057 取り合い、事情説明、自信の背景
傭兵ギルドと騎士団が僕を取り合う図。
すごいなぁ。
と、他人事気分になる。
僕は入り口に待たせていたチロロのところへ行って「もう少し待っててね」と告げ、ついでに顔見知りの傭兵たちと話をした。彼等は待機組だ。今は本当に忙しい時期なんだけど、それこそ昨日みたいな緊急事態が発生した時に誰も出せないなんてことがないようギルドが「準備」している。一応、お休み期間でもあるから飲んでいる人もいた。ちなみに待機させているわけだから少ないけど賃金は発生するよ。
彼等に昨日の王都がどうだったのか教えてもらいつつ、僕も飲み物を頼んだ。
王都は一晩中そこかしこで騒がしかった模様。警邏のために急遽駆り出された人も多く、傭兵ギルドも大変だったみたい。
「花祭りに必要な飾りを保管する倉庫が壊されて、俺たちも朝まで片付けに終われていたんだ」
「だからそんなに眠そうなの?」
「おうよ」
「その割には飲むんだね」
「これは目覚まし用だ。ははっ」
いや、そんなわけないよね。
呆れるけど、本当に誰も彼も平気そうでさ。眠くならないのがすごい。
「馬車にも仕掛けがされていたとかでな。そっちは輸送ギルドや鍛冶ギルドが走り回っていたよ」
「鍛冶ギルドも?」
「職人ギルドは花祭りの準備で忙しい。金具に仕掛けがされていたから鍛冶屋が呼ばれたんだろ。そういや魔法ギルドからも誰か来てたらしいぞ。俺たちは捕り物と警邏だ」
「大変だったんだね」
「お前ほどじゃねぇわ。よくもまあ、暗い中を飛び回ったもんだぜ」
「へへ」
頭を撫でるという褒められ方。まるで子供じゃん。しかも「これでも食いな」とジャーキーやチーズをくれる。おやつかな? いや、酒の肴だった。でもまあ育ち盛りなので有り難く食べましたとも。
すっかり座り込んで皆と馴染んでいると、話が終わったらしいシルニオ班長がやってきた。
「昨日の今日で申し訳ないが、調書を作成したい。この後なんだけど、お願いできるかな」
「はい。あ、ヴィルミさん」
「なんでしょう?」
「明日は王都内警邏の仕事になります?」
「……明日の仕事を受けてくれるのですか」
「え、だってその予定だったし。花祭りまでは仕事を受けるって契約じゃなかったです?」
「そう、でした。カナリア、君は本当に素晴らしい。見た目にそぐわない強い男ですね」
またも褒められ、僕は照れながら頭を掻いた。あっ、チーズを触った手だった。ヤバい。
一人で慌てていると、近くで飲んでいた男たちが僕の背をバンバン叩く。止めて、その手は汚れてるでしょ!
僕が手を叩き落としていたら、じゃれていると思ったらしいシルニオ班長が苦笑した。
「君はもうすっかり自分の居場所を作ったようだね」
「え?」
「ええ、ですから騎士団の入る隙はありません」
「そうだそうだ。カナリアは絶対にやらんぞ」
「わたしもカナリア君と一緒に行こうかしら。騎士団に監禁されたら困るわ」
「……また蒸し返すつもりですか。さっき話し合ったでしょう? とにかく、今日はこちらに任せてください。カナリア、もちろん日当は払うよ。報奨金も出せるようにクラウスが取り計らっているからね」
シルニオ班長が爽やか~に微笑む。
でもサヴェラ副班長の名前を聞いて、僕はぞわっとした。もしここに来たのがサヴェラ副班長だったら、もっと刺々しい雰囲気になっていた気がする。
こわっ。
たぶん、事務作業とかで仕事に追われているんだろうな。
とにかく、僕は傭兵ギルドの皆に見送られ、シルニオ班長と共に騎士団へ。
道中、どうしてシルニオ班長が自ら迎えに来てくれたのかを聞くと――。
「息抜きもあったが、クラウスに『敵の囲い込みが頑強すぎる、役職者が行くべきだ』と言われて、尻を叩かれたんだ」
「うわぁ。班長をお使いに出すの、すごくないです?」
シルニオ班長は肩を竦め「クラウスはいつもそうなんだ」と諦め口調。どっちが偉いのか分からないな。
それが伝わったのか、シルニオ班長が苦笑する。
「僕の親の爵位がサヴェラ家より上でね。おかげで役に就くのが彼より速かった。クラウス自身は補佐という立場が合っていると嘯いているよ」
「あれ、騎士団って身分が必要なんですか? だったら、僕の入団は無理なんじゃ……」
いくら父さんが賢者で有名人だったとしても、貴族じゃないし。
「試験に合格すれば平民でも入団はできるのだよ。カナリアの場合は若い上に平民だ。準騎士からの契約になるかもしれないが」
「正式加入じゃないんですね?」
「そうだね。その代わり、準騎士ならば副業も可能だよ」
「おお」
「貴族出身の騎士が多いため、ほとんどは従者も連れてくるんだ。彼等の身分は準騎士だ。貴族の屋敷に戻れば従者として働くのだよ」
「なるほど」
従者も大変そう。わざわざ試験を受けて雇い主に付き合うわけでしょ。僕には無理だな~。
なんて話をしているうちに、騎士団へ到着。
妙に騒がしい。
なんだろうなと思っていたら突き刺すような視線が集まった。
僕がシルニオ班長を振り返ると、いつも爽やかな彼が眉を顰めている。
「カナリア、何か言われても無視を――」
「おい、そいつが例のガキか?」
「フルメ班長、失礼な物言いは止めていただこう」
「失礼? 貴族でもないガキに何をどうしろって言うんだ」
「身分は関係ない。ましてや、彼は王都を救った英雄だ」
「その話もどうだかな」
見たことある顔だと思ったらフルメ班長だった。ニタニタ笑って感じ悪い。
こういう人いるよね。
前世の僕ならビクついてたと思う。でもほら、今生では鍛えられているから。つよつよの両親に育てられたって自信が、僕の心を強くしていた。
あの二人なら、どんなことがあっても僕の味方になってくれる。絶対にね。それがどんなに僕を前向きにさせてくれるか。
そういう背景が僕を冷静にさせた。
フルメ班長と同じだね。こいつも貴族の身分を持っていることで自信になっているようだから。
彼との違いは、物理的に鍛えられた分、僕の方が強いってこと。
うん。喧嘩を売るなら買うぞ。と、気を引き締めていたら。
「みっ!」
「ちゅんちゅん!」
「いや、待って。なんで僕より先に喧嘩を買おうとするの」
「み?」
「ちゅん!」
やる気満々なんですけど。
横でシルニオ班長が吹き出した。
フルメ班長は唖然としたあと、お怒り顔に。何か言おうとしたんだろうけど、そこに別の人の声。
「あー、昨日の子か! お疲れ様!」
「君、傭兵ギルド所属なんだってな。傭兵ギルドはあんなことができるのか」
「俺はてっきり輸送ギルドかと思っていたよ」
「尋問した奴が話してたけど、お前、高木の上から飛び降りたんだって? ヤバいだろ」
「飛行中の騎鳥から飛び降りたらしいぞ」
「頭、どうなってんだ。大丈夫かよ」
ワイワイ話しながら集まってきたのは、昨夜見掛けた兵士や騎士たちだった。
たぶん、わざとだと思う。フルメ班長を弾き飛ばす形で僕を取り囲んだ。
シルニオ班長は顔見知りっぽい騎士に目配せした。その人たちがフルメ班長に何か言って、どこかへ連れていく。連携すごい。
「とりあえず邪魔物は消えたか。すまないね、カナリア」
「いいえ。ああいう人はキャンキャン吠えるだけですから」
僕の返しに、集まっていた人たちから爆笑と拍手が起こった。皆、よっぽどフルメ班長が嫌いらしい。
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