044 外壁門の騒ぎと襲撃犯や騎獣を追いかけろ




 また森での魔物狩りが始まった。途中でヴァロの騎乗訓練もする。

 テントを張って泊まりたいとヴァロが言い出すほど、ハマったよね。

 分かる。だって飛べるんだもん。ヴァロは顔がにへらって感じになっちゃうし、アドも張り切って頑張っちゃう。それを見た僕も嬉しくなる。

 そうそう、短い距離なら飛べるようになった。だからこそ本当はもっと続けたい。ヴァロがテント泊を希望する気持ちも分かるんだ。

 だけど、基本的に王都周りの森で狩りをする場合は日帰りというルールになっている。僕らは毎日王都に戻った。


 まあでも、大量に魔物を狩れたし、平和な三日間だったと思う。

 ヴァロが「次は三日後か」と項垂れるのが可哀想なぐらいで。



 その三日目の夜に事件が起こったわけです。

 ちょっと遅くなったかなってヴァロと言いながら、急いで外壁門に着いたんだよ。

 ただ、着く前から様子が変だなとは思っていた。どよめきみたいなのを感じたんだ。

 ヴァロと二人、顔を見合わせて歩みを早めたのもそのせい。


「なんだ、あの音。警報か? 警備兵の姿もないぞ」

「並んでいる人もいないね」

「そりゃあ、北門はそろそろ閉まる頃合いだからな。この時間に北門から入る奴は世間知らずだけだ」

「どうせ僕は世間知らずだよ」

「お前の場合は騎獣の盗難事件があったせいだろ」


 お喋りだったのは、たぶんヴァロも僕も気持ちを落ち着かせるため。

 平常心を保つための術だ。


「おーい、どうした。誰もいないのか!」


 ヴァロが声を張り上げる。すると外壁警備部の兵士が一人、内側に建てられた詰め所から出てきた。


「ああ、待て。止まれ。いや、お前は確か傭兵ギルドの、ヴァロだったか?」

「そうだ」


 簡易の柵状になった門が、閉めようとして跳ね戻ったのか隙間があった。僕とヴァロはそこから中に入り込んだ。

 ヴァロは兵士と話をするために詰め所側へ向かい、その間に僕は門の隙間を広げてチロロとアドを入れた。


「なんだと、騎獣鳥預かり所が襲撃されたっ?」

「南門の外にあった預かり所がやられたんだ。その後、西門の内側の預かり所も襲撃を受けた」

「ここは大丈夫なのか」

「北門の預かり所は閉めていたからな」

「そうだったのか?」

「隊長が、急遽閉鎖を決めた。元々預かる数も少なかった。東門に連れて行ったところだったんだ」

「じゃあ、何故騒がしいんだ」

「ここも狙われると思ってバタバタしていたんだよ。特に襲撃犯は煙幕を使って逃げたと連絡があったからな。それに、応援に兵士を割いたから急いで閉める必要があったんだ」

「なんだよ、じゃあ、俺たちはギリギリ間に合ったのか」


 兵士が話しながら、門までやってきて完全に鍵を掛けた。扉も閉めるようだ。準備を始める。


「これから、数人だけ残して応援に行く。できれば君らも手伝ってくれないか。傭兵ギルドにも要請が入るはずだ。そっちに寄ってくれてもいいが――」

「時間が勿体ないな。分かった。カナリア、お前もいいか?」

「もちろん」

「傭兵の応援があると助かるよ。東門には今、隊長がいるはずだ。そこで指示を仰いでくれ。俺たちもすぐに後を追う」


 というわけで、僕らの残業が決まった。

 腕章はないけれど王都内警邏で顔は売れている。北門の兵士にも顔を覚えられていたから、襲撃犯と間違えられる心配はない。

 僕らは急いで東門に向かった。



 外壁警備部の隊長は顔見知りだ。僕らを見て「助かった」と声を上げる。

 ヴァロは早速、隊長に話を聞いた。


「さっき北門で、騎獣鳥預かり所が襲撃されたと聞いた。何が盗まれた?」

「盗まれたのではなく、逃がされたんだ。あそこに預けられていたのは、ほとんどが王都内に入れられないシュティーアやホルンベーアばかりだった。興奮剤を撒かれたらしく、異常な様子で王都に入り込んだ」

「はっ?」

「犯人も一緒だ。外には出ていない」


 つまり、王都内で捕り物を始めなければならない。しかも獰猛な騎獣と襲撃犯たちだ。

 騎士団にも連絡は行ってて、すでに動いている。他にも騎獣鳥の教習所や管理所、調教師を掻き集めている真っ最中だとか。

 それなら僕らの出番はあまりないかな。

 ヴァロもホッとした様子だった。騎士団が出張るなら大丈夫だろうと零す。

 なのに、隊長さんの顔色は優れない。


「どうした? 何か気がかりでもあるのか」

「騎獣を捕まえるにしても、どこにいるのか捜すのは至難だぞ」

「あの図体だ、簡単だろうが。警戒警報も発令したんだろう?」


 北門に入る前に感じたどよめきや騒ぎは、警報のせいだった。


「発令中は誰も外に出ないだろうが、日が落ちた今、どうやって捜せばいい。暴れたり鳴いたりすれば居場所も分かるが、それでは後手だ。先んじて追い詰めないと意味がない」

「……そうか、空から追えないのか」


 深刻そうな二人のやり取りに、僕は首を傾げた。

 いや、なんでさ。

 そう突っ込みたい。


「あの~」

「なんだ、カナリア。今は緊迫した場面だぞ。せめてシャキッと話せよ」

「だって」

「あん? 何か良い案でもあるのかよ」

「案かどうかは分からないけど、空から騎獣の居場所を捜すのなら、僕がやれるよ?」


 ぐりんっと二つの顔がこっちを向く。怖いってば。

 僕は少しだけ仰け反って、それから横で賢く待機していたチロロを撫でた。


「夜間飛行、僕らは得意だよ。ていうか、騎士団の騎鳥も夜間の移動訓練はしてるんじゃないの?」


 民間じゃあるまいし。得意じゃないとは聞いているけど、できないわけじゃないでしょ。

 そう思って、控え目な提案をしたつもりだった。

 なのに二人とも、特に隊長さんが目をぐわっと開けて前のめり。


「君は夜間飛行ができるのかっ?」

「わっ、はい、できます! ていうか、雨夜だって飛べる。あ、第八隊のシルニオ班長も知っています」

「カナリア、お前すごいな。マジか。ていうか、まん丸もすごいじゃねぇか」

「チロロね」

「小鳥みたいな顔してんのに、アウェスやファルケでもできないことができるのか」

「話、聞いて」


 ヴァロに呆れていると、隊長さんが僕の肩に手を置いた。目が怖い。


「頼まれてくれるか!」

「空からの捜索ですね。任せてください」

「騎士団には連絡を入れておく。そうだ、兵士の服を着せればいいか。おい、誰か体の小さい奴、制服を脱げ!」

「いや、結構です。嫌です。脱がないで! 僕、絶対に着ませんから!」

「そうだぜ、隊長さんよぉ。うちのカナリアに汚い野郎の服なんざ、着せられない。大丈夫、味方だって分かるように説明すりゃいいんだ」


 良いこと言うって思ったのに、ヴァロの次の言葉で僕は半眼になった。


「まん丸の小鳥みたいな白い騎鳥に乗った可愛子ちゃんが飛んでいたら、それは傭兵ギルドの秘蔵っ子だってな」


 隊長さんもノリノリで連絡しないでほしい。

 僕はぶすっとした顔のままチロロに乗った。


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