014 新しい仲間




 チロロは困った様子でモゾモゾ。そのお腹から出てきかけた何かが慌てて引っ込んだ。


「もう……。とりあえず、何を拾ったのか見せて」

「ちゅん」


 お腹をポンポン叩くと、その子は出てきた。


「わっ、モフモフしてる。小さくて可愛いね」

「み」


 可愛く鳴くのは白っぽい色味の細長い生き物だった。蛇に毛が生えたような形。黒目がつぶらで可愛い。

 保護色になってて、チロロのお腹に入り込むと全然見えなくなっちゃう。

 逆に言えば自然界だと目立つ色合いだ。


「おいで。大丈夫、痛いことも嫌なこともしないから」

「み」

「おお、素直で可愛い。その分、心配だなー。チロロもそう思って連れてきちゃった? 親か仲間が近くにいたら止めただろうし、ひとりぼっちだったのかな」

「ちゅん」

「そっか。誰もいなかったか。どうしようね」

「ちゅんちゅん」

「チロロが面倒見るの? 餌はどうするか考えた?」

「ちゅ……」

「もう。かわいそぶりっこして! 分かったよ、僕が面倒見る」

「ちゅん!」


 羽をパタパタさせて喜ぶ。チロロは甘え上手なんだ。僕のモフモフスキーを分かってらっしゃる。

 違うな。僕はモフモフも好きだけど、その前に可愛いもの好きなんだ。くそー。


「とはいえ、だよ? 蛇っぽい形なのはマズイ」

「ちゅん?」

「爬虫類型は魔物扱いになるからだよ。この子はモフモフの毛があるけど、形が紛らわしいんだ。ていうか、なんていう種類だろ。初めて見た」


 父さんの図鑑には載っていなかった気がする。

 といっても図鑑だって完璧じゃない。この世界は広くて、毎年のように新種が発見されるぐらいだ。物知りで賢者の父さんでも知らない情報はあるだろう。

 ちなみに生き物図鑑は父さんが監修している。

 父さんは興味がとっちらかりすぎなのだ。何にでも手を出している、そんな印象。


「それより種類だよね。うーん、イタチってことにしようか」


 おいで、と手を伸ばすと蛇モフがそっと顔を乗せた。そのまま掴んで引っ張り出すと思った以上に長い。


「おお、ズルズル出てきたね。益々、蛇っぽい」

「みぅ」

「ちょっと体を見せてくれる? 痛いことはしないよ。はい、ばんざーい」

「みぅぅ……」

「ちゅん」

「そうそう、大丈夫だからね」


 ぷらんとぶら下がった蛇モフはアイボリーの毛で覆われていた。柔らかくて気持ちいい。上から下に手で撫でると途中で何かが引っかかった。優しく撫でながら確認すると、手足だと分かる。


「ちっちゃいね。前脚がここで後ろ脚がこのあたり、つまり尻尾が長い?」


 これなら蛇じゃないと言い張れそうだ。ホッとする。ただ、イタチとも言えないんだよなぁ。


「ま、いっか。チロロがこんなに気に入ってるんだ。害もなさそうだしね」

「み」

「名前を決めようか」


 さてどうしよう。ニョロだと蛇を連想しちゃうしな。

 チロロも最初は「ちゅんたろう」にしようとして両親に反対されたんだった。

 もう少し捻ろう。

 じっくり眺めていると、蛇モフが手足を動かす。まるで羽を動かすチロロのようだ。彼にもすぐ懐いていた。もしかして空を飛びたいのかな。

 その時「空を飛ぶ」で、ある名前が浮かんだ。


「……よし、ニーチェだ。君の名前はニーチェだよ」

「み?」


 確か、ニーチェの名言だった気がする。空の飛び方を知りたければ地道に頑張れって感じのアレ。

 まあ、蛇モドキでは飛べないだろうけど、地道に頑張るのは良いことだ。

 ニョロよりはマシだと思う。


「ニーチェ、よろしくね」

「み!」

「ちゅん~」


 和んでいたら、声が掛かった。


「どうしたんだい? 君の騎鳥に何かあったのかな」

「あ、サヴェラさん。いやー、ええと、うちの子が生き物を拾ったみたいで」

「ほう?」


 覗き込んでくるサヴェラ副班長に焦りつつ、僕はニーチェを抱え直して振り返った。

 笑顔も見せる。


イタチ・・・のニーチェです!」

「……イタチですか?」

「そう、イタチ!」

「わたしにはオコジョに見えますが」

「オコジョ!」


 それがあったか! と思うのと同時に「この世界のオコジョ見たい!」とも思ったけれど口から出た出任せは元に戻せない。

 僕は力を込めて言い張った。


「イタチです!」


 サヴェラ副班長はちょっと引き攣った顔で、一歩後ろに下がった。

 よし、勝った。


「そうですか。しかし、外の生き物を町に連れて入るのなら認識票が必要ですよ」

「あ、そっか。チロロも登録したし、役所に行けばいいかな」

「その件ですが。あなた、近くの町に寄る予定だったんですよね?」

「はい」

「でしたら、わたしが保証しましょう。その子の登録もすぐに済みますよ」

「えっ、でも……」

「親切すぎると思いましたね? ふふ。警戒を忘れないのは旅をする上で大事なことですよ」


 サヴェラ副班長はニヤリと笑い、自分にも利があるのだと言った。


「盗賊の件を証言してもらいたいのです。これは聴取を受けていただければ問題ありません。書類にするだけです。あとはそうですね、お礼をしたいのも本心です。最後に、これが目当てと言っても過言ではありません。あなたと騎鳥の様子を拝見させてもらいたいのです。ニコが話しておりました。なんでも調教が完璧だとか。珍しいタイプの騎鳥にも興味があります」


 研究したいだとか実験したいという意味ではないと断言され、僕はそれならと一緒に行くことを決めた。


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