055 リューの能力と天族とお出迎え
王都に帰る道すがら、僕はリューの言葉を思い出していた。
こっそりニーチェに確認したけれど、僕が天族だってことは話していないようだった。
ニーチェは僕が天族だと知っている。一緒にお風呂にも入った仲だからね、背中の小さな羽を見ているんだ。旅の間にも話した記憶はある。
ただ、リューに報告する時間はなかったみたい。短い再会だったもん。なのに、リューは僕が天族だと知っていた。
もちろん僕は羽なんて出していない。
きっと不思議な力があるのだろう。なんとなく僕の心を読めている節もあった。コールドリーディングってやつかな。種族が違うから「人の顔色を見て考えを読む」のは難しいか。
どちらにせよ、神と名の付く生き物に隠し事はできないのかも。
その神鳥様に、僕は修行が足りないと言われてしまった。母さんなら言われなかったと思うと、ちょっと悔しい。
もっと頑張ろう。風読みは褒められたみたいだし、今の訓練で間違いはないってことだ。
僕がやる気に満ち溢れていたら、背中の羽がピコと動いた。
まるでチロロの尾羽根みたいだ。感情が出てしまう羽に、以前とは違う愛おしさを覚える。僕も大人になったってことなのかなぁ。
だったら、そろそろ天族とも向き合わなきゃいけないか。
というのも、捕らえた男たちの証言から「天族」の名前が飛び出たからだ。
戦っている最中、僕に対して「お前、まさか天族なのか?」と問うたのも奴等に覚えがあるからだった。
そう、一味の中に天族がいるらしいのだ。
仲間なのかどうかは不明。騎士の尋問もそこまで進んでいない。
先にやらなきゃならないことがいっぱいあるからね。
まずは、別の森に隠れているらしい盗賊の仲間を急襲するため、騎士や兵士の半分以上が向かった。
残りは騎鳥を連れて王都に戻る。僕もだ。
シルニオ班長は部下に「カナリアは一般人だから、くれぐれも気を付けて守るように」と指示し、そこで僕と別れた。
王都の門の前で待っていたのはサヴェラ副班長だけじゃなかった。ヴァロやエスコもいる。
まあ、兵士もいるんだけどね。護送車が見えたので盗賊一味を運ぶんだろう。
他にも騎獣鳥管理所の職員さんや調教師さんらしき人たちが集まっていた。彼等は盗まれた騎鳥を大事に連れていった。
残ったのがサヴェラ副班長たちだ。
真っ先に駆け寄ってきたのはヴァロで、僕を抱き上げてクルクル回した。
「うわ、ちょっ、待って。子供みたいで恥ずかしい」
「少しぐらい我慢しろ! それよりお前すごいじゃないか!」
「それは分かったからさ。ていうか、目が回る~。エスコ、ヴァロをなんとかして」
「ヴァロ、いい加減にしろ。全く。カナリア、無事で良かった。でも心配したぞ?」
「う、うん」
下ろされた僕は本当に目が回りそうだった。けどまあ、三半規管が鍛えられているせいか、特に問題なく立てる。
チラッと横を見れば、チロロはアドとリリに囲まれてた。首元にいたニーチェによると、どうも「夜の空を飛ぶなんてすごいね」「カッコイイ」と褒められている模様。心なしか、チロロがドヤ顔で可愛い。
僕が笑っていると、サヴェラ副班長が溜息をつきながら目の前に立った。
で、デコピン。
「いてっ」
「無謀すぎです。途中で伝声器は切るわ、勝手に盗賊と一戦を交え、あまつさえ魔物を狩ってしまうだなんて」
「いやー、あのー」
「カナリアが部下だったら、今頃は反省文を百枚書くよう言い渡していたところです」
「ひゃ、百枚?」
「更に謹慎処分ですね。王都の周囲を何周か走らせる罰も与えていたでしょうか」
「ひぇぇ……」
「や、騎士様よぉ、それはあんまりじゃねぇか」
「そうだな。カナリアは英雄級の活躍だったんだ。罰ってのはないだろ」
「わたしの部下だったら、と言ったはずです。それだけ無茶をしたという話なんです」
「仮定の話をされてもなぁ」
なんか、エスコが言い返してる。ヴァロも僕を庇うつもりはあるようなんだけど、バチバチやり合う二人を見て後退っていく。ヴァロ、弱くない?
「うちの未来のエースだ。あまり、上から言うのはどうかと思うがね」
「『うちの』? カナリア、本気で傭兵ギルドに入るつもりですか。わたしが騎士団に誘ったのを忘れていませんか」
「えーと。サヴェラ副班長たちがまだ王都に戻っていなかったみたいで、僕も働かないと生活できないのと、部屋を借りるための後ろ盾が欲しかったから……」
「良い部屋を紹介できるとも話しましたよね? カナリアの好みそうな、可愛い場所も知っていますよ」
「え」
心惹かれたのがサヴェラ副班長にも伝わったらしい。にんまり笑って前に出る。
きっと話を詰めようとしたんだろうけど、僕との間にエスコが入り込む。その隙にヴァロが僕を引っ張った。
「横から、かっ攫う真似は止めてもらおうか」
「最初に目を付けていたのは僕たちです」
「カナリア、こっちだ」
「え、でも」
「お前、あんな怖ぇ奴のいるところに入りたいのか?」
「そんなには怖くないよ、たぶん?」
「マジかよ。ていうか、夜通し働いて疲れただろ。あいつらに付き合うのは止めて帰ろうぜ」
「あ、そうだね」
「ちゅん」
「チロロもお疲れ~。アドとリリに解放されたの?」
「ちゅん!」
「そっちは平和的解決かー」
こっちはまだまだ平和とはいかない模様。エスコとサヴェラ副班長がやいのやいのと言い合っている。
顔見知りっぽいし、今までも手柄を取り合ってきたのかな。傭兵ギルドって騎士団ができないような無茶を任されてそう。なんとなく因縁を感じる。
なので、ヴァロに従って帰ることにした。
そろそろ夜明けだ。
「眠い……」
「そりゃな。あ、そういや明日は休んでいいぞ。ヴィルミからの伝言だ。でも、昼には起きてくれよ」
「え、うん、なんで?」
「お前に礼を言いたい奴がいっぱいいるんだって」
「そうなんだ?」
「花屋のマリアンナちゃんも心配していたぞ」
「あの子の名前、マリアンナっていうの?」
「お前、あの子とよく世間話してたくせに名前を知らなかったのか」
だって、店主さんはマリーって呼んでいたし、お友達の女の子たちもそんな感じだったと思う。
「ヴァロ、どうやって名前を知ったの?」
「……ヴィルミに聞いた」
「うわぁ」
「なんだよ!」
「ううん。とりあえず、あの店で毎日花を買えばどうかな」
「毎日? マリアンナちゃんがいない時もか?」
「そうだよ。マリーがいる時だけだとストーカーじゃん。嫌がられるよ。それを避けるために、毎日買うの。一本だけでもいいんだ。そしたら『あ、この人は花の好きな男性なんだ、素敵』ってなる」
かもしれない。分かんないけど。
でも、ストーカーと間違えられることはない。
ヴァロは女性へのアプローチに関しては奥手なので大丈夫だと思うけどさ、念のためね。
「そ、そうか」
「買った花はちゃんと部屋に飾るんだよ? その様子を覚えておけば、何かの時に話の種にできるし」
「おお、なるほど!」
ヴァロは何度も頷き、マリアンナちゃんへの質問を考え始めた。
これ、大丈夫かな。まあ、いっか。
僕は眠いのもあって、送ってくれるヴァロに適当な返事をしながら宿まで戻った。
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