019 幸先のいい再出発と優しい人たち、えっ




 王都に着いたら騎士団を訪ねる約束をして、僕は町を出た。

 別れ際、ニコが「非番の時に王都を案内してやるよ」と言ってくれたし、もしかして友人第一号じゃない?

 なんだか嬉しくて、子供っぽく手を振って別れた。

 謝礼金ももらっちゃったし、人助けして良かったな~。


「チロロ、今日はもうテントで寝ちゃって、明日の朝に出発しようね」

「ちゅん!」

「宿の獣舎はどうだった? 美味しいご飯は出た? ニーチェも大丈夫だったかな」

「ちゅんちゅん」

「み~」

「ご機嫌だね~。美味しかったのかな。チロロは新しいお友達ができた? 王都に行ったら友達がたくさんできるかもだよ。同じ種類の子がいるといいね」

「ちゅん」

「あ、ニーチェの仲間については王都の図書館で調べてあげるからね」

「み!」


 ニーチェは不安に思う様子もなく、楽しげに返事をした。幸先がいい再出発だった。




 旅の始めに立て続けで事件に巻き込まれたけれど、その後は何事もなく順調に進んだ。

 宿には結局泊まらず仕舞いだった。なんだかピンと来なかったし、タイミングも悪かったんだよね。あと、早く王都に行きたくてショートカットもしたし。

 最後のあたりは森の中にテントを張ったぐらい。町に寄る方が遠回りになるっていう、ね。

 とにかく目指せ王都、何はなくとも王都、楽しみすぎる王都って感じだった。


 期待しすぎたせいか王都の門を通る時は心臓がバクバクしてた。


「おや、変わった騎鳥だね。認識票はー、よし、ちゃんと付けている。問題なしだ。初めての王都かな。目的を聞いてもいいかい?」

「仕事を探しています。できれば輸送ギルドに入りたいんです」

「ああ、騎鳥持ちだからね。頑張って。そうだ、簡単に説明しておこうか。どこかのギルドに所属したならカードが発行される。次はそれを見える場所に出しておけばいい。あっちの門を通っていいからね。担当者が目視で確認する仕組みだ。すんなり通れるよ。カードが見えない場合は止められて、こっちに連行だ。気を付けるようにね」

「はい! ありがとうございます」

「うんうん。今時、珍しく良い子だね。頑張りなさいよ」


 門に常駐している兵士さんは優しくて、真っ先にどこへ行けばいいかまで教えてくれた。

 たとえば僕がどこかのギルドに所属しているなら、さっきの話の通り簡単に出入りができる。だけど今は何の肩書きもない。だからこうして確認されるんだ。

 犯罪者じゃないかどうかのチェックが主なんだろうけどね。さすがに王都の出入りはそれぐらいやらないとな~。調べ室には懸賞の掛かった犯罪者の絵も飾られていたし、ここには犯罪予備軍の芽を摘み取る役目があるんだろう。

 王都の中に入っても結構な頻度で警邏隊の人を見掛けた。前世で言うところの警察だ。この国、ちゃんとしてる。



 まずは真っ先に宿を取ろう。

 それには案内所へ行くのがお勧めだそう。王都の正門を過ぎるとそのまま大通りに繋がっていて、ほぼ真正面に近い場所に大きな案内所がある。

 案内所は他にも各ギルドの近くにあるらしい。そっちは個人がやっていて、大きな案内所は国が運営してる。

 門兵さんが勧めてくれたのはもちろん正門すぐの大きな案内所だ。


「こんにちは。宿を紹介してほしいんです。希望はお風呂付き、朝食の美味しい宿がいいです。あと獣舎が清潔なところも譲れません」

「あら、騎獣鳥をお持ちなのね」

「表に繋いでる、あの子がそうです」

「まあ、初めて見るわ。真っ白でコロコロとして……」


 受付の女性は驚いて席を立った。今にも走り出しそうな感じ。チロロ、可愛いもんね。モフモフしてるし撫でたいのかも。

 僕がニコニコしてたら、彼女はハッと我に返った。


「申し訳ありません。珍しい子だったので、つい」

「この辺りで白雀型は見掛けませんよね。アウェスと違って丸いし」

「ええ、とても可愛いわ」

「でしょう!」


 二人でほのぼの笑っていたら、隣の受付の人が「仕事して」と注意してきた。

 慌てて二人同時に謝った。

 それから、僕の希望に合う宿をピックアップしてくれる。

 交渉は自分でやらないとダメだけど、初めて来た土地のことを教えてくれる案内所は便利だ。ちなみに個人でやっている案内所は交渉まで請け負ってくれるらしい。ただ、ぼったくりもあるし、変な店を紹介される場合もある。その見極めができないうちは、利用料が多少高くても国営の案内所を使った方がいいそう。


 というわけで、僕はメモを片手に意気揚々と宿に向かった。

 お風呂付きを選んだせいか、お高めの宿ばかりだ。でもまあ、父さんも「最初は高かろうと良い宿にしなさい、安全を買うんだぞ」と言ってた。その分のお金ももらってる。

 旅の間に魔物を倒して得た分もあるけれど、実は王都で一年間暮らせるぐらいの資金は持っていた。半分以上は父さんから「旅の支度金」として受け取ったものだ。残り半分は山で狩った魔物の素材代。売った相手が父さんだから、お小遣いと言えなくもないけど。

 とにかく資金はあるのだ。

 ところが、である。


「え、ダメなんですか」

「申し訳ございません」


 けんもほろろに宿泊を断られた。

 いや、本当に。

 言葉は丁寧なんだけど、視線がもう。スッと冷たいの。サヴェラ副班長の冷たい顔とは全然違う。あの人のはクールって感じだけど、宿の人の視線は「蔑み」。

 えぇー。

 紹介された宿、全部で断られて僕は驚いた。こんなのってある?

 案内所に戻って、どういうことかと問い詰めたい気分。でもクレーマーっぽく思われるの嫌だしなー。

 とりあえず最後の宿を出て、僕は途方に暮れてみた。


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