちは空き時間に男どもを鍛え上げた。
そんな楽しい遠征の途中、ヴァロが商人の馬車を襲う盗賊を発見した。ウキウキで真っ先に抜けたよね。僕も誘われた。そんな「遊びに行こうよ」みたいな気軽さでいいのかと思いつつ、女性傭兵に「これも経験よ」と言われて仕方なく手伝った。
今回は犯罪が未遂に終わったので生け捕りで済んだ。町も近かった。引き渡せばお金も手に入る。とはいえ盗賊は盗賊だ。過酷な刑務所に送られればいい。
と、そんなこんなで天族については忘れていた。
なにしろ僕の耳には何も入ってこなかった。皆が隠してくれていたんだ。
ところが、尋問は遅々として進んでなかった模様。
ある日、突然「依頼」が来た。
それまではサヴェラ副班長が偉い人を止めてくれてたんだろうな。
その偉い人たち、つまりライニオ団長とホイッカ団長補佐が直々にお願いする。
「カナリア、君に頼むのは申し訳ないと思うが、捕らえた天族と話をしてくれないか」
「話をするぐらいなら構いません。けど、僕は尋問なんてできませんよ? それと、ギリムとは会いたくないです」
「もちろんだ。君を暴行の加害者に会わせるつもりはない」
「あ、団長もご存じなんですか」
「噂でだが。すまない。君にとっては思い出したくもない話だろう。わたしも許せない気持ちでいっぱいだ」
真面目なライニオ団長が心苦しそうに言う。もしかして僕がボコボコにされたと思ってるのかな。
反対にホイッカ団長補佐は妙な笑顔のまま。これ、サヴェラ副班長に事実――ボコボコにされる前に助かったこと――を聞いてるな。
「ありがとうございます。あいつを見たら殴りたくなるので良かったです」
「カナリアの手を汚す必要はありませんよ。あのような小物、放っておきなさい。いずれ天罰が下ります」
ホイッカ団長補佐が言う。なんか良い話っぽいけど、言い方が怪しいんだよな。信心深いタイプじゃなさそうなのに。まさか騎士が代理処罰するとかないよね?
まあいいや。知らないフリしておこうっと。
それより。
「じゃあ、話をします。今からですか?」
「ええ。補佐はカナリアに慣れた者がいいでしょう。サヴェラ副班長に任せます」
「承知いたしました。ヨニ、わたしの代わりに残りの仕事を頼みます。シルニオ班長、行ってきます」
「頼む」
他の班員は訓練に出ている。うん、今日も今日とて僕らは事務仕事だったのだ。ヨニ先輩と僕ぐらいしか、まともに働けないんだよね。ニコも騎鳥との訓練が必要だ。ヘルガ先輩やユッカ先輩は、能力が体を動かす方面に全振りしてる。
シルニオ班長の犬、もといオラヴィ先輩もあれだけ「班長大好き」って言ってる割には事務仕事を覚えようとしない。本人は覚えられないって言ってたけど。やっぱり犬なのかな。
ともあれ、僕は騎士団の奥にある取調室へと向かった。
捕まってる天族はセリアという名だそう。本人は名乗ってない。他の奴等の証言で判明した。
年齢は十九歳で男だ。父親が天族になる。セルディオ国の捕虜になって過ごすうち、宛がわれた女性の捕虜との間にセリアが生まれた。天族を増やそうとしたんだろうという話だった。
ただ、相手は人族だ。そうそう思惑通りになんていかない。
そんな情報を教わりながら取調室に入った。
机を挟んだ向こう側にセリアと思われる青年が座っている。
僕は半眼になった。だって、びっくりしたんだ。
「いくら夏だからって、上半身裸にするのはまずくないです?」
開口一番、そう言った。
見張り役の準騎士が嫌そうな顔をする。なにそれ、どういう感情。犯罪者なら何してもいいの? それなら裁判なんてする必要ないじゃん。そもそも、セリアは被害者かもしれないんだよね。だからこそ慎重に調べているんじゃなかったの?
「ちっ。同族には甘いようだな。所詮は辺境のガキだ。物知らずめ」
「あ、そういう感じなんだ。へー」
だけど、僕は「虎の威を借る狐」のプロです。これまでは父さんの名を使っていましたが、今日はなんとサヴェラ副班長がいます。親分、さ、やっちまってください。
という感じで、廊下にいたサヴェラ副班長を取調室にどうぞって手で案内。
冷たい顔したサヴェラ副班長が、見張り役をロックオンした。
「は、あの、何故サヴェラ副班長殿が?」
「わたしはカナリアの補佐役です。ところで、あなたの上官は一体どなたでしょうか」
「いえ、それは」
「彼の処遇はまだ決まっておりません。最初に留置場へ入れる時ならいざしらず、もう何日も経っている今の状況で裸にする必要はないはずです」
「し、しかし、こやつらは!」
「性的虐待を行うつもりでしたか?」
「はっ? まさか! 違います、こいつらは羽を使うから!」
「羽ばたいて逃げたのはギリムだけです。セリアがやりましたか? ああ、あなたの理由は結構。言い訳を聞くつもりはありません。後ほど、上官に厳しく抗議しましょう」
真っ青になった準騎士があわあわして言い訳しようとする。それをバッサリ切るのが我等がサヴェラ副班長です。
サヴェラ副班長は冷たい視線のまま出ていけとオブラートに包んで、包めてたかな、とにかく追い出した。
二人もいたら見張り役は要らない。役立たずは出ていってどうぞ。
「騒いでごめんね。服はすぐ持ってくるから」
僕は対面の椅子に座った。軽い調子で話し掛けても、セリアは虚ろな様子で黙ったままだ。
そりゃ、こんな対応されたら答える気になれないよなぁ。
サヴェラ副班長が通りがかった騎士に「服を」と声を掛けてから、扉を完全に閉めた。それから部屋の隅にある椅子に座る。本当に補佐役に徹する気だ。
僕は仕方なく、溜息を噛み殺してセリアに向かった。
「最初に連れてこられてから、ずっとこんな感じだったの?」
「……」
答えてくれないよなぁ。僕は置いてあった調書をパラパラ捲ってみた。
「一応、昨日までの記録では普通の尋問みたいだね。この内容だと、口調は強かったかもしれないかー。騎士の中には偉そうな人がいるもんねぇ」
セリアがふと顔を上げた。僕をジッと見ている。徐々に視線が定まってくるのを、僕は真正面から観察した。
「……もしかして、お前も天族なのか?」
「僕は違うかなぁ」
「たまたま、そんな色なのか」
「うーん。僕は天族に『面汚し』って言われたんだ。あんなのと一緒にされたくない」
セリアが目を瞠る。
「僕、母親は天族なんだけど、父親が人族なんだ」
「嘘だ、ろ……」
「こんなことで嘘吐かないよ。取り調べの最中に天族が来なかった? 問題起こしたバカ」
「あ、ああ」
「名前も呼びたくないぐらい嫌いなんだけどさ、ていうか最近まですっかり忘れてたんだよなぁ。あ、そうそう、あいつに服を破られたんだ」
「は?」
「五歳の時に、皆の前で。ヤバいと思わない?」
「……ヤバい、な」
だよねーって首を傾げる。強引に同意を要求したのに、セリアは意外にも素直に頷いた。
********************
◆宣伝◆
「小鳥ライダーは都会で暮らしたい」が発売中です!
ISBN-13 : 978-4815626181
イラストは戸部淑先生
購入特典の書き下ろしもあります(QRコードで読み込むタイプ)
近況ノートにも情報載せております
別作品の「魔法使いと愉快な仲間たち」2巻も発売中です
どうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます