063 なんだかんだで訓練して仲良くなり、幻想……
模範飛行の会ではいろいろあったけど、とりあえず僕の実力については信じてもらえたようだから結果オーライ。
もっと続けようかと提案してみたものの、皆に断られた。速攻だった。
ふと、僕が見せた飛行を皆もできるか聞いてみたら、頭をブンブン振られたよね。
そっかぁ。でもさ、あれぐらいはできないとダメじゃない?
という、準騎士になったばかりの僕の一言で見学者の皆さんはやる気になったよう。
騎鳥を引き出してきて訓練を始めた。
シルニオ班長も安心だね。ただ、サヴェラ副班長はまだ渋い顔だった。それがちょっぴり気になった僕です。
そんなこんなで、無事に騎士の皆さんとの顔合わせも済んだ。
しばらくは、皆と一緒に訓練をしながら過ごすらしい。急ぎの案件は盗賊団の取り調べぐらいで、ペーペーたちはお暇なのもある。下っ端は訓練やっとけって話だね。
もちろん第八隊には見回りもある。
ただ、僕の場合は免除だと言われていた。
なんといっても僕は今、時の人なのだ。しかも傭兵ギルドの会員として知られている。もし声を掛けられたら仕事にならない。だもんで、少しの間だけおとなしくねと言い渡された。
別にそれでもいいんだ~。訓練でも賃金は発生するからね。むふふ。
騎乗訓練では、いつの間にか僕が指導役になっていた。
普通は騎乗の得意な先輩方や外部の教習所から先生を招くらしい。でもほら、彼等から見ても僕の騎乗は「問題ない」そうで「だったら同僚同士で頑張ってね」ということになった。
有り体に言うと経費削減って奴です。外部に指導を頼むと礼金が発生するもんね。世知辛い。
他の訓練の場合はどうか。実は体術も僕の一人勝ちだった。
剣術はまともに打ち合ったら負けるので得意の戦法「素早さ」で勝つ。めっちゃ怒られたけどね。打ち合え、だってさ。そのせいで、たった一回受けただけで剣を落としちゃってさ。手がブルブル震えたよね。
捕り物関係も追いかけるまでは僕が一番だった。そこまではいい。ただやっぱり「安全に」取り押さえるのって難しい。
そう、僕は対人戦が苦手なのだ。加減ができない。
薄々分かってた。盗賊団を相手取った時も思った以上に時間がかかったし。
相手を怪我させずに捕らえるのって本当に大変。
怪我をさせないのは万が一を想定してだ。
たとえば、誰かが「あいつは犯人だ」と訴える。その仲間も口裏を合わせて証言する。全員が被害者ぶった演技をしたらどう? それが女子供だと、捕縛する側の気持ちにも影響しちゃう。
もちろん、後々調査はするよ。裏付け捜査って奴だね。
それで冤罪だって分かった時に、ごめんなさいと謝ってももう遅い。だから捕縛時に怪我をさせるなんてもってのほかなんだ。
犯罪者が女性の場合も難しい。セクハラの問題もあるし、そもそも男性より柔いし弱いしね。お年寄りもそうだ。
そのため安全に、しかしがっちりと捕らえる必要がある。
こういう時にがたいの良い男性は有利だ。体の大きさや重さで相手の動きを封じることができる。抱き留めるだけで押さえ込めるのは便利だよね。相手も抗うのを諦めるし。
僕の場合は「小さい軽い」で、まず押さえ込めない。あと、とにかく舐められやすい。
大前提として見た目に問題があるんだよなぁ。
その証拠に――。
「俺、カナリアと組み手したくねぇんだけど」
「分かる」
「あいつが男だって分かっていても、間近で見上げられるとドキッとしちまうし」
「それな。下手な女より可愛いもん」
「いっそ女ってことにして、組み手をやればいいんじゃないか?」
「どういう意味だよ。お前、変なことすんなよ? ニコにぶち殺されるぞ」
「あいつ、カナリアを守ってるもんなー」
「ちょ、俺はそういう意味で言ったんじゃねぇ。女が相手だと捕まえるのが難しいだろ! 練習だよ、練習」
というのを、騎士団の更衣室で話している。
聞かれて困る内容でもないらしいし、悪意があるわけでもない。
本当に僕と組み合うのが「嫌だな~」と思ってるだけのこと。だから僕も気にせず入っていく。
「はーい、やりづらいカナリアが来ましたよー」
「げっ」
「こいつはこういう奴だった」
「そうだそうだ。可愛くて繊細そうな顔してんのに、めちゃくちゃ厚顔だよな!」
「それ、悪口になってないからね?」
「これだよ。ったく。ていうか、お前こっちで着替えんの? ダメだろ」
「サヴェラ副班長が専用の部屋を用意してくれたんじゃなかったか。カナリア、ここはバカの巣窟だ。着替えはそっちでやれ」
こんな風に、なんだかんだで僕に優しいのだった。
まあ、騎士団って男性がほとんどだからね。女性の隊員の多くは第一隊に配属されるのだ。第一隊は王族警護が主だから、別名で近衛騎士とも呼ばれている。女性騎士は女性王族のためにどうしても必要なので、ほぼ近衛騎士になる。女性の騎士はなり手が少ないらしくって、どうしても集中しちゃうそう。
ついで言えば、第七隊まではそこそこの家柄でないと入れない。
第八隊は平民でも受け入れているため、剣や体力だけで試験を突破した人もいる。
普段は王都内を駆け回ってるからか、段々と体力バカになっちゃうらしい。あ、筋力バカもいるかな。貴族の犯罪や大掛かりな金融犯罪系のような頭を使う捜査は第三隊から第七隊までが請け負うのもあって、第八隊に回される騎士は頭脳の方がちょっとアレらしい。
それを自分たちでジョークにするのだから割り切っているというか明るい。
「そのサヴェラ副班長が『いまだに、カナリアは本当は女の子なのに男のフリをしてコッソリ入団したと幻想を抱いているバカがいるから、一回見せてこい』って」
「ぶはは!」
「ヤベぇ、誰だよ。ここにいるのか?」
「そういや、サヴェラ副班長も入団した時に騒がれてたな」
「あの人、超美少年だったもんな」
「え、そうなの?」
僕が興味津々で前のめりになると、先輩の一人がニヤニヤ笑って教えてくれた。
「おうよ。しかも、あの人の場合は老若男女関係なく惚れさせるっていう凄腕の――」
「面白そうな話をしていますねぇ」
「げぇっ」
更衣室内に緊張が走った。
そうそう、言い忘れてた。
「ごめーん。サヴェラ副班長と一緒に来てたんだった」
「嘘だろ、カナリア、お前ぇぇ」
「可愛い後輩の噂話をしているからだよ。罰が当たったんだね」
「ひでぇよ、サヴェラ副班長の再来じゃねぇか」
「うん? 今、わたしの名前が聞こえたような気がします」
「ひゃぁぁぁぁ」
筋肉がっちりの先輩が子鹿みたいに震えて鳴くの、本当に面白い。
僕は笑いながら、本来の目的だった備品を取りに来た。騎士は休みの日も捕縛用の綱を持っていないとダメらしい。新人が持って帰っていいのは更衣室横の倉庫にあると教えてもらうついでに、サヴェラ副班長も付き合ってくれたのだ。
僕が特別扱いされることを快く思わない人もいるから、いじめられてないか気になったんだろう。
一応、特別扱いの表向きの理由は「体にひどい傷跡があるから見られたくない」で、本当は「天族だから」だ。
いくら格納されているとはいえ、じっくり見れば羽があるのが分かってしまうからね。思わずピコって飛び出るかもしれないじゃん。絶対隠したいわけじゃないけど、バレないならそれに越したことはないし。
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