058 聴取




 聴取はシルニオ班に正式配属されたニコと、ハンヌ班の班長ケイモ=ハンヌさん。同じ第八隊になるんだって。王都内や国内の大きな犯罪捜査は第八隊が担当するのだ。

 騎士の数が一番多いのも第八隊らしい。

 班ごとに分かれていて、その数が多いのだとか。


「ニコ、シルニオ班に移籍できて良かったね」

「そうなんだよ。って、世間話してたら怒られる。まずは聴取だな」

「世間話から入る聴取もあるさ。ところで君たち、騎鳥の盗難事件の際に知り合ったんだよね? 縁があるねぇ」

「え、ハンヌ班長、疑ってます?」

「まさか。クラウスやエドヴァルドがあんなに信頼を寄せているんだ。良い子なんだろうと思っているよ」

「あ、カナリア、この人はシルニオ班長寄りだから安心していいぞ」

「その割にはさっき確認を取っただろ?」

「いやぁ、念のためっすよ」


 というやり方で、聴取する相手の緊張を解いているのかな。

 優しい感じのハンヌ班長と、ちょっとチャラいニコの組み合わせだとこうやるんだ。

 面白いし、僕が盗賊たちとの間に何の関係性もないと、あえて口にすることで話しやすくしてるんだと思う。


 何であろうと構わない。正直に話せばいいだけだ。

 僕は昨日の仕事終わりから夜中までに起こった事実を語った。



 説明中、段々と頭を抱え出す二人に、僕は「立ち位置や動きが分からないんだな」と思って絵を描いて示した。

 これが結構役に立って、その後は延々と立体的な絵で説明を続けた。

 大して上手いわけじゃないけれど、パッと見て分かる形で描いたつもり。おかげで分かってもらえたよう。

 ただ、ハンヌ班長はより頭を抱えた。


「こんな恐ろしい真似をする人間が世の中にはいるのか」

「えっ」

「確かにカナリアは変わってるけど、そんなにすか?」

「あの森の木の高さがどれぐらいか俺は見て知っているからな」

「ハンヌ班長は騎獣乗りだから余計に怖いんすよ」

「ニコは騎鳥から飛び降りたことがあるのか?」

「……ないっすけど」


 二人が同時に僕を見て、それから室内で休んでいたチロロにも目を向けた。


「この子もなぁ」

「すごいっすよね」

「夜空を飛ぶというから、どんな厳つい騎鳥かと思うだろうが」

「昨日の現場に行けなかった奴等がファルケの亜種じゃないのかって噂してたっすね」

「それがまさか、こんなに可愛い小さな騎鳥とはな」


 褒められたと思ったチロロが「ちゅん」と鳴く。うんうん、可愛いよ。

 ニーチェはちょろっと胸元の羽から顔を出し、また引っ込んだ。聴取の間はチロロの傍で待機してもらっていたのだ。


「よし。聴取はほぼ終わりだな。書類へのサインは後ほど見直しの際にやってもらうとして、先に頼み事の話だ。実は騎士団から君にお願いがあってね」

「はあ、なんでしょう」

「騎鳥乗りの騎士たちに向けて、飛行の様子を見せてやってほしいんだ」

「飛行を?」

「もう分かったかもしれないが、君の昨日の活躍をいまだに信じていない馬鹿者もいる。目を覚まさせるためにも、また自分たちの実力がどれだけ低いか分からせるためにも、君の実力を知らしめたい」

「サヴェラ副班長が言い出したんだよね。カナリア、嫌かもしんないけどやってくれない? 俺も見てみたいしさ」

「うーん、分かった。あ、日当出る?」

「もちろん」


 その後、休憩を挟んで調書を見直してからサイン。

 途中で盗賊の取り調べ状況をチラッと教えてもらった。

 なんでも、最初は定期便馬車で騒ぎを起こす予定だったみたいだ。それが失敗に終わり、騎獣の預かり所を急襲したんだそう。騒ぎで兵士が集まるのを待って、目を付けていた騎鳥を盗んだ。

 僕が追った空のルート以外にも、実は抜け道が他にもあったらしい。何頭かは別の隠れ家に運ばれた。もちろん、そこも昨夜のうちにシルニオ班長たちが押さえている。


 そして、盗賊の仲間には天族もいると分かった。

 天族自体が裏切ったとかじゃない。昔、戦争で捕虜になった天族がいて、手伝わされているらしい。

 しかも、数人。

 その子供が今回の一味にいた。一緒に捕まって調べられているみたいだ。どういう立ち位置なのかで罪も変わってくるから、慎重になっているのだとか。

 僕はどう返せばいいのか分からず、下手な相槌で誤魔化した。



 聴取では、僕の背景事情は関係ないから話していない。父さんの名前も母さんの名前も、ましてや天族の血を引くだなんて話もしなかった。

 詳しく話すとしてもサヴェラ副班長やシルニオ班長にだ。

 ハンヌ班長がシルニオ班長寄りだと聞いても、僕との間にそこまでの信頼関係がないんだもん。

 信頼というよりは「強さ」かな。

 シルニオ班長やサヴェラ副班長はあの感じの悪いフルメ班長に言い返せてたけど、この人が同じようにできるかを僕は知らない。

 良い人に見えて実は裏で繋がってましたーなんて話、物語ではよく出てくる。

 まあね、そこまで神経ピリピリに考えるのは天族の件を知ったからだ。

 もしも僕が天族だと知れば、偶然性に驚くよりも何らかの関係があると考えるんじゃないかな。そのせいで火の粉が降りかかるかもしれないのが嫌だ。


 それにしても天族の捕虜かぁ。

 となると、結構前だよね。

 捕虜の交換はなかったんだろうか。傭兵という形であっても国からの要請で戦争に赴いているはず。

 だから同じ国の兵士として扱われると思うのだけど。

 気になることは多い。

 だとしても今は皆が忙しい。落ち着いてから、サヴェラ副班長に聞いてみよう。


 結局、この日は聴取だけで終わった。

 帰りはニコがわざわざ送ってくれる。万が一盗賊の残党が王都内にいたら、報復で狙われるのは僕だろうからだ。

 騎士服で送られる方が目立つと思う。そう言ったら、ニコは急いで着替えて門に来てくれた。

 それまではハンヌ班長が付き添ってくれていたので誰にも絡まれなかった。騎士のほとんどは良い人ばかりなんだよ。

 それでも、少数とはいえ厄介な人がいると気遣いは必要。だから班長クラスがわざわざ付き添ってくれたんだ。班長自ら聴取をしたのもそのせいだと思う。本当は忙しいはずなんだ。シルニオ班長なんて僕を連れてきた途端に走って次の仕事に向かったもん。彼の場合は捕り物の指揮をしたから余計に忙しいんだろうな。

 そういうわけだから、門でニコを待っている間に何度もニコニコ笑顔で騎士たちに声を掛けられた。昨日のことを知っている人は労ってくれるしね。

 で、ハンヌ班長が「今度、模範飛行をやってもらえることになったから楽しみな」と言うものだから、盛り上がってしまった。

 急いで着替えて駆け付けたニコが「何、何、どうしたの」と騒がしい中を掻き分けてくるぐらい。

 結局、騒がしさをまずいと思ったのか、ニコは僕の腕を取って慌てて外に出たのだった。


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