072 少年少女の背伸びと引率ヴァロと裏通り
ほどなくして、サムエルたちとオシャレなレストランへ行こう会が開催された。
ヴァロは皆と合流するまでは緊張していたけれど、全員が揃ったところで力が抜けたみたい。
「ガキばっかりじゃねぇか」
「だからそう言ったよね」
「緊張して損した」
「マリーとデートする時の予行演習だと思えば? 子供でも女の子は女の子だよ」
「お、おう、そうか」
花祭りで知り合った女の子たちは十五歳前後がほとんど。サムエルの友人は上が十九歳だったかな。十九歳とはいえ、男って幼いところがあるじゃん。精神年齢は十五歳レベルだ。
僕も含めて、みーんなガキんちょなのである。
ヴァロは子供たちの引率係をそつなくこなしてくれた。
女の子たちが行きたかったオシャレレストランも、僕やヴァロからすれば「そう?」って感じ。夜になると専門のバーテンダーが入る、いわゆるカジュアルレストランだな。
臆するような場所でもなかったからヴァロも堂々としていたし、子供からすれば頼もしく見えたようだった。
女の子の中には「ヴァロさんって素敵」と言う子もいたんだけど、肝心のヴァロはもう「ガキ共」認定してしまってる。適当にあしらってた。
僕には十八のマリーと十五の女の子たちの違いが分からない。年齢差は十歳までと決めているのかな。どちらにせよ、子供に手を出すような悪い大人じゃなくて良かった。
「よっ、ヴァロ兄貴」
「なんだそれ」
「褒めようと思って」
「お前マジでたまに訳わかんないよな」
「えー」
「分かる。俺もカナリアがたまに変だって思うもん」
「あたしもー」
「俺も俺も」
みんながからかい始めたので、僕は分かりやすく膨れっ面をしておいた。
その後、女の子たちに付き合って中流層が行くようなお店巡りを楽しんだ。大人がいるからと、機会を逃さない女の子はマジ強い。
彼女たちの逞しいところは他にもある。僕らには騎鳥がついていた。騎鳥持ちはそれだけで一目置かれる。お店の人も快く入れてくれた。子供が多いと嫌がる店もあるからね、騎鳥様々だ。
背伸びしたがる少年少女たちが「ほぇ~」「すごい」と感動する中、僕とヴァロは交互に何かを買った。やっぱり何も買わずに見学だけというのも悪い気がするし。
警邏の時に挨拶してた人もいて、これも付き合いだ。
ヴァロは自分が普段行かないようなオシャレ洋服系は戸惑うらしいのに、自分と全く関係ない店は平気らしいよ。もしかしたら「引率」っていう意識があるおかげで平気になったのかもしれないけど。
ともあれ、なんだかんだで楽しい。
しかもなんと、僕は可愛い雑貨屋さんを発見した!
「こんな店、俺も知らなかったよ」
「あたしたちもこの辺りは全然来ないから」
「俺も警邏で来たことねぇな。ていうか、お前らの住んでる場所からは離れてるだろ。迷路みたいな裏通りだ。自分たちだけで来るんじゃねぇぞ?」
「はぁい!」
人が一人しか通れないような裏道の裏道みたいな場所に気付いたのは僕。チロロたちには手前の裏通りで待っててもらい、僕はフラフラと入っていった。
後を追うように数人が付いてきて、僕が店を出てくるのを待っている状況。
お店も一人しか入れないぐらいの狭さ。
だけど超可愛い小物がギュギュッと置いてあるのだ。
もうね「うひょー!」って感じ。奇声を発しないだけマシと思ってね。
「こんなミニチュアのランプなのに、ちゃんと灯るんですね」
「そりゃそうだ。ミニチュアでも動かなきゃ意味がないよ」
「まるで妖精のためのお店ですね」
「ふふ、そりゃ、ここは妖精のための店だからねぇ」
「えー、すごい。じゃあ、僕が買ったらダメかなぁ」
「……あんた、本当に欲しいのかい?」
「はい! だってすごくすごく可愛いです。ドレス付きのトルソーもいいな。こっちの猫足ドレッサーも最高です。迷うけど、やっぱりランプだと思う。ガラスが良いですね。素材も本物の、あれ、違うな。もしかして竜の尾骨を砕いて作った……?」
この世界の竜は蜥蜴タイプの、いわゆる飛竜に近い。
魔法を使う上、人間を襲うこともあるので魔物扱いである。
そう、魔物のほとんどは地を這うと言われている中、例外が竜だった。
空を飛ぶので厄介な魔物になるわけだけど、幸い奴等は人間の生息域まで滅多に飛んでこない。人間を襲うと言っても食いでがあるわけじゃないからだ。あの巨体を維持するためには常に食べていないとダメで、効率よくエネルギー変換するのなら大きな魔物が一番である。つまり、わざわざ自分たちの棲む場所を離れてまで遠征する意味がない。
父さんも昔、竜を狩りに行くと言って家を出たそうだけど、随分と長旅になったそう。
かなり険しい森林地帯に棲んでいるらしいよ。
しかし、そこまで行くだけの価値はある。竜は空を飛ぶ凶暴な魔物と同時に、素材の宝庫なんだ。
父さんは若い頃に何度も狩りに行ったそうです。
「あんた、よく分かったね。見る目があるじゃないか」
「父が素材と一緒に出来上がった先のものまで見せてくれたんです」
おばさんの目がキラリと光る。
「ほほう? あんた、どこぞのお坊ちゃんかい?」
「……僕を初見で男だと見抜いた店長さんも見る目がありますね?」
二人で顔を見合わせ、同時にニヤリと笑う。
おばさんとは話が合いそうだ。
「いいだろう。あんたになら売ってもいい。そのランプ、本来なら金貨一枚はする代物さ。だが初回特典サービスとして銀貨一枚にしてやろうじゃないか」
「それは太っ腹すぎない?」
十分の一じゃん。
いや、小物に銀貨一枚というのも高すぎるわけだけどさ。
「おや、乗ってこないね。冷静さもある。偉いよ。大抵の客は値段を聞いて怒って帰るのさ。だが、あんたは違うね」
「素材が良いのはもちろん、こんなに小さくて、しかも実際に使える道具は手間暇が掛かっているもの。高いのは当然として、だからこそ逆に値引きしすぎるのが気になるなって」
「ふふ。いいねぇ。そもそも、この通りを見付けられる『目』があるのも良いよ。ましてや、素材を見抜く『目』だ。そうそう、値引きの理由だね? あたしはあんたの『目』が気に入った。それに竜の素材とその先の品まで見せてくれる父親ってのにも興味がある」
「あー、なるほど。でもそこからの仕入れは期待しないでください。今、父さんに頼むと見返りに何を要求されるか……」
ブルッと震えた。
昨日も伝声器の向こうで「言い訳用の魔道具を作ったから取りに戻る?」とか「俺が行こうか」とか言ってたからね。どっちを選んでも、しばらく離れてくれない気がする。
そんな父さんだけど、母さんと離れているのも嫌だから絶対一緒に来るはず。
母さんを連れて王都観光するのは自由だけど、僕も巻き込まれそう。
仕事は休まされるね。賭けてもいい。
……うん、ないな。
「ほっほ。大丈夫さ。いずれまた話を聞かせておくれよ。それでいい。きっと面白い話が聞けるだろうからね」
「あー、はい。僕もまたお店に来て眺めてもいいですか。買い集めるのは難しそうなお値段だから」
「構わないよ。このカードを渡しておこうね。近くまで来たら、光るようになっている。店が閉まっていると光らないから目安にしな」
「わ、ありがとうございます。これも可愛いなぁ。細かい彫りが入ってる」
まるで妖精の翅みたいだ。向こうが透けて見える。
翳してみると煌めいて、本当に翅のようだった。ステンドグラス柄の栞みたいなカードは薄くていかにも壊れそうなのに、曲げても大丈夫らしい。とはいえ綺麗だからね。僕は大事に腕輪型収納庫に仕舞った。それを見て、おばさんはまた「ほっほ」と笑った。
「おや、そろそろ店を出た方がいいようだ。お友達が待ちくたびれているよ」
「あ、忘れてた! じゃあ、これ」
いつの間にか包んでくれていた小さなランプを受け取ると、おばさんは本当に銀貨一枚だけを受け取って頭を下げた。
「ありがとよ。またおいで」
「はい!」
僕は良い買い物をしたと、幸せな心地で店を出た。
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