064 招待状と必要な服や情報あれこれ
あ、一部の騎士とは仲良くなれてない。誰とでも気が合うなんて話はないから気にしてないよ。みんな仲良くなんて、それこそ幻想だ。
僕としてはサヴェラ副班長やシルニオ班長という後ろ盾もいて、なんだかんだで仲良くしてくれる同僚もいるから平気。遊びみたいな訓練も楽しいし、そんなわけだから特に問題もなく過ごしていた。
騎士団で三日働き、その次は傭兵ギルドの依頼で森を見回る。このルーティンにも慣れた。
そんなある日のことだ。
騎士団を通して僕に貴族からの招待状が届けられた。
「え、お礼? 貴族が、僕にですか?」
「ええ、そうですよ。君にです。覚えていませんか。以前、シュヴァーンを助けたでしょう?」
直近で助けたと言えば、盗賊団に攫われたアウェスやファルケだった。盗賊団から救い出した件で、持ち主や騎鳥のブリーダーさんにはすぐお礼を言われた。当時はまだ準騎士って身分じゃなかったから「ご褒美」ももらった。騎士だと個人的に受け取ってはいけないんだって~。宿の従業員もチップをもらうと同じ仕事仲間で分け合うらしいから、騎士団もそうなんだろうな。
ともあれ、臨時収入にホクホクしたのは記憶に新しい。
で、当然だけどお礼を言われるような話はもうないと思い込んでいた。
だけど、そう言えば町中で堂々と騎鳥が盗まれる事件があったよね。
思い出した。
「あっ、あれか!」
「君が王都を抜けてまで森に入り込み、取り返した『あれ』です」
「……サヴェラ副班長、なんか顔が怖いです」
「よく言われます」
にこりと笑い、手にしていた手紙を僕の胸に押し付ける。
「騎士団のトップを通して届きました。つまり、拒否はできません」
「うぇ」
「団長から『必ず出席するように』との伝言です。厳命でしょうか。その代わり、仕事扱いになります。賃金が発生しますよ。良かったですね。諦めて行ってらっしゃい」
「うぇぇ」
サヴェラ副班長は楽しそうだ。
ちなみに今いるのは執務室。呼び出されて伺ったのはシルニオ班長の執務室で、副班長もここで事務仕事をするらしい。騎士団には機密情報が多いから、文官がやるような仕事も隊員がやる。経理や総務といった部署も、怪我で現場に出られなくなった人が就くという徹底ぶりだ。
だから、お茶も隊員が淹れる。
僕の目の前にはサヴェラ副班長が手ずから淹れたハーブティー。
「あ、これ」
「馴染みの店にカナリアから教わった配合で依頼したのですがね。なかなか同じ味にとはいきません」
「母さんが育てたハーブは特別ですから。それにあの山も特別だった気がします」
「神の山ですか。
「たぶん、本当です」
サヴェラ副班長は呆れたような顔で笑った。
「そこで断言できないのが君らしい。賢者だという父君のことも『大袈裟に話している』と思っていたそうだね?」
「えっと、まあ。あ、父さんには内緒でお願いします。バレたら、すごく面倒なことになるんです」
「ふふ。分かりました。それはそうと服装規定について話し合いましょうか。招待状には『お茶会に招きたい』とあるはずですが、君、貴族家に招かれるに相応しい服を持っていますか?」
「えっ。騎士服じゃダメなんです?」
準騎士は式典で着るような儀礼服は支給されていない。何か、すごい頑張った時には急遽借りられるらしいけど。
あ、今回も仕事扱いなら貸してもらえるのかな。
僕がワクワクした顔でサヴェラ副班長を見つめると、溜息をつかれた。なんで。
「……確認して良かったです。賢者のお子様であれば持っているのではないかとも思いましたが、そうですよね、神の山で暮らしていたのでした。では、わたしの小さい頃の服を貸しましょう。誂える時間はありませんしね」
「いいんですか?」
「体型が一番近くて、それなりの服を持っているとなれば、わたししかいません。ただし、君の今の体型に合わせると、どうしても幼い頃の服になります。型遅れですし、年齢にも合っていません。厳しい方が見ればダメ出しするでしょうが、仕方ありませんね」
「えっと、ごめんなさい?」
僕が迷いながら謝ると、サヴェラ副班長は目を丸くした。それから微笑み顔に。
「カナリアが悪いわけではありません。突然、呼び出す貴族の方が悪い。とはいえ、今回の相手方に悪気はないのです。生まれた時から貴族で、しかも貴族らしい貴族の家で育ち、それが当然だと思っています。平民がどう感じるのか、その暮らしについて本当には分かっていないのです」
「もしかして呼び出した貴族家とは知り合いですか?」
「何度かお目に掛かったことはあります。ただ、実家関係ではなく騎士としてです」
「……嫌な予感」
「ふふ。カナリアは察しが良いですねぇ」
今の口ぶりだと、実家が対等な付き合いをしていないって意味に取れる。サヴェラ副班長が子爵家出身ってことから考えるに、相手は上位の身分じゃないかな。
え、待って。
招待状には名前しか書いてない。まさかそんな上位の貴族とは思っていなかった。貴族は貴族だからいいやと思っていたけど、上位貴族の場合はちょっとのマナー違反で一発アウトになるんじゃないの。
うーん。
いや、国王様でもない限り大丈夫かな。
それに何より「お礼」で呼ばれるわけだもの。お目こぼしはある。はず。たぶん。
「サヴェラ副班長、付き添ってくれたりは――」
「しませんよ」
「めっちゃ速く断る~」
「カナリア、口調」
「うわ、はい。気を付けます」
「君は朗らかなので皆も強く言いませんが、丁寧に話せるのだから普段も気を付けていなさい。全く、ニコに世話を任せたばかりに……」
頭が痛いと手で押さえる。
確かに、シルニオ班に配属されたあとはずっとニコが先輩役だ。訓練は全員でやるけどね。チームを組む場合は必ずニコが入ってる。
座学もニコと一緒だ。新人同士でちょうどいいって、シルニオ班長も言ってた。いわゆる相棒扱い、ペアだ。
もちろん、他のシルニオ班の人たちにも良くしてもらってる。班長たちの手伝いで忙しそうだけど、会えばお菓子をくれたり頭を撫でてくれたりと優しい。
「ニコは明るいのでムードメーカーになりますが、身分が平民に近いせいか規律に対する考えが緩いのです」
「準男爵出身でしたっけ」
「よく覚えていますね」
「そりゃ、同じ班の人の情報ぐらいはさすがに」
「ふむ。カナリアほどとは言いませんが、ニコもそれぐらい覚えてほしいものです」
「隊員同士でもいろいろありそうですもんねー」
「ほら、そういうところですよ。頼りにしていますからね。さて、服は明日にでも届けさせましょう。手伝いも寄越します。直しが要るでしょう。明日も訓練は半日で上がりなさい」
「はい!」
訓練は楽しいけど、こうして呼ばれるとおやつがもらえるので嬉しい。
僕は出されたおやつを食べて、ハーブティーを飲み干した。
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