049 戦意喪失してくれない、盗賊たち正体は




 それで降参してくれるなら良かった。でも盗賊だもんな~。そんなわけない。

 せめてリーダーがやられて精神的に動揺してくれたら、ぐらいの気持ち。

 あと、騎鳥から降りてほしかった。

 そうなんだよ。僕がまごまごしてるのも、奴等が騎鳥に乗っているからだ。

 降りてくれたら攻撃魔法が放てるのに。

 僕はコントロールが良い方じゃないし、父さんほど攻撃魔法が得意でもない。だから、攻撃魔法は滅多に使わないんだ。

 身体強化で肉弾戦、魔法は防御や補助みたいな使い方ばっかりになる。


 僕はリーダーが乗っていたアウェスに語りかけた。


「ごめんね、もっと早く解放してあげたかったんだけど」

「ピギャァー」

「み、み!」

「そっか。今まで頑張ってたんだね。よし、もう一踏ん張りだ。あいつら、やっつけよう!」

「ピギャァー!」

「み!」


 とはいえ、だよ。残りの盗賊、戦意喪失してないんだよなぁ。

 一部はやる気がなさげ。たぶん、チロロに振り回されて疲れた奴等だ。あいつらは逃げるつもりかも。

 チロロに追うよう、視線で伝える。

 それを余所見だと思った男が「好機だ」って思ったんだろうな、アウェスに乗ったまま突っ込んできた。

 リーダーにガルボと呼ばれていた男だ。乗っているアウェスは傷を負っていた。動かないからって、何度も鞭を打ったんだ。くそったれ。


「さっきから魔法杖を手に動き回っているが、お前、大した攻撃魔法は撃てないんだろう?」


 そう言うと、剣を振り下ろす。その先から火矢が飛ぶ。


「【水の盾】」


 慌てて防御した。

 ていうか、なんで魔剣を持っているの? 魔剣って高価だから、騎士ですら持てないと聞いたぞ。

 それに魔力がないと無理だ。

 普通の人は魔剣なんて持つだけで倒れる。

 そもそも、魔力の多い人は引く手あまたのはず。こんな、盗賊なんてしなくていい。


「弾いたか。おい、お前ら、次の隊長は俺だ。指示に従えよ」

「ですが、隊長は――」

「もう死んでるだろ。生きていても、あのザマだ。副隊長の俺がいなきゃ、お前らは帰国できない・・・・・・

「わ、分かりました!」


 話をしているのは、たぶん魔力のチャージに時間がかかるからだ。

 僕が警戒しているのも分かるから、むやみに剣で斬りかかる真似もしない。


 僕らはじりじりと間合いを計った。

 さっきまで動かなかった騎鳥たちは鞭の痛みで少しずつ従うようになっている。

 僕の方のアウェスは従順だ。僕を助けてくれた相手として認識しているし、何よりニーチェが通訳してくれているからだろう。

 だから、いざという時はこちらの方が動けるはず。

 とはいえ、慣れ親しんだチロロとの連携じゃない。期待しすぎは禁物だ。


 考えていたら、遠くで音が聞こえた。


「キェェェー」

「ギャオォォォ!!」

「ちっ、魔物かっ」

「魔物避けを焚いていたのに!」

「騒ぎすぎたんだ。くそっ、森を燃やすか?」


 奴等の言葉に、思わず口を挟んだ。


「はぁ? バカじゃないの!」


 森を燃やしたら自分たちだって痛手を負うだろうが! 煙に巻かれたら死ぬよ。

 そもそも王都の近くにある森を燃やしたらどうなるか。……えっ、それが目当て?


 僕がガルボを凝視したら、ニヤリと嫌な笑いで返された。


「へっ、お前らがどうなろうと知ったことか。王都にも火が届くなら願ったり叶ったりさ」

「……やっぱり、ただの盗賊じゃないのか」

「おっと、そろそろ始末するか」

「ガルボ副隊長、向こうの奴等も全員撤退させますか」

「おう。あと、俺は隊長だ。間違えるな」

「はあ。じゃ、あっちの森にいる奴等と連絡を取ります。ここの騎鳥は薬をもう一度使いますか」

「ああ。それと、サロワに早く戻れと連絡しろ。こいつらを調教し直せ」

「はい」


 指示が終わるとガルボがこっちを見た。魔剣を嬉しそうに見せつける。チャージができたらしい。

 その間に僕も事は済ませているのだ。

 こっちはちゃんと小声で、ニーチェに通訳を頼んでいた。あとはアウェスに合図すればいいだけだ。


「次は大きいぞ。勿体ないが、アウェスごと燃えちまえ!」

「今だ」


 アウェスは僕の作った土壁に走り飛んで隠れた。詠唱なんてなくていい、魔法杖も要らない。父さんの魔道具で作った。土壁に見えるけど「防壁」って名前の魔道具だ。地面や地下にある物質から作り上げるので、強度にばらつきはある。それでも、水や火を防ぐぐらいなんてことない。

 アウェスを大きな火の矢から守るためだけに作った防壁を、僕は駆け上がった。

 身体強化の魔法のおかげで、火にも強い。念のため【盾】魔法も掛けてみた。透明の盾だ。


「うおっ、な、なんだ!」


 防壁の天辺を踏み込んで飛ぶ。普通の人が飛べるような高さじゃない。もっと飛ぶ。

 強い風が後押しする。


「お、おい、もっと上に行け。アウェスだろうが、さっさと動けっ! うわっ」

「遅いんだよ、ばーか!」


 ガルボの近くにいたファルケ乗りの男を踏み台に、更に飛び上がる。


「お、お前、まさか天族なのかっ?」


 そんなわけないだろ。

 って、返せば良かったのに、何故か気になって眉を顰めた。まあ飛んでいるから動きは止められないんだけど。

 僕は勢いよく、ガルボの左側に入り込んで指示棒を振りかぶった。

 剣の届かない場所だ。

 ガルボはアウェスを方向転換させようとしたんだろうけど、無理だった。

 僕とチロロならできた。信頼関係があるからだ。騎乗訓練もしている。

 ガルボと盗まれたアウェスの間には何もない。だから即応できないんだよ。


「ぐあっ、痛ぇ、くそ! もっと上に行け! 森の上から、焼き払ってやる!」

「ピギャァァァッ!!」


 鞭を打たれたアウェスが痛々しい姿で、上を目指した。

 僕は近場の木の枝に飛び移ると、足場にしてまた飛び上がった。風が吹く。すごく強い風だ。

 それでも、森の上空ともなると僕一人の力では飛び続けられない。

 そこに、チロロがすいっと飛んできた。


「チロロ!」

「ちゅん!」


 木の枝を飛び移りながら、チロロが飛んでくるであろう場所を狙って突っ込む。

 チロロも分かっているから、体を少し斜め横にして僕の体を受け止めてくれた。

 こういう飛び乗りは何度もやった。訓練というよりは遊びでだ。楽しくて楽しくて、一人と一頭で朝から晩まで何パターンも練習した。

 落ちるだとか失敗するだなんてことは一切、頭にない。


「チロロ、あいつを追って。アウェスは振り落とせないみたいなんだ。たぶん、鞍と繋がってる。首にも鎖が巻かれているっぽい」

「ちゅんっ」

「みっ」

「腹立つよね。せめて騎鳥から降りてくれたらなぁ、いくらでも存分に魔法をぶち込んでやるのに」


 ニーチェの通訳で分かったんだけど、盗賊たちの乗る騎鳥も盗まれてきたものだ。無理な調教をされていたようだし、衰弱もしている。その中でも体力のある騎鳥が男たちの専用騎鳥として使われていた。

 体力がなかったり盗まれてきたばっかりの騎鳥が穴の近くに押し込まれているようだった。

 ぐったりしている子たちは、どうも調教に従わずに暴れたため「見せしめ」として虐待を受けたようだ。早く治療してあげたいのに、てこずっている。

 一対一や、騎鳥が絡みさせしなければ戦えるのにと思うと、すごく悔しい。


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