013 置いてけぼりとモフモフ騎鳥




「置いてけぼりだね」

「あー、嘘だろ、もー!」

「こっちの騎士さんたちも仲間なんでしょ? とりあえず町まで乗せてもらいなよ。ね」

「仕方ねぇよな。そうする」

「……これでは、どちらが年上か分かりませんねぇ」


 なんて話をしていたら、シルニオ班長がやってきた。歩くと同時に空気の壁も消える。手に何か持っているのであれが魔道具だろう。

 しげしげ眺めていたらシルニオ班長が気付いた。軽く持ち上げて「これが何か?」という顔をする。


「いえ、他人の作った魔道具を初めて見たので」

「他人の?」

「うちは父が器用だったから、なんでも作ってくれたんです」

「へぇ、すごいな! カナリアの父親は魔道具職人なのか」

「うーん、そんな感じかな」


 嘘ではない。父さんは魔道具の設計や術式を考え、それら丸ごとを売っていた。今も時々、魔法の手紙が届いて「お願いだから作って」という催促があるぐらい。だから職人と言えなくもない。


 僕がニコと魔道具について語っていると、シルニオ班長が手にしていた魔道具をテーブルに置いた。


「良ければ見てみるかい?」

「ありがとうございます! あ、席にどうぞ。お茶を淹れます」

「それは嬉しい。部下たちには悪いが先に休ませてもらおう。ああ、ニコは座っていなさい。君は大変な目に遭ったばかりなのだからね」

「あ、はい。あの、シルニオ班長、すみませんでした」


 シルニオ班長は構わないといった仕草で手を振った。フルメ班長の件かな。嫌な役目を請け負ってくれたことに対する謝罪なんだろう。

 仕事をしていれば、いろいろあるよね。

 なんだかんだで対人関係が一番大変だと思う。仕事が上手くいくかどうかも、関わる人間によるし。

 僕はサッとお茶を淹れた。ついでにサヴェラ副班長にもお替わり。

 ニコはもうダメ。飲み過ぎだからね。しょぼんとしないでほしい。犬みたいじゃん。


「ゆっくり少しずつ飲んで体にしっかり吸収させた方がいいんだ。一気に飲むと、せっかくの良い成分が排出されるしさ」

「うう、分かった」

「本当にどちらが年上か分かりませんよ」


 呆れ顔のサヴェラ副班長に、シルニオ班長が「ははは」と爽やかに笑った。


「ニコは随分と良くしてもらったようだ」

「いやぁ、カナリアがすごくしっかりしてて」

「ニコが普通に接してくれるからだよ。騎士だからって偉そうにされたら僕も警戒したし。ニコの良いところは、誰に対しても自分らしくいられるところじゃない?」

「カナリア、お前ほんと良い奴だな!!」

「はいはい。良い奴の僕は騎鳥を見てくるよ。あ、お水をあげても構いませんか?」

「ああ、それは助かるよ」


 繋がれた騎鳥たちがずっと気になっていたんだよね。それに魔道具も見ただけで大体のことは分かったし、手持ち無沙汰になりそうだったんだ。

 あとはまあ、彼等だけで話したいこともあるだろうし。話し合いの結果とかさ。ニコだって今後どうするか考えなきゃいけない。部外者の僕はいない方がいいんだ。


 僕は気になっていたモフモフ騎鳥の集団に駆け寄った。

 こんなに多くの騎鳥を近くで見たのは初めてで興奮する。

 フルメ班は騎獣に乗っていたし、別の班の騎士たちも騎獣だった。

 だけどシルニオ班長のところは全員が騎鳥に乗っている。鷲型のアウェスだ。大きくて強いからだろう。間近で見れば益々キリッとしてて格好良い。

 あ、もちろん、チロロだって速く飛べるし最高なんだよ。ただ、まん丸だからどうしても格好良いよりは可愛いになっちゃう。

 だから安心してほしい。僕は可愛いものが好きだ。つまり、チロロが好き。チロロ最高。

 あれ、チロロはどこだ。

 と、彼の姿を探したら、離れた場所でコソコソしている。


「どうしたの」

「……ちゅん?」


 チロロがこちらを見ずに首を傾げる。

 ほほう。これはイタズラがバレた時の態度に似ているぞ。


「拾い食いした?」

「ちゅっ……!!」


 慌てるチロロに「ダメだよ」と注意しながら、アウェスたちに水を用意した。この陶器の入れ物は水や食べ物が美味しく感じるという特別製。父さんが知り合いから譲ってもらったそう。うちにある食器シリーズはほとんどがルグって人の作だ。

 家族三人では使い切れないほど大量にあった。せっかく良い食器なんだから使いたいよね。この世界でも食器は高いというし、改めて買うのも勿体ない。綺麗な青緑色がお気に入りだったから可愛いのを選んでもらってきたのだ。


 お水を配り終えると、チロロを振り返った。

 僕が見ていないうちに拾い食いの証拠隠滅が終わってると思ったんだよ。

 でもどうやら拾い食いじゃなかった。


「えっ、落ち込んでるの? なんで座り込んで――」


 まん丸な白雀が地面にぺったり蹲っている。慌てて駆け寄ると、その接地面からモゾモゾしたものが出てきた。そう、チロロのお腹の毛から出てきた感じ。


「それ何?」

「ちゅん……」

「ていうか、生き物を拾ってきたんだね」

「ちゅん」


 反省はしてる模様。しょんぼり顔で下を向く。

 今までチロロが生き物を拾ってきたことはない。拾い食いならある。そう、彼には前科があるのだ。僕としては、お腹を壊しさえしなければ拾い食いしても構わない。

 ただ、チロロは野生の実の見極めができてないんだよな~。

 他には、木の棒を拾ったことがある。巣作りの予行演習だと思えば、まあ普通。


 だけど、さすがに生き物はないよね。

 拾ってきたところに戻してきなさい。


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