026 朝食と情報、輸送ギルドについて




 男性はニッと笑ってカラビナを取り外し、それをまた取り付けた。


「な? 填め込む時も外す時も簡単だ。綱を結ぶよりも早いし、魔道具製だと本人認証が掛かるから盗まれる危険もない。あ、その場合は綱も魔道具製にした方がいいぞ」

「綱はこの子専用の魔道具だから問題ナシです。だけど、そのフックは便利そう」

「だろ。魔道具屋にも置いてあるが、騎獣鳥管理所の方が種類は多い」

「そうなんですね。情報ありがとうございます」


 お礼を言うと、男性は照れたように頭を掻いた。


「王都に来たばかりなら分からないこともあるだろ。なんだったら、俺が相談に乗ってやるぜ」


 ずずいと前に出てくる。もしかしてもしかしなくてもナンパかなぁ?

 良い歳した男が女の子(だと思っている僕)に親切な理由は何だろうかと考えていたら、お腹が鳴った。


「おっと、すまん。朝飯を買いにきたんだよな? 俺が良い店を教えてやるよ。さあ行くぞ」


 悪い人じゃなさそうだし、付いていくことにした。

 ちなみに、男性はファルケに「リリ、この可愛い白雀ちゃんを見ていてやってくれよ」と頼んだ。まあだから、僕も良い奴じゃんと思ったわけ。

 チロロにも友達ができるかもしれないし、何より仲間が固まっていると盗難にも遭いづらいもんね。



 男性は歩きながら「俺はエスコってんだ」と名乗った。

 傭兵ギルドに所属しているらしい。輸送ギルドでなくて良かった。


「僕はカナリア。王都に出てきたばかりでまだギルドに登録できていないんだ」

「そうか。おっ、ここだ、ここ。パンが美味いんだよ」


 エスコは意外なことにオシャレなパン屋さんに案内してくれた。オシャレっていうのは、屋台の飾り付けがいかにも「女性受け」を狙った感じだからだ。お客さんにも女性が多い。

 売り子をしているのも女性だけど、裏からパンを運んで並べるのは男性だ。夫婦かな。


「具材の種類が多くて飽きないぞ。パンも柔らかいのと堅いのと、幅広く置いてある」

「ホントだ、どれも美味しそう」

「だろ?」

「あっちの丸パンなんかは昼食用にも良さそう」

「そうそう。お前、分かってんな~」


 なんて話しているうちに順番が来て、僕は二つ購入。エスコは五つだ。お昼の分も含めてだろうけど、すごいな。

 それだけ食べるから、こんなに大きくなれるのかも。筋肉も結構付いてるし、傭兵やってたら鍛えられるだろうな。


 傭兵って、名前のイメージは悪いけど、実際には警邏や護衛といった仕事が主だ。

 もちろん、戦争になったら駆り出される。一応、断れるルールはあるみたい。基本的には国軍が前に出るから、あくまでも足りない部分の補完として雇われる。

 どちらかというとファンタジー世界の冒険者という職業に近いんじゃないかな。

 ただ、薬草採取は専門家がやるし、この世界にはダンジョンもないから「冒険者」という職業はない。個人的に冒険してる人はいるだろうな、いてほしい。


「飲み物はあの辺りに固まってるぞ。あと、肉っ気が足りないなら右側の奥がいい。新鮮な肉を捌いて、その場で焼いてくれる」

「えー、串焼きとかある? 食べたいな」

「おっ、そうか。朝から腹一杯食べられるとは、なかなか見所があるじゃないか」


 ため口でもOKだというエスコに、僕は早々に気さくな態度を取った。

 父さんが「傭兵は口調は悪いが気の良い奴等が多い」と話していたからだ。エスコも気にしなかった。

 で、黙ってるのも申し訳なくて、広場で食べられる場所を教えてもらった時に男だってことを話した。

 ものすごくショックだったみたい。しばらく固まってた。リリが「大丈夫?」と心配げにスリスリしてるのが可愛かった。


「チロロ、リリちゃんと仲良くなれた?」

「ちゅん」


 お喋りしながら、シートに座って食事を摂る。エスコは芝生の上に直接座ってた。ワイルド~。


「ごめんね、せっかく親切にしてくれたのに男でさ」

「いや、そりゃいいんだ。どのみち見慣れない奴や珍しい騎鳥連れがいたら声を掛けてた。っと、下心ありきで教えてやったわけじゃねぇぞ」

「うん」

「俺はただ、自分の目の曇りについてだなぁ」

「はいはい。早く食べよ。冷めちゃうよ」

「……おう。そうだな。食べるか」


 僕はもう二つ目のパンに齧り付いているところ。本当に美味しい。コールスローサラダとゆで卵が挟まれててボリュームたっぷりだ。最初のパンはクリームが練り込まれた、ちょい甘だった。

 ドリンクは紅茶にした。フルーツティーもあるんだよ。明日はそっちにしようかな。大きな広場の朝市にも行ってみたいし迷う~。


 僕がニコニコ笑って食べていたら、浮上したエスコが三つ目のパンを食べ終わってから話し掛けてきた。


「ところで、お前さん、どこのギルドに所属するか決めているのか?」

「あー、実は最初は輸送ギルドに入ろうとしていたんだよね」


 と言ったら、エスコが眉を顰めた。

 お、何かあるのかな。

 僕は慎重になりつつも、昨日の出来事を話してみた。エスコは人が好さそうだし、頭ごなしに「そんなことはないだろう」なんて否定しないと思ったんだよね。

 案の定、我が事のように怒ってくれた。

 で、こう言ったんだ。


「王都の輸送ギルドには元々黒い噂があってな。担当役人との癒着はおろか、輸送費の不当な釣り上げや中抜きがあるって話だ。会員になっても上前をはねられるってよ。入らなくて正解だぞ」

「うわ、そうなんだ」

「監査も入っているってのに尻尾が掴めないんだとよ。役員に大物の貴族がいて、そこから情報が漏れているって噂もある」


 ヤバいじゃん。そんなところ入らなくて本当に良かった。

 昨日は腹が立ったけど断られて正解だった。


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