050 降りてくれたらこっちのもの




 焦る気持ちのまま、森の上へと飛び出る。チロロが凄まじいスピードで追ってくれたのでガルボに肉薄した。

 振り返ったガルボがギョッとする。

 魔剣にチャージが済んだのかどうか、右手を大きく振った。


「させるか、っての!」

「ちゅん!」

「みぃっ!」


 チロロが軌道を変えて突撃した。直前で急転回。僕は背中に足を置いていたので、片足でチロロの背を蹴った。

 指示棒はもうホルダーに直してある。腕輪型の魔法収納庫から取り出したのは魔力封じの網だ。父さんが作ってくれた魔道具になる。

 これをガルボに投げつけた。小さな丸い球に入っていて、当たれば広がる。


 本当は使いたくなかったよ。だって、ノーコンの僕でも使えるように網は大きく広がるタイプだから。つまり、アウェスにも引っかかる。するとどうなるか。アウェスも落ちる可能性が高い。

 だけど賭に出た。アウェスは、チロロやクレーエみたいな小型の騎鳥と違って魔力なしでも自力で結構飛べる。もちろん普通の鳥と違って巨体だし、鞍や人を乗せていたら長くは飛べないけどね。

 申し訳ないとは思う。でも、騎鳥の心配ばかりしていたら、いつまでたっても盗賊たちを捕まえられない。


「ごめんね!」

「みみみっ」

「通訳ありがと」


 ガルボは網に絡まって魔力も奪われ、体勢を崩してアウェスの上から落ちた。網ごと落ちてくれたので、アウェスに影響したのは短時間だと思う。

 それでも疲れたんだろう。アウェスはよろよろしながら地面に降りた。なんとか無事に着地したみたいでホッとする。


 僕はガルボに軌道を読まれないようチロロから飛び上がっていたので、そのまま森に落下していった。

 枝を利用しながら地面に降り立つと、怪我をしているのに結構元気な様子で藻掻いているガルボを昏倒させた。網も回収しようね。

 チロロにはアウェスの方を頼んだので大丈夫。

 この調子で残りの奴等も片付けていこう。

 そう思っていたら相手の方からやってきた。

 しかも、僕が地面に一人で立っているのを見て騎鳥から降りたのだ。

 飛んで火に入る夏の虫?


 たぶん、僕、すっごい笑顔だったと思う。向こうも走ってきたけど、僕も走って向かった。

 なんか魔法を撃とうとした奴もいるけど、当たらなきゃ無駄だし、そもそも魔法杖出すのも詠唱も遅いんだよ。ここに父さんがいたら「まどろっこい!」と怒鳴られていたね。


「【土槍】――」

「もうそこにはいないっての」

「ぐあぁぁっ!」

「はい、一人アウト!」

「このアマ!」

「お前は口がアウトなんだよ!」

「ぐふっ」


 指示棒を全力で振ると、口の悪い男が吹っ飛んだ。最初の一人は蹴り倒したので後頭部をまともに打ってると思う。

 三人目には、さっきの男が詠唱途中で中途半端になった魔法の完成版を見せてやった。


「【土槍】」

「うぐぁっ、い、痛ぇよぉ~!」


 様子を見に下りていたらしい仲間も次々に倒した。

 騎鳥たちはこれを好機だと思ったらしい。鎖を首や体に巻かれて辛いだろうに、騎乗者を振り払おうと右に左に揺れる。何人かは落ちた。

 僕は次々と盗賊を拘束していった。父さんが構築した魔法の「拘束」は解除が難しい。暴れれば暴れるだけ締め付けるので刃向かう気力も失うそう。どのみち盗賊たちの意識を刈り取っているので暴れないだろうけど、僕は慎重派なのだ。


 順調に倒せていたものの、中にはロデオが得意な奴もいる。

 暴れる騎鳥をなんなくやり過ごし、男は鎖を引いて騎鳥を痛めつけようとした。

 それを止めたのはチロロだ。気付くやいなや、体当たりした。

 男が弾け飛び、繋がったままのロープに引きずられて宙ぶらりんになった。

 載せていたファルケはわざと木の枝に当たる位置を狙って高度を下げた。


「えらい! チロロもよくやった!」

「ちゅん~」


 胸を膨らませてチロロはまん丸になった。



 大方は捕らえられたと思う。逃げられた盗賊もいるけど、少なくとも洞窟に集められていた騎鳥はこれで全部らしい。

 一番強い騎鳥が教えてくれた。彼は強くて、盗賊の言うことを聞かなかったから見せしめとして痛めつけられていたんだって。鎖も頑丈だ。まずは鎖を外す。

 幸いと言っていいのかどうか、羽や脚を切られるような重大な虐待は受けていない。

 ぐったりしている子は盗まれた際の強引なやり口で怪我をしたり、病気だったりのよう。

 病気は専門外だから不安だ。

 一応、ポーションはある。心配性の父さんに持たされているからね。ただ、父さんや母さんの持論で「よほど危険な怪我じゃないと使わない方がいい」そう。

 ポーションは生き物が持つ元々の力を利用して治すからだ。最大限にね。そのせいで反動が来て、治ったはいいけど逆に体調を崩す場合もある。ちゃんとしたお医者さんと様子を見ながら使った方がいい。

 僕自身が使うならともかく、他の子に使うのは勇気が要る。


 とりあえず、具合の悪い子たちには薄めて飲ませた。

 怪我用の薬はあるから、汚れや血を水で洗って拭い、魔法で【清浄】にして治療開始。

 ほとんどの子はかなりマシになった。

 鎖で雁字搦めになっていたボス的存在のアウェスも動ける。

 だけど、病気の子はダメだ。起き上がれない。体力がかなり落ちていて、元々のエネルギー自体が少ないんだよ。


 早く専門家のいる王都に連れて帰りたい。

 そう思うのに、運ぼうと思って広げたシートに移動させようにも動かせられないのだ。


「ピギャァァ……」

「みみ、み、み」

「ここに連れて来られた時に悪化したの?」

「ピギャッ」

「キャ」

「みっ、みみみみ!!」

「置いていけるわけないじゃん。もうちょっとだよ。諦めないで頑張ろう?」

「キャ……」

「ピギャァー!」

「み、みっ」

「ほら、ボスもそう言ってる。主のところに戻りたいんだよね」

「キャ、キャ、キャ-」

「でもでもじゃないんだよ! 会いたいなら会いたいって言おう! 僕が絶対に連れていってあげるから!」

「キャ……!」

「そうだよ、頑張ろう! 大丈夫、大丈夫なんだから!」


 まるで自分に言い聞かせるみたいに叫んだ。ボスのアウェスも、病気のファルケを励ました。ニーチェも心配そうに「み、み」と応援。

 すると、周囲を警戒していたチロロが甲高く「ちゅんっ!」と鳴いた。

 ハッとして、騎鳥たちが振り返る。

 暗い木々の間から、光る目が幾つも見えた。

 洞窟前の灯りのせいで、周囲の森はより暗く見える。暗い中に紛れているから姿は分かりづらい。それでもそこに魔物がいるのはよく分かった。


 騒ぎすぎたせいで、多くの魔物が僕らを取り囲んでいた。


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