011 インテリ副班長と魔法の話




 二時間半後に騎士の一団がやってきた。予想より遅いぞ。ゆっくりすぎない?

 まあいいか。それより騎士の乗る騎獣だ。専用の鞍や装備が格好良い。騎士服もそうだけど、更に装備が揃いの格好だと二倍増しで良く見えるよね。キリッとしてる。

 ちょっぴりコスプレ風に感じるのは汚れがないからだな。新品みたい。さすがに足元は雨に降られて濡れている。そこだけがリアルだ。


 ニコは作った笑顔で手を振り、訝しそうな顔をする一団に説明を始めた。

 そう言えばニコは「班」だと話していたけれど、それにしては人数が多い。騎獣だけじゃなくて騎鳥に乗る騎士もいた。

 彼等の会話に聞き耳を立てていると、途中で別の班と合流したらしいと分かった。どうも三つぐらいの班が別々の町を捜査していたようだ。


 僕は「ふーん」と何気ないフリで聞き耳を立て続けた。


「――では、その犯罪者どもを置いてきたというのか!」

「この子はまだ成獣じゃありません。調教もできていないから人を乗せられないし、俺も怪我を負ったので無理だと判断しました」

「だったら、あそこにいる騎鳥を使えば良かっただろう」

「いえ、あれは、あの子の騎鳥です」

「非常事態だ、接収すればいいだろうが!」


 へぇ。

 僕は聞いていない体でいるから不自然に動きを止めなかったけれど、彼等に分けてあげようと思っていたお茶の葉はそっと仕舞った。湧かした湯も調理に使おうっと。もちろん、彼等には作ってあげない。


 すると、騎鳥に乗っていた別の班の人たちが口を挟んだ。


「フルメ班長、それは許されない」

「そうですよ。接収許可を出せるのは隊長職以上、しかも人助けのような理由がある場合と決まっています」

「僕は隊長代理を任されている。黙っていてもらおうか、シルニオ班長」

「悪いが見過ごすわけにはいかない」


 おお、大人同士の静かな喧嘩が始まった。静かでもないか。


 よくよく見ると、首元の階級章っぽい徽章の隣に総刺繍で作られたワッペンが付けられている。たぶん、あれが班を表すものなんだろう。ベリベリ剥がせそう。徽章は金属だな。


 僕が興味津々で眺めていたら一人の騎士が気付いて目を釣り上げた。


「そもそも、そいつは一体何者だ! こんな森の中を一人で移動していただと? 有り得んだろう、普通の人間には無理だ!」


 おっと、火の粉が飛んできたよ。

 善意の第三者に喧嘩を売るとは騎士らしくない。ちなみに、怒鳴っているのはフルメ班って側の人。ニコがムッとして「ヤロ、いくらなんでもその言い方は」と言い返そうとした。それを途中で止めたのがシルニオ班長と呼ばれた人だ。


「ニコ、君はフルメ班だから言いづらいだろう。この場は僕に任せてくれ。それとお嬢さん、申し訳ないがお礼は後ほど必ず――」

「シルニオ班長、わたしが代わりに。犯罪者の居場所も教えていただきたいですしね」


 と、シルニオ班長の隣にいる人が手を挙げた。騎鳥の乗り方が上手かった人だ。全体的にシンプルな感じの顔付きで、目が全然笑ってなくて冷たそう。そんなイメージだけど、騎鳥に対する手付きは優しかった。シルニオ班長のフォローに速攻で入るところからも、根は良い人なんだろうな。

 彼は僕に近付いてきて話を始めた。向こう側では上司同士の「お話し合い」が始まる。まあ、そっちはどうでもいいや。


「初めまして。わたしはクラウス・サヴェラ、騎士隊シルニオ班の副班長をやっています。まずは、うちの騎士を助けてくれてありがとうございます。また犯罪者の捕縛についてもお礼を申し上げます」

「人を助けるのは当たり前のことだから。それより、奴等を置いてきた場所を教えますね。早く行った方がいいんじゃないかな。魔獣避けは効いているだろうけど『こんな森の中』ですもんね。生きて捕縛しないと事情が聞けない」


 クラウスさんは「おや?」といった表情で僕を見た。その態度の意味が分からず、つい首を傾げてしまう。


「いえ。申し訳ありません。ところで、町に着きましたらぜひともお礼を兼ねて食事にご招待したいのですが、構いませんか」

「あー、事情聴取ですかね」

「……ほほう。なるほど。ええ、そうです。もちろん、あなたを犯罪者のように扱うわけではありません」

「分かってます。さっきの人が言っていたように、僕がここにいたというのは謎ですもんね」


 紳士的な対応をしてくれるなら別に構わないんだよ。そりゃ、急いでいる時に事情聴取したいって言われたら「やだなー」とは思うけど。

 場所は覚えているから口頭で教えた。距離もね。

 捕縛に行くのは、もう一つの班の人たちだ。

 シルニオ班長の部下は残った。フルメ班の人がいるからだろうな。

 まあ、あんな偉そうな態度の人たちだもん。仲が悪いのは分かる。


「じゃあ、待っている間に飲み物でもどうぞ。僕も座ります。ニコにも淹れるね」

「やった。カナリアのお茶、美味しいんだよ」

「おや、君はもうすでに頂いたのですか」

「え、ああ、はい。俺もこいつも追いかけられて汗みずくだったんですよ。泥だらけで喉も渇いていて。それを綺麗にしてもらって、飲み物も分けてもらいました」

「大したものじゃないよ。副班長さんも良ければどうぞ」


 さっき別に避けておいたポットのお湯を注ぐ。

 母さんの特製ハーブ茶だ。甘味が出るハーブもブレンドされているので、ハーブ茶が苦手な人でも美味しく飲めると思う。


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