027 仕事について&お試し参加の誘い
エスコも「入れなくて良かったな」と言うぐらいだから、よっぽどなんだろうな。
だけど、そうなると何の仕事をするかだよ。
パンを食べ終わって手を拭き、うーんと唸る。
エスコは五つ目のパンを口に詰め込むと、珈琲を流し込んだ。ワイルドすぎるだろ。
「せっかく騎鳥がいるもんな。どうせなら使える仕事がいいだろ」
「何より、置いていきたくないんだよね」
「分かる、そうだよな! 俺もリリと離れたくない。仕事の内容によっちゃ置いていくことになるんだが、そういう時はマジで寂しいし悲しい」
ワイルドな男は意外と寂しがりだった。
「そうそう。だから、何か良い仕事ないかなぁ」
独り言のつもりだった。なのに、エスコは上着の裾で手を拭くと、腕を組んで考えてくれた。ぶつぶつと「商人ギルドか魔法ギルドって手も……」なんて真剣な様子だ。
魔法ギルドという言葉が出たのは、僕が腰帯から鞘型ホルダーを下げているからかもしれない。細いタイプだから魔法杖が入っていると普通は思う。実際、そこには魔法杖代わりの特製伸縮式指示棒が入っているしね。これは人間相手の戦闘時において「殺さず」に無力化できる武器だ。
魔物を殺すなら腕輪型魔法収納庫から剣を取り出せばいいし、魔法杖ホルダーと反対側に短剣のホルダーも下げてあるから取ればいい。
そうそう、この世界、武器を身に着けていてもいいんだ。さすがに貴族の家なんかはダメだけど。
とにかく、エスコは僕が魔法を使えると判断した。だけどな~。
「僕、魔法はそれほどなんだよね。父さんにも『センスない』って言われたし」
「そうなのか? 確かに、なよっとしているが、だからこそ魔法特化の戦闘スタイルかと思ったぜ」
「魔法も使うけどね。チロロと一緒なら鰐型魔物の成体を十匹ぐらいは地力で倒せるよ?」
「マジかよ」
「コツがあるんだ。僕、身軽だから上空からの奇襲攻撃が得意だし」
「ほほう。確かに見た目からして、すばしっこそうだもんな」
僕はふふんと鼻で笑って仰け反った。いや、自信満々ってつもりはないけど。
そもそも、鰐型魔物を十匹ぐらい瞬殺できないと父さんに家を出ることを許して貰えなかった。
魔力が尽きた時のことや、魔力を奪う魔物や魔道具だってある。そういう最悪を考えると、最低限の地力は必要だ。そこらへんは僕も父さんと同じ考えなので、母さん主体で体を鍛えた。
我が家では魔法なしだと戦闘力が高いのは母さんだからね。
「あー、でも、そうか。カナリアは男なんだっけ」
「うん」
「それなら、傭兵ギルドはどうだ。俺は歓迎するぞ」
「えっ」
「なんだよ、その顔は」
「いやー、そこは考えてなかったなって」
天族が時々請われて里を出るんだけど、あれって傭兵仕事なんだよね。雇用主は国。仕事内容はほぼ戦争関係。だから傭兵ギルドは関係ないと言えば関係ない。でも共闘関係にはあるよね?
「傭兵って言っても、怖い仕事ばかりじゃねぇぞ。まだ子供のお前に戦争へ行けって勧めることもない。仕事も選べる。市民になって徴兵されるよりはマシだと思うがね」
「強制参加の仕事もあるって聞いたけど」
「あー、そりゃ、ランクが上がればな。強い奴に出張ってもらわなきゃならん緊急事態はあるさ。魔物が押し寄せてきたら戦える奴等が真っ先に前に出るしかないだろ。所属ギルドは関係ねぇよ」
「まあ、そこは協力しないと生き残れないもんね。分かってる」
「無理に誘うつもりはねぇけどよ。試験的に参加してみるってのもアリだと思うぜ。お前の場合、他にやれそうなのは――」
「狩猟とか?」
「王都にある狩猟ギルドの依頼は畑のネズミ取りとかだぞ?」
「うわ。魔物狩りは?」
「魔物の狩り場なんぞ、王都から離れてるっての」
「そっか、そうだよね」
「お前なら女子供の護衛仕事に向いてそうだ。指名依頼が来るかもしれねぇ」
「あ、見た目?」
「そうそう。傭兵ギルドの悲しいところだな。むさ苦しい男が多い。女だてらに傭兵稼業やってるのは、ちょいとな。大体が戦闘好きだ。凄みがあって、男の傭兵より怖がられる」
姐御って感じの人が多いのかな。ちょっと興味ある。我が家にも戦闘が得意な女性がいたからさ。
「お試し参加もできるの?」
「おう。ギルドに登録だけして、好きな時に参加でもいいぜ。どのみち収入がないと生活できないだろ?」
「傭兵ギルドは掛け持ちって大丈夫なんだっけ?」
「うちは問題ない。職人ギルドだと嫌がられるよな」
「徒弟制度があるから職人ギルドは諦めたんだ。それにやっぱりチロロと一緒に働ける職場が一番だからね」
僕の言葉に、エスコは「な!」と嬉しそうに笑った。
彼は本当に自分の騎鳥が大好きらしい。手を伸ばしてリリの頬を掻いてあげた。
とりあえず、エスコがギルドに話を通してくれるというので、後日話を聞きに行くことにした。今日はまだ王都の右も左も分からない状態だから、観光を兼ねて歩く。
エスコも「おー、そうしろ」と勧めた。
「そんで道を覚えておけよ。警邏の仕事が案外多いんだ。先輩も一緒に受けるだろうが、何かありゃぁ一人で走ることになる。下町は迷うぞ~」
というわけだから、マッピングがてら下町も歩こう。
ちなみに、この世界には前世にあったような詳細な地図は売っていないらしい。
経路案内してくれる便利なアプリ、の代わりになるものもない。
国の関係機関にはあるんだろうけど、防犯上の関係で見せてはくれないだろうな~。売っていないという事実からも断定できる。
だったら、自力で作成するしかないよね。
それもまた楽しい。僕は朝市を出て、歩き出した。
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