042 家政ギルドの次は傭兵ギルド、収納庫




 僕らの証言だけだと警備隊に報告しても軽くあしらわれるだけだ。

 裏付けのない「ちょっと変」で動いてくれるほど警備隊も暇じゃない。今はとにかく忙しい時期だもんね。

 そうは言っても、万が一を考えると情報を取りまとめておいた方がいい。

 馬車定期便の臨時ルートを練習する日が違うだとか、幌の色が気になるだとかも大事な情報だ。ギルドの職員の前で報告することで証言としての信憑性も高くなる。

 ついでに石やゴミが投げつけられたらしい場所も特定しておくらしい。

 こうなってくると何もかもが怪しく見えてくるよね。

 なにしろ全部「最近」のことだし、繋ぎ合わせて考えてしまうのは仕方ない。


 花祭りには大勢の人が集まる。王都外からもだ。というか他国の人も観光に来る。

 犯罪だって起こりやすい。

 ヤーナさんが慌ててギルドに戻るのも当然だった。

 僕は証言を終えると、その足で傭兵ギルドへ行くことにした。サムエルの送迎は断った。サムエルこそ危ない。地元民ゆえの謎の自信があるんだよね。僕からすれば、サムエルの方が心配だ。


「俺にはカナリアの方が心配なんだけどな。カナリアは可愛い顔をしているから、女の子と間違えられて襲われるかもしれないだろ」

「ありがと。でもほら、僕にはチロロがいるし、魔法も使えるからね」

「あ、そっか。魔法が使えるんだったな」

「うん。父さんみたいな広域攻撃魔法は無理でも、人間相手の一人や二人は全然簡単。魔物も倒せるんだから」


 胸を張ると、サムエルだけじゃなくて話を聞いてくれていた職員さんまで手を叩いた。



 傭兵ギルドに入って真っ先に見えたのは、飲んだくれの先輩たち。仕事帰りの一杯をやっている。絶対、一杯じゃ済んでないよな。

 ヴィルミさんはまだ残っていて、僕の報告を聞くと顔を顰めた。

 で、花祭りの関係で各ギルドの会合が密になるらしいので、そこで情報共有すると言った。警備隊とも話し合うらしい。


「カナリア、君の明日の予定だけれど、目端が利くから王都警邏に変更を――」

「待った。カナリアは俺とペアを組んでるんだ」

「ヴァロは森の見回りでしょう? 一人でどうぞ」

「ダメだ。こいつは元々、魔物狩りを希望していただろ。ちゃんと約束を守ってやれよ」

「なんですか、ヴァロ。あなた、カナリアのことを随分と気に入りましたね」

「おう。俺は先輩としてカナリアを一人前に育てるんだ」

「……変ですね」

「はっ?」


 なんか、ヴィルミさんとヴァロが不穏な空気を醸し出した。

 そこにエスコが割って入る。呆れ顔だ。エスコって最初に会った時も思ったけど、面倒見良いよね。


「ヴァロ、止めとけ。ヴィルミには敵わん。正直に吐け」

「正直も何も、俺には何のことだか」

「目が泳いでんだよ、ばーか」

「ええ。いかにも怪しい。大体、あなた、最初にカナリアへ絡んだでしょう?」

「……カナリア~」


 強面のオジサンが子犬みたいな顔で僕を見る。心なしかプルプル震える耳まで見えるようだ。これで盗賊を根こそぎ退治するのが趣味って言うんだから、おかしい。

 僕もエスコ同様に呆れ顔を作った。

 でもまあ、確かに困るんだよね。僕だって森に行きたい。


「ヴァロと訓練してるんです。王都内だとそれができないし、そもそも僕は魔物狩りの方が得意だ。成果も挙げたい。稼げるのも魔物狩りの方だし。四日後は王都警邏をやるので、明日から三日間は予定通りに森へ行きたいです」

「そうですか」

「カナリア~、ありがとうなぁ」

「ていうか、ヴァロはカナリアに頼りすぎだろ。お前、どうしたんだよ」

「エスコは分かってないな。カナリアは教祖になれるんだぞ」

「どういうことですか?」


 ヴィルミの目がキランと光る。僕は半眼になってヴァロを睨んだ。

 モテたいっていう例のアレについてだろうけど、口が軽い。そんな調子じゃ、なし崩しに森で飛行訓練をしていることまでバレるぞ。


「ヴァロ?」

「うぉい! 何もない。俺は何も喋らないぞ」

「……怪しいですね」

「……怪しいな。ていうか、カナリアが強すぎるだろ。ヴィルミみたいなのが増えたらどうすんだよ」

「どういう意味でしょうか」

「さて、俺は食事に戻るか。じゃあな」


 エスコはさっさと逃げた。

 ヴィルミさんは溜息を吐いて「仕方ありませんね」と納得。


「では、予定通りに明日から三日、森に行ってください。確かにカナリアが森に入った時の成果は素晴らしかったです。外壁警備部からは『あの魔物の量は一体なんだ』と連絡が入っています。魔物の引き取り所からも『今までで一番綺麗な状態だ』と褒められました」

「えへへ」

「花祭りで魔物の素材は高騰しています。頑張って狩ってください。ああ、収納庫を貸し出しましょうか」

「賃料がかかりますよね」

「ええ。ですが、狩った魔物を全部持ち帰られるのであれば安いと思いますよ」

「うーん。それなら自分のを使った方がいいな。あ、だけど、中身の確認をされるのか」


 中を全部見せてみろと言われると困る。

 一応、町や王都に入る際には嘘発見器みたいな魔道具を前に聞かれる。「生きた魔物を連れていないか」だとか「呪具は持っていないか」だとかね。この程度の質問に答えるだけだから簡単だ。

 だけど明らかに狩りの帰りで、しかも「獲物を収納庫に入れてます」ってことになると中を検められちゃう。

 別に変なものは持っていないけど、収納庫の中を全部を見せるのはまずい。


「見せたくないものがあれば宿に置いておけば良いのでは?」

「部屋に入りきりません」


 ヴィルミさんになら話してもいいかな。ギルドの職員だし、信用できる人柄だもんね。

 ヴァロも今は相棒だし、良い先輩でもあるからいいかな。他の人は近くにいないのと、飲んだくれてるから大丈夫だろう。

 僕は正直に告げた。


「僕の収納庫、ちょっと規格外なんです。父さんが作ってくれた最高の奴で、しかも過保護な親だから中身がいっぱい入ってます」

「……ええ。ええ?」

「ふーん。ていうか、子供に収納庫買い与えるってマジで過保護だな。俺でも持ってないぞ」

「あなたは金遣いが荒くて貯金ができないせいでしょう? 黙っていてください。カナリア、確認ですが、どれだけの量が入りますか?」

「量は、えっと、具体的には教えちゃダメだと言われていて。でも、母さんの料理が一日三食として大体一年分ぐらいは入ってます。あと、作ってくれた服も結構あるかな。野営用のテントセットも幾つか。それから父さんの作った魔道具と、食器類もありますね。雑貨に家具も」


 指を折りながら思い出す。途中で止めたのは、ヴィルミさんとヴァロの顔を見たからだ。

 ぽかんとした二人の顔が面白い。なんて言ったら、きっと怒られるんだろうな。


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