054 別れとチューと班長合流
あっさりした親子の別れを眺めていたら、チロロとファルケが深い溜息を吐いた。
上位の存在がいなくなって初めて息ができた、みたいな。
「やっぱり、本物の神鳥なんだなぁ……」
「ちゅんちゅんちゅん!」
「キャキャーッ」
「みみみ」
「あ、はい。偉いのね、うん、分かった。確かにすごく強かったし、圧も半端なかったね!」
僕もテンパってたから言えないけど、二頭とも畏れ多くて気持ちがいっぱいいっぱいだったらしい。
そりゃ、リューも「一つところに留まれない」って言うはずだ。我が子以外とは普通の交流ができないんだもんね。それはそれで可哀想な気もする。
まあ、本人(神)が気にしていないのなら、僕の考えは無用だ。
「それはそうとさ。ニーチェとお別れにならなくて良かった。もう二度と会えないのかと思ってすごくショックだったんだから」
「み~! みっ、みっ、み~っ!」
「ふふ。僕が好きなの? ありがと。僕もニーチェが好きだよ。チューしちゃう?」
「みっ!」
なんてイチャイチャしてたら、チロロが「ちゅんっ?」と慌ててやってきた。丸い体を押し付けて「ちゅんちゅんちゅん」と煩い。嫉妬ですか。え、可愛いしかないんですが。
「チロロも好きに決まってるじゃん~」
「ちゅん!」
「……キャキャーッ」
ファルケが鳴く。これぐらいは通訳されなくても分かるよ。呆れてるんでしょ?
ファルケは続けて鳴いた。それをニーチェが「みみみ!」と通訳してくれる。
「そうだね。皆を外に出してあげないと。あ、シルニオ班長もそろそろ着くかな」
辺りに散らばった魔物を見て、さてどうやって説明すればいいのかと腕を組む。
僕はうんうん唸りながら、まずは騎鳥たちのところへと向かった。
結果的に、シルニオ班長は僕の語った「真実」を信じてくれた。ただ、報告書にそのまま書けないと言って頭を抱える。
散々考えた末に、魔物が一斉に倒れたのは「賢者の作った魔道具のおかげ」ということになった。
うん。
頭痛に悩まされるシルニオ班長を眺めていた時に、ちょうど父さんから連絡が入ったんだ。
「カナリア~、どうして伝声器を切っているんだい?」
「ちょっと忙しかったんだ。ていうか、なんでオフにしてるのに繋がるの?」
「そこはほら、俺が緊急用チャンネルを作っていたおかげだね!」
「……そういうの『ストーカー』って言うんだよ。年頃の息子に過干渉すぎないかな? もし僕が女の子だったら『お父さんなんて嫌い!』って毛嫌いするところだよ」
「カナリアッ? そ、そんなことは、言わないよね? そうだ、何か困ったことはないかなって、心配になっただけなんだ。大事な我が子を心配するのは親として当然だよ」
という、やりとりがあって、ふと思い付いたわけ。
父さんに事情を軽く説明すると、案の定「だったら俺の名前を使ってもいいよ」と言ってもらえた。
しかもだ。
「よし。辻褄を合わせるために、魔物をまとめて昏倒させる魔道具を作ろうかな~」
「火や水じゃダメだよ。ここは森の中だからね。僕もそれで魔法攻撃を使いあぐねていたんだ」
「分かった。そうだなぁ……。あ、音はどう?」
「音だと、近くまで来ていた騎士にも聞こえているよ。それに、あいつら大きな音には怯えないもの」
「そっかぁ。魔物の嫌がる音を出したところで逃げるだけだしな」
「それ、いいんじゃないの? ほら、前に僕が話したことあるじゃん。人間に聞こえない音域があるって」
「お~、そういや、研究が途中だったな。よし、それで作ろう。とりあえず『秘密兵器を使ったら昏倒した』とでも言っておけ」
「うん。ありがとう、父さん」
お礼を言うと、伝声器から「むふん」と鼻息のような音が聞こえてきて、こういう音でも気持ちが左右されるんだから魔物にだって苦手な音はあるだろうなって思った。
シルニオ班長は真面目な人だから僕の提案に悩んだものの、数分で頭を切り替えた。
神鳥がどうにかしてくれたって話よりずっとマシだもんね。
しかも、賢者の名前はシルニオ班長も知っていた。
「まさか、君のお父上があのシドニー=オルコット殿とはね」
「僕も父さんが本当に賢者だったんだと知れて良かったです」
軽口をたたき合いながら、僕らは倒れている魔物を確認し、騎鳥を見回った。
続々とやってくる兵士たちが魔物の山に驚くんだけど、彼等は別の森へとすぐさま移動を言い渡されていた。
盗賊の仲間が他にもいると分かったからだ。
主に僕の証言なんだけど、一応、捕まえた男たちも漏らしたらしい。騎士が数人がかりで締め上げていたので間違いない。
「そうだ、シルニオ班長。あいつらたぶん、兵士の訓練を受けていると思います」
「ああ。隠そうとしても、姿勢の良さや筋肉の付き方で分かるものだね」
さすが、シルニオ班長だ。ちゃんと気付いていた。
しかも。
「おそらく、セルディオ国の人間だろう」
「えっ」
「ほんの少し訛りがある。それに、君が報告してくれた彼等の動きもセルディオの兵士に多い。数人の下着が赤色だったのも証拠と言えば証拠かな」
「あ、それで裸に剥いたんだ……」
何をやってるんだろう、もしかして拷問でもするのかと怖くなって目を背けてたんだけど、まさかの下着チェックだった。
そう言えばセルディオ国って赤色を好むんだったっけ。
「敵国に侵入するのだから変装や演技もしただろうが、下着までは変えなくても問題ないと気を抜いたようだね」
「ははぁ、なるほど」
「男は下着で冒険はしないものだ。君も分かるだろう? 慣れ親しんだ形でないとね」
イケメンが下着について語ってる。
僕は同意し辛くて、首を斜めに傾げた。
えっ、普通は下着にそこまでこだわりがあるもの?
僕は母さんが用意してくれた下着を穿いてる。可愛いワンポイント刺繍もあるし、お気に入りだけど、形にはこだわらない。
不安になって、騎士に囲まれている男たちをチラッと見た。
あー。
赤いふんどしかー。
それは別にいいんだけど、そうじゃなくて。
ヤなものを見ちゃったという後悔が。
「ふは、カナリアでもそんな顔をするのだね。確かに、あんな姿の男たちを見るのは嫌だろう。悪かった」
「いえ」
「奴等はね、騎獣民族だ。騎獣に乗って領土を広げた歴史を持つ。だから騎鳥を輸入して育てようという考えはなかった。ところが、最近は魔物の棲む森が彼等の国にも広がっている。騎獣では移動もままならないし、何よりも空からの攻撃がどれだけ楽かを知ってしまったんだ。そこで素直に購入しようと考えれば良いものを、騎獣民族だった時代の名残で奪おうと考えた」
「それで戦になるんですね」
半眼になって答えると、シルニオ班長も「どうしようもないね」と肩を竦めて苦笑いだ。
「とにかく未然に防げて良かったよ。幸い、騎鳥たちに怪我はない」
「そうですねー」
「ああ、そうだった、神鳥のおかげで怪我も病気も治ったのだったね。……はぁ。よし、あとのことはサヴェラ副班長に投げよう」
「あはは」
もちろん冗談だと思うけど、なんとなくサヴェラ副班長の鬼の形相を想像してしまって僕は震えたのだった。
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