045 空から騎獣を捜す、この騒ぎに乗じて
通信用の魔道具は借りなかった。相手のチャンネルだけ聞いた。だって、警備部に割り当てられてる伝声器、大きいんだもん。持てないよ。僕は父さんの作ってくれた最新式の小型伝声器を持っているからね。チャンネルを登録して、さっさと空に移動だ。
ヴァロは、アドを連れて地上を追いかけてきてくれる。応援に駆け付けていた北門の兵士たちも一緒だ。僕とも顔見知りなので、もし何かあった時に説明してくれるらしい。騎士団の中でも厄介なタイプがいた場合に仲立ちしてくれるそう。助かる~。第八隊のフルメ班の人たちがヤバかったからね。あんなのが来たら僕は逃げるぞ。
まあ、フルメ班は騎獣乗りだから空は飛べない。面倒事には巻き込まれないで済むかな。
それにしても、トップの騎鳥乗りでさえ夜間飛行は滅多に行わないと聞いて驚いた。
一応、訓練はするそうだけど、かなり危険な行為になるんだって。昼間の二割も力を発揮できないとか。
そりゃ鳥は夜目が利かないけどさぁ。それも工夫次第というか、たとえば最初は灯りを用意してあげて感覚を掴ませるとかすればいいのに。
チロロの頑張り具合が際立っちゃうな~。
「よーし、チロロ、張り切って捜そうね!」
「ちゅん!」
「み!」
「おっ、ニーチェも頑張るの?」
「み~」
「偉いなぁ」
撫で撫でしながら、僕とチロロは空から目標物を捜す。
早速、一頭を発見。
「ホルンベーア、下町三区の急階段近くに発見。ヴァロ、近道するならメレラさんの家の庭を通って。公園側だよ」
「分かった!」
捕縛用の縄は兵士が持っている。ヴァロに遅れること数分で現場に到着した模様。上空からでも「ひぃひぃ」言ってるのが分かった。急階段を走ったもんね。お疲れ様です。
なんだけど、申し訳ない。もう次の目標物を発見してしまった。
「あー、今度は四区だ。三人連れの兵士さーん! あ、一人だけ太っちょの人がいるグループです。違う、そう、あなた! そこから西に百歩の距離にシュティーアが二頭います」
「二頭っ?」
無理だという声も聞こえたけれど、応援の兵士が集まってきた。
ヴァロも捕縛は兵士に任せて走っている。
そのうちに、傭兵ギルドや荒事が得意そうな一般人も出てきて包囲網を狭める。
すると、僕の伝声器に連絡が入った。
「こちら、クラウス=サヴェラです」
「サヴェラ副班長!」
「はい。わたしが今回の件の陣頭指揮を執ります。兵士全体への指揮はわたしを通して行うので、今から個人チャンネルに切り替えてもらっても構いませんか」
「はい」
カチカチッと音がして、切り替わる。
「……もう大丈夫ですね。こちらの事情で申し訳ないのですが、あなたの能力については隠しておきたい。フルメ班に知られて横取りされるのも業腹ですからね」
「横取りって。えっ、成果じゃなくて、僕をですか? 違いますよね?」
「あなたを、ですよ。最初に目を付けたのは自分たちだ、と言い出して取り込もうとするでしょう。彼等は欲深いんです」
「わぁ」
「それより、久しぶりの会話が捕り物の現場とは思いませんでした。再会を懐かしみたいのですが、先に騎獣の捜索ですね」
「はい」
というわけで、僕は次々と騎獣の居場所を伝えた。駆け付ける人の誘導をしなくて済むので、早い早い。騎獣が移動したとしても上空からだと簡単に察知できる。どんどん確保が進んだ。
六頭目が確保された時には、どれだけの数が放たれたかの情報も入ってきた。
となれば残りの目安も立てられる。あと三頭だ。二頭までは場所が分かっている。
残り一頭だなとホッとしたのも束の間、次の問題が起こった。
宿屋や騎士団の騎鳥獣舎が襲撃に遭ったと連絡が入ったのだ。
たぶんこれが本来の目的だった。預かり所を襲撃して騎獣を放ったのは陽動で、騒ぎを起こしている間に騎鳥を盗もうと考えたんだ。奴等の本命は最初から騎鳥だった。
サヴェラ副班長から一報をもらった僕は、猛烈に腹が立った。
「信じられない! しかも、訓練を受けていない騎鳥は夜の移動を怖がるんだよね? さっきヴァロに聞いた。そんな中、無理矢理連れて移動するなんて許せない」
「カナリア、落ち着きなさい」
「でも――」
言いかけて、止まる。
僕は唖然として、西方向に目を向けた。
「どうしました?」
「空を飛んでる……」
「誰でしょう。うちの騎士団からは、揉めていてまだ誰も出ていないはずです。え、まさか!」
「飛び方がおかしいから、たぶん。あ、まただ。あーっ、何頭も飛んでいます!」
「どちらに向かっていますか」
「南西側です。奴等、王都を出るつもりだ!」
「カナリア、騎獣はもうほとんど見付けましたね?」
「あっ、はい!」
「今の会話中に移動した騎獣は?」
「ま、待ってください。ええと、大丈夫。大体は同じところをウロウロしてます。残りは一頭、あっ、見付けた! ホルンベーアだ。東地区に走っていきました。え、待って、誰か出てる。なんでだよ、警報が鳴ったら屋内に避難だよね? 周りに兵士――も、いないじゃん! くそっ、助けに行きます、いいですか!」
「構いません。優先すべきは人の命です」
慌てまくった僕の滅茶苦茶な報告を、サヴェラ副班長は冷静に受け止めてくれた。
伝声器の向こうで、南西側に人をやるための指示が出される。西に配置していた兵士も動かすみたいだ。
盗まれた騎鳥も確かに心配だけれど、今は獰猛な騎獣に襲われるかもしれない人の方がもっと心配。僕はチロロを急行させた。
男の人は警戒警報は聞いていたみたいだけど、酔っ払ってて「大したことないだろ」と思ったのかな。たぶん涼もうとして表に出てきて、ホルンベーアに目を付けられた。
一般人が自分より大きな獣を前に動けなくなるのはよく分かる。オジサン、真っ青な顔で立ち竦んで足が動きそうになかった。つまり、僕が逃げろって指示したとしても逃げられない。
となれば、ホルンベーアを動かすしかなくて、僕とチロロは滑り込むように間に割って入った。同時に僕はチロロから飛び降りて、指示棒をサッと取り出した。
チロロにはオジサンを隠す盾になってもらう。
「君も可哀想だよね、興奮剤を使われたんだもん。だけど、ごめん、少しの間我慢して」
向きを変えたホルンベーアを、指示棒を使って興味を引く。
シュティーアじゃなくて良かった。牛タイプは真っ直ぐに走る癖があるらしいから。と言っても、熊タイプもそれに近い。間違ってもオジサンのいる方には行かせないよう、体の向きが横になったところで仕留めに掛かった。
もちろん、拘束するだけ。
興奮冷めやらぬホルンベーアに向かって走ると、直前で飛び上がってくるりと一回転。体の上に乗った瞬間に、魔法を放った。【沈静】と【拘束】だ。ホルンベーアはその場に蹲った。
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