043 家族の話や個人情報の開示
ヴィルミさんはハッとすると頭を抱えた。でもすぐに顔を上げ、ヴァロを見る。
「絶対に漏らしてはなりませんよ。分かりましたね?」
「うぉい! 当然だ、ヤベぇもんな。ていうか、なんだそれ。お前の父ちゃん、一体何者なんだよ」
「シドニー=オルコット。本人は有名人だって言ってたけど、王都で聞いたことないんだよね。さすがに父親を法螺吹きだとは思いたくないし、だからたぶん過去の人なのかなと――」
「いえ」
「うん?」
ヴィルミさんが人差し指を額に当てて目を瞑る。なんか、名探偵みたいな格好だ。メガネを掛けているし、見た目は真面目な事務員さん風なのに面白い。
ヴァロは怪訝そう。僕を見てヴィルミさんを見て、首を傾げる。
「……同姓同名ですが、まさか『賢者様』ではないでしょうね?」
「あ、本人はそう言ってました。『俺は賢者だぞ』って。最初は母さんの住む里で暮らしてたんですが、魔法がすごく使えるってことで皆にチヤホヤされてました」
「なんてことだ」
「おい、どうしたよ。ヴィルミ、頭が痛いのか?」
「痛くもなりますよ、全く。いいですか、カナリア。賢者様の名は一般には知られていません。だから、あなたの耳にも入らなかった。それに最近は賢者様の功績を口にする者が減りました。王都を出てしまいましたからね」
「あ、そうなんだ」
「もう二十年以上も前になるでしょうか。わたしが下っ端の頃に見掛けたことがあります。そりゃあすごかった。強いなんてものじゃない。魔法だけでなく、作った魔道具の威力も凄まじくてね。持て囃されていましたよ。それが、ある日突然いなくなってしまった。まさか、辺境にいたとは」
「母さんに一目惚れしてストーカーになったらしいから」
僕の言葉に、ヴィルミさんは更に頭を抱えた。分かる。ストーカーはヤバいよね。
でもまあ、母さん本人がそれを許しちゃったわけで。
僕なら嫌だけど、きっと母さんには父さんが格好良く見えたんだろうなぁ。
前世で聞いた「ただしイケメンに限る」って奴だね。
「……賢者様の個人的な事実についてはともかく、カナリアが特殊なことに理由があって良かったです」
「え、僕は特殊じゃないです。父さんが変なだけで」
「いいえ。あなたは特殊です」
「そうだよな。俺もカナリアは変わってると思うぞ」
思わず、ぶすっとした顔になる。二人に反論しようとしたけど、もういいや。
チロロも待っているし話を進めよう。
「とにかく、収納庫はあるけど中身をぶちまけるのは問題があるので借りることにします」
「それが無難でしょう。念のため、ヴァロ、あなたが借りなさい」
「へーい」
ついでなので、僕はヴィルミさんに出身地の話もした。今後を踏まえてだ。
傭兵ギルドに言っておかないと、仕事の関係で天族といつ顔を会わせるか分からないもんね。ヴァロは収納庫を借りるために席を外したので今のうちだと思ったのもある。
で、天族の里で大変な目に遭って出てきたと話したら、ヴィルミさんが三度目の頭を抱え中。
「まさか天族の血を引いているとは思いませんでした。しかも、秘密の里を出て家族だけで暮らしていたのですか。そんな情報まで聞かされるとは……」
「ヴィルミさん、そういうわけだから、僕は戦争には行きたくないんだ。分かってくれた?」
「しかし、天族はそこまでカナリアを嫌っているのですか。その、追い出すほど?」
「五歳の子に面と向かって『恥さらし』と言うぐらいにはね。僕だけ里から追い出そうとしたんだよ。あの時の父さんの目、ヤバかった」
「賢者様はよく里を壊さなかったですね」
「母さんの方がもっとヤバかったからかも。ほら、自分が腹を立てていても、その隣でもっと腹を立ててる人がいたら力が抜けちゃうよね? あんな感じ」
「確かにそうかもしれません」
「あ、そうだ、僕に天族の力は期待しないでください。僕、自分の羽で空は飛べないから」
ヴィルミさんが頷き、そして半眼になった。
「自分の羽で
よく気が付くなぁ。僕は笑った。
「賢者の息子なので最低限の魔法は教わりました。多少は飛べます。もちろん魔法でね」
「ほほう」
「でも、僕にはチロロがいるので! 空を飛びたいのならチロロに乗ればいい」
「なるほど。試験でも魔法を使いましたか?」
「試験の時は魔法なしです。あの程度は体術でなんとでもなるから。その手の訓練は母さんに仕込まれたんです。魔法の教育は父さんが担当してました。でも父さんいわく『そこそこ』程度らしいです。そっちも期待はしないでください」
「ふふ。賢者様の仰る『そこそこ』ですか。分かりました。とりあえず、天族の情報を集めておきましょう。カナリアと会わないようにしなければね」
「助かります」
他に、僕の個人情報を知っている人はいるか聞かれて「そういえば」と思い出す。
「騎士団の、ええと第八隊のシルニオ班長とサヴェラ副班長には話しました」
捕り物を手伝ったと言えば、四度目の頭が痛いポーズ。ヴィルミさん大変だな。
「あの班なら大丈夫ですが、あまりホイホイと喋ってはいけません」
「はい。一応、僕も相手を選んでいますよ? シルニオ班長は良い人だったし、ヴィルミさんも良い人だと思うから」
「……あなたときたら、本当にもう」
戻ってきたヴァロが不思議そう。
「ヴィルミ、お前なんか良いことあったのか。嬉しそうな顔してんじゃん。珍しいな」
「うるさいですよ。さ、明日の準備をさっさとしなさい」
「へーい」
ヴァロが慌てて離れていった。食堂にはエスコたちがいて、ヴァロの姿を見て笑う。ヴィルミさんに怒られたと思ったようだ。なんか楽しそう。
「全く。カナリア、あんな大人になってはいけませんよ」
「はーい」
「ああ、その返事の仕方がすでにヴァロです。せっかくの『可愛い傭兵さん』なのですから、あなたは可愛いままでいてください」
「あはは」
僕は笑って、可愛いと言ってくれたヴィルミさんにお礼を言った。
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