020 輸送ギルドの登録は
最悪のパターンでも、王都を出てテントを張ればいいんだ。だから、そこまで落ち込んではいない。
……チロロに抱き着いた。うん、ショックはショックだもん。
僕が顔を埋めたままでいると、チロロが「どうしたの?」という感じでもぞもぞ動く。顔を離すとチロロが首を傾げた。
ニーチェも気になったのか、ぴょこと顔を出す。すぐに引っ込んだけどね。
王都に入る前、僕はニーチェに言い聞かせた。魔物と間違えられたら困るからチロロの羽の中で隠れているように、って。今のも、周りに誰もいないから顔だけ出したんだ。チロロと似たような色だから全身が出ててもバレないとは思う。
それに、ニーチェは認識票を付けている。シルニオ班長の裏書き付きだ。サヴェラ副班長が役場でもらってきて証明書にサインしてくれた。ちなみに種類はイタチで登録している。
何かあっても魔物じゃないと言い張れるんだけど、心配は心配だからさ。
僕はチロロの羽の中に手を突っ込んでニーチェを撫でた。もう片方の手でチロロを撫でる。
とはいえ、このままモフモフしてても時間が過ぎるだけ。
「仕方ない。先にギルドで登録するかー」
「ちゅん」
「み!」
チロロとニーチェの返事が応援しているみたいだった。
俄然やる気になった僕は、門兵さんに教えてもらった輸送ギルドに向かった。
まあでも、結論から言えば輸送ギルドで登録はできなかった。
ダメとハッキリ言われたわけじゃない。ただ、最終的にムカついて「もういいです」って、ぶち切れちゃった。
僕、前世ではもう少しおとなしかったし、意見を言えるようなタイプじゃなかったんだけどなー。前世の記憶があっても、今は別の人生なんだから違うのかな。育ててくれた父さんや母さんという後天的な環境も関係あるだろうし。
とにかく、僕は静かにぶち切れた。
理由は簡単だ。輸送ギルドの受付女性や上司の男性にチロロの実力を侮られたから。
「この子は魔物を五体まとめて運べるぐらい力持ちです。速く飛べるし、能力も――」
「自己申告されてもねぇ。子供は小さなことでも大袈裟に言うから。ははっ」
僕を子供だと思うのは勝手だけど、針小棒大に話す人間だと決めつけるのはどうなの。
もしここでギルド登録しなかったとしても、客になるかもしれないんだぞ。サービス業としてアリなのか?
そう思ったものの、我慢した。ここまでは。
「だから試験を受けると言ってるじゃないですか。会員になるには試験があると聞いています。誰でも受けられるはずです」
「試験はね、最低限の能力があると分かっていなければ受けさせられないんだよ」
「そうなのよ~、ボクちゃん、よく分かったぁ?」
この受付女性、始めにチロロを見て「プッ」と吹き出したんだよね。
だもんで、最初から気に入らなかった。
「あ、そうですか。分かりました。この王都の輸送ギルド本部は会員になりたいと訪れた騎鳥連れの人間に試験の説明もせず、当然の権利である受験すらさせてくれないんですね?」
「やだぁ、怒ったの? 怖いわぁ」
「そんな態度じゃ、どこでだって働けないぞ。全く、今時の子は」
「はい。僕は今時の子です。なので、ちゃんと報告しておきます」
父さんに。という言葉は飲み込んだ。
男性職員は目を眇めた。ほんの少し「もしかして何かあるのか?」と考えたようだ。
報告する、なんて言い方したもんね。誰に報告するんだろうって、少しは気になるはず。普通なら。
でも、女性の方は「捨て台詞なのぉ、かわいい~」だってさ。
「君、誰に報告するって言うんだい? 子供の戯言を聞いてくれるような部署なんてないよ。皆の迷惑になる。大人の仕事を邪魔してはいけないよ。そんな考えだから試験を受けさせられないんだ。分かったね?」
「そうよぉ~」
「もういいです。じゃ、さよなら。二度と来ません」
窓口から覗いていたチロロに「表へ回っていいよ」と声を掛け、僕は輸送ギルドを出た。
ドライブスルーみたいな窓口に「面白いな~」と笑っていた数分前が懐かしい。
なんだよ。ほんとにもう。
輸送ギルドって、騎獣鳥を連れていたらすっごく有り難がられるって聞いたのに。父さんの嘘つき。
八つ当たり気味に考えながら、広場まで進んだ。
「それにしても、泊まれないしギルドにも所属できないって何だよ。ね!」
「ちゅん!」
「み!」
「泊まれなかったの、この服装のせいかなぁ。蛮族っぽい? 綺麗にしてあるんだけどな」
都会のようなシンプルで洗練された服装ではないもんね。
だけどさ、母さんが作ってくれた服なんだ。母さんはパッチワークキルトっぽい布を作るのが好きで、これもそう。
ちょっと変わっているから民族衣装に見えないこともない。
王都に入るからって気合いを入れて、一番手間暇がかかったという母さんお勧めの一張羅を着たのがまずかったのかな。
でもこれ、赤系統でまとまってて可愛いと思うんだけどな。丈が長いからワンピースっぽいところも気に入ってる。チロロに乗るからボトムスはちゃんとパンツを穿いてるよ。ワイドパンツっぽいけど、革のショートブーツに裾を入れているので邪魔にはならない。
「うーん。もうちょっとシンプルな緑系のシャツにすれば良かったのかなぁ」
「ちゅん?」
「チロロは服は着ないもんね~。あ、そうだ、服も買いに行きたいな。僕の好みはシンプルな白シャツなんだ」
パッチワークも可愛いよ。でも自分が着る服はシンプルなのがいいや。ワンポイントで可愛さを表現したい。たとえば襟に控え目なフリルとか、ピンタック、裾に細いライン刺繍とか。
「チロロにも可愛い足輪を付けようね。ニーチェはリボンがいいかな」
「ちゅん」
「み!」
喜ぶチロロとニーチェに、僕の気持ちは浮上した。
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