028 王都散策と首巻きと穴場発見
宿を中心地として、遠くの朝市まで円を描くように歩いて回る。ちょうど昼時に朝市の場所に着いたから買い食い。
屋台は軽食や飲み物を扱うところだけ。早朝だと店がもっといっぱいあるらしい。午後は屋台が消えて、夜になると今度は持ち帰り用の惣菜屋さんが出てくるそう。
食べ終わると、次は下町に足を運んだ。
何の仕事をするにしても王都の道を覚えるのは大事。
僕は地図が読めるタイプの人間なので全部は書き留めないけど、要所要所は押さえておく。ちゃんと間違えやすそうな変則道路はノートに書いたし、同じ建物ばかり続くところも要注意。
幸い、王都にはあちこちに街区表示板が設置されている。個人宅だと付けていない家もあるようだけど、辻ごとに道路標識が立てられていて街区もセットで書かれているから問題なし。
たぶん「A地区B列のCさん」だけで荷物が届けられるんじゃないかな。
それを言ったら、あんな辺境の町にまで荷物が届くんだもんなぁ。しかも宛先は「シドニー=オルコット」。父さん宛ての荷物に住所なんて書いてなかった。
預かってくれてる役場も役場だけど、送る方もどうかしてる。
「下町も道が入り組んでるだけで治安がすごく悪いってわけじゃないみたいだ。あー、でも、チロロが通れない路地裏は行くの止めようね」
「ちゅん」
「み」
ニーチェまで律儀に返事するのホント可愛い。
顔だけ出しているのも可愛い。
僕は周囲を見回して、チロロの体に入り込んだニーチェを呼んだ。
「出てくる? 僕の首に巻き付いてると大丈夫そうな気がする」
「み!」
ぴゃっと飛び出てきたニーチェを抱き留めて、言った通りに巻く。
実は王都を歩いていると、思った以上にペット連れが多かったのだ。犬や猫、兎が多いかな。窓越しに鳥籠も見掛ける。さすがに鳥の散歩とはいかないだろうから、家の中で飼っているんだと思う。
大きな朝市が開かれていた広場の一角でもペットたちが遊んでいた。芝生を走り回る犬たちは楽しそうでさ。
ニーチェもせっかく登録したんだし、イタチだって言い張る僕の言葉を誰も疑わなかった。これなら大丈夫。むしろ王都だから目立たない気がする。
そして、それは当たってた。
「おー、誰もニーチェに目を向けないね。むしろチロロの方に視線が向いてる」
「ちゅん~」
「え、もしかしてドヤ顔してる?」
僕が笑うと、チロロもご機嫌になった。
手綱を引きながら僕も足取り軽く王都散策を楽しんだ。
その日は他にも良いことがあった。フラフラ歩いている途中で素敵なカフェを見付けたのだ。フランスの田舎町にありそうな石とレンガでできた二階建ての家に、片面だけ蔦が這っている。窓が多くて、小さな露台には鉢植えが並べられていた。花が満開だ。向かいには小さな公園があって、そこも花で一杯。野放図に育っているんじゃなくて誰かが手を入れている。
たぶん、この通りの人たちが協力しあっているんじゃないかな。だって、カフェほどじゃないにしろ、他の建物にも似た系統の花が植えられているんだ。
計算された、手の入った都会の公園とカフェ。
最高じゃん!
「うわぁ、中も可愛い……」
「み」
チロロは表のポールに繋ぎ、僕とニーチェだけで店に入る。出入りを教えてくれるカランコロンと鳴るベルの音もまた良き。
「いらっしゃい」
「あ、はい。あの、この子も一緒に入っていいですか?」
「手元に置いてくださるなら構わないですよ」
「ありがとう。ニーチェ、良かったね」
「み」
「お客様、初めてですよね?」
「はい。この辺りを散策していたら、こちらの素敵なお店を見付けて」
「まあ」
店員さんは笑顔になった。
メニュー表を渡してくれて、お勧めも教えてくれる。
常連客らしき人たちは静かだ。チラチラと僕を見ているけれど、不快な視線じゃない。窓越しに見えるチロロにも視線が向かっているから、たぶん物珍しいんだろう。
僕はお勧めの紅茶と苺のケーキを頼んだ。ニーチェには小さなホットケーキを。
すると、店員さんが注文を告げた後に店の奥から男の人が出てきた。料理人さんかと思ったら、店員さんが「あら、マスター」と呼ぶ。
「どうしたんです? 普段は表に出てこないのに」
「……表の子には、食べさせてやらんのか?」
とは僕にだ。マスターはむすっとした顔で、口調もぶっきらぼうだった。だけど、良い人だと思った。
きっと厨房の窓からも表のポールに繋がれたチロロが見えたんだろう。
それで注文内容を聞いて気になった。
「あの子用に、ホットケーキを追加でお願いできますか?」
「ああ。……肉はどうする?」
「チロロは肉よりも野菜や穀物が好きで、ホットケーキだけでも十分です」
チロロは加工品でも問題なく食べられる。ただ、どちらかというと生の方が好きかもって感じ。噛み応え重視なんだろうか?
騎獣も雑食だと聞くけれど、騎鳥の胃腸ってどうなってるんだろう。不思議。さすが異世界だ。まあ、大きな鳥が人間を乗せて空を飛ぶのだから、魔法のおかげとはいえファンタジーだよね。
マスターは「そうか」と短く答えると奥に引っ込んだ。
店員さんがやってきて苦笑い。
「ごめんなさいね。あんな態度だけどマスターに悪気はないの。彼、無類の鳥好きでね」
「ああ、それで」
「気になったんだと思うわ。あの子、珍しい種類よね?」
「たぶん。まだ仲間らしき騎鳥を見掛けないので」
「そうよね。うちは鳥好きのお客さんも多くて、騎鳥の話題もよく出るのよ。でもあんなに丸くて白い騎鳥の話は聞いたことがないわ」
色はともかく、雀型もいないのかな。
父さんは「数は少ないけれど飛んでいるよ」と言っていたのに。
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