021 とりあえず食事と、宿探し再開




 とりあえず、お昼ご飯を食べよう。

 広場の端には屋台が並んでいて、さっきから良い匂いが流れてきてたんだ。


「チロロはここで待っててね」

「ちゅん」


 広場に限らず、騎獣鳥を繋いでおけるポールはどこにでもある。大通り沿いや店の前にも必ずあった。無料駐車場みたいなものかな。認識票を付けていれば誰でも自由に使っていい。

 広場には他にも繋がれた騎獣がいる。僕は安心してその場を離れた。

 とはいえ今日の不運を思えば気になる。だから遠くへは行かない。目の端にチロロを確認しての買い物となった。

 幸い、チロロに手を出す不届き者はいなかった。警戒しすぎかな。だけど。


「都会は人が多いから、いろんな人がいるよね~」


 まさか、輸送ギルドの職員があんな・・・だって思わないじゃん。

 僕が溜息を吐く横で、チロロは無警戒で食事中。美味しそうに食べるなー。ニーチェも一緒に野菜をバクバク食べてストレスなさげ。良かったね。


「仕事、どうしようかな。家政ギルドは女性が多くて、男性の登録者は嫌がられるんだったっけ」


 職人ギルドは徒弟制度が幅を利かせていて、登録はできても仕事が回ってこない可能性がある。どこかに師事するのも年齢的に難しい。皆、小さい頃から学び始めるんだって。

 商人ギルドは比較的入りやすいけれど活動内容のチェックが厳しい。ランクによるけど、納税額が少ないと会員資格を剥奪される。まあ、登録だけして仕事はしないって人を排除したいんだろうな。商人ギルドは継続の基準が厳しいらしいよ。


「このまま宿に泊まれないとしたら、どこかに部屋を借りるしかないわけだけど……」


 そのためには就業しているという証明が必要。

 あれ、これ、詰んでない?


「いやいや。諦めるのは早すぎる。まだ初日じゃん。それに南部や東部にも大きな都市があるんだもん。そっちに行ったっていい。この国がダメなら他国に向かうのもアリだし」


 ちょっと問題なのは、他国に行くと父さんが心配するってことかな。

 この国――アルニオ国――が比較的安全だからこそ僕の自立を許してくれたところあるし。

 父さんに連れ戻されないためにも、がんばろ。



 午後は宿探しに専念だ。

 次も飛び込みで行って断られるのは嫌だから、案内所に行く。

 輸送ギルドの近くにあった案内所には行かないよ。関係者が経営してたら嫌だし、そうでなくとも考え方が似てる可能性だってあるよね。情報のやり取りはあるだろうし。

 というわけで、ギルドを巡って雰囲気の良さそうなところを探した。

 最終的に、家政ギルドが良い感じだと思った。隣に建つ案内所の雰囲気も女性向けっぽくてアットホームな外観。なんちゃって山小屋ロッジ風だ。女性が好みそうな温もり系。

 とはいえ、僕は男だ。入った途端に「帰れー」って言われたらどうしよう。

 ドキドキしながらドアをノックした。


「はーい。あら、いらっしゃい。可愛らしい格好ね」

「あ、ありがとうございます」


 よし!

 小さくガッツポーズ。でもまだ安心できない。肝心要の宿探しを相談だ。


「あの、実は今日、王都に着いたばかりなんですが」

「まあそうなのね」

「宿がまだ決まっていなくて、紹介してもらえないでしょうか」

「いいわよ。先に宿を取るのは大事ですものね。偉いわ」


 あれ、もしかして僕を子供だと思ってる?

 あと女の子と間違っている可能性もあるな。

 ちょっと緊張しつつも正直に身の上を語る。

 もちろん最初の案内所でも名前や年齢は伝えてあるよ。


「王都には仕事を探しに来ました。辺境の出で、カナリア=オルコットといいます。十五歳になったばかりです。えっと、僕は男なんですけど宿の紹介は可能ですか?」

「あらあら。今時珍しく礼儀正しいわね。最近の子はこちらから尋ねないと教えてくれないのよ」

「あ、はい。そうなんですか?」

「ええ。初めての相手に個人情報を教えられないって言うの。けれどねぇ、ここはギルドと連携した案内所なの。紹介する店や宿とも協力し合っているわ。そんな取引先相手に、迷惑を掛けるような真似はできないでしょう? だから、最低限の情報をいただかないとね。利用者さんが案内所に来るのは正しく情報を得たいから。同じことなのにねぇ」


 おっとりとした見た目なのに、めちゃくちゃ早口。不満が溜まっていたのかな。でも不快さは感じなかった。柔らかい声音がまるで「優しいお母さん」だからかも。

 僕はうんうんと頷いて笑顔になった。なんかホッとする。


「まあまあ、本当に可愛らしいこと。では、紹介できる宿をピックアップしましょ」

「あ、あの、小型種の騎鳥もいるんです。獣舎がある宿でお願いします。それと、宿泊できるように交渉もしてもらえませんか」

「ええ、いいわよ。騎鳥は、ああ、白い子ね? 交渉も任せてちょうだい」


 お店の一覧が載っているらしい台帳を取り出し、パラパラ捲る。

 慣れた手付きで、サラサラとその場で地図も描いた。はやっ、すご! 住所もパパッと書いちゃう。なんでもなさげにやってるけど、お仕事ができる人だ。


「そうねぇ、あなた、足腰は丈夫そうよね」

「あ、はい。たぶん?」

「可愛らしい格好だから分かりづらいけれど、足取りがしっかりしていたもの。大体の騎鳥乗りは体格がどうあれ、体幹を鍛えてあるから安心はしているのよ? でも中にはダメダメな子もいるの。特に小型種の騎鳥を持っているお嬢さんね。彼女たちは騎鳥をペットとして連れ歩くだけなの。飛行しないものだから、どちらも体力不足になるのね」

「えー、そうなんですか」


 なんて雑談しながらも、彼女は三軒分の紹介状をパパッと作ってくれた。

 ちなみに、足腰について確認したのは上層階になるほど料金が安くなるからだった。


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