010 町まで移動、途中で合流




 食べながら、僕はニコに質問した。


「お仲間は森まで捜しに来てくれる?」

「うーん、難しいな」

「じゃあ、雨が少し収まったら信号弾を打とうか」

「いや、奴等の乗ってきた騎獣を使って町に戻るよ」

「騎獣かぁ。でも、あの子たち結構遠くまで行ってしまったよ? 散らばってるもん」

「マジかよ。呼び戻しの訓練は受けて、るわけないよなぁ。てか、カナリアは騎獣鳥の気配を読み取れるのか? すごいじゃん」

「魔力の流れを読むのはできるね。だから気配は探れるよ。他の人がどうなのか知らないから、すごいかどうかは分かんない」

「いや、読めるってだけですごい。で、そんなカナリアを見込んで頼みがあるんだ」

「嫌な予感」

「口に出して言うなよ。そういう時は『助けたついでだ、よっしゃ引き受けよう』って返すところだろ」

「はいはい。とりあえず、話は聞いてあげよう」


 僕のぞんざいな返しにも動じないというか、全然気にしてないところや気楽な様子が本当に騎士っぽくない。

 もしかしたら平民出身かもなー。

 そうだよね。だって、生粋の貴族出身だったら、タメ口利いただけで怒られそう。まあ、その場合は助けるだけ助けて、さっさと離れたと思うけど。

 でもまあ、ニコが良い奴だっていうのは分かる。

 気さくだし、ちゃんとお礼を言えるし。


 そういうわけで、ニコが「町まで連れていってくれないかな、もちろん仕事として。依頼料も支払う」との頼みを引き受けることにした。





 悪党どもは木の陰に移動させ、油紙を被せる。ついでに魔獣避けの香を焚いておいてあげよう。大雨だと消えちゃうけど、少し収まってきた今なら一日ぐらいは持つ。

 騎獣たちは調教がちゃんとできていなかったようだから、野良になるか、町の近くに現れたら捕獲してもらえるだろう。そしたら施設に収容されて再調教の道だ。どちらにせよ騎獣鳥は人間より強いので問題なし。無事に生き延びれるよ。厄介な人間がいない分、のびのびと過ごせるかもね。


「じゃあ、僕とチロロで上空を警戒しながら先導するね」

「頼む」


 牧場から連れ出された騎鳥はまだ人を乗せられるほど育っていない。羽の様子から、成鳥間近とのことだ。となれば、調教は終わっていないはず。何より怪我を負ったばかりだ。薬を塗って専用の包帯で巻いているとはいえ、自力歩行できるだけ良しとしなければならない。

 幸い、ニコは手ぶらだ。荷物がない分、こちらに負担はない。

 本当はニコをチロロに乗せてあげてもいいんだけど、他人を嫌がるからなー。

 ニコも小さなチロロでは二人乗りなんてできないと思っているようだったし、あえて触れないでおく。



 休憩と食事を終え、雨が小降りになったのを見て出発する。

 歩きだと結構かかるよなー。最短距離かつ安全なルートを選んで進もう。

 魔物がいればニコにバレないようサクサクッと倒す。そのまま収納しちゃえば証拠隠滅もできる。


 数時間進んで、そろそろ暗くなってきた。早めに休もうと休憩ポイントを見付ける。それをニコに教えてあげようとしたところで人の気配に気付いた。

 雨が降っているせいで気付くのが遅れちゃったな。心の中で自分のミスを反省しながら、地上のニコに教える。


「おーい、お仲間が迎えに来てくれたっぽいよー」

「えっ、マジで? どうしたんだろ」

「同僚を心配して捜しにきたんじゃないのー?」

「いや、うちの班にそんな優しい奴はいない」

「なんだそれ」


 僕はチロロから飛び降りて地上に立った。チロロには引き続き上空の警戒を頼んでいる。


「うお、すげぇな。あんな高さから飛び降りるとか、どんな訓練積んだら可能なんだよ」

「ふふん」


 褒められると嬉しい。僕は胸を張った。

 だけどすぐ、我に返る。


「じゃなくてさ。あと一、二時間ぐらいで合流できるよ。どうする? こっちに来てもらう? それとも、僕が先に話をしてこようか」


 騎獣を余分に連れているなら、その子だけを最短距離で誘導してやれる。人間が乗っていると行けない場所でも、僕とチロロの組み合わせなら通れるからね。騎獣だけを連れてくることは可能だ。


「いや、いいよ。合図だけ出して、ここで待つ。カナリアだけ行かせたら何を言うか分かんない。失礼なことを言いそうな奴等なんだ。だったら俺と一緒の方がまだいい。それに俺の体力がそろそろ限界でさ。休ませて。そうそう、その時に飲み水を分けてもらうとするじゃん? そしたら、いくらなんでも『仲間が助けられた』って分かると思うんだ」

「はは、分かった。いろいろ大変なんだね」


 ニコは同僚に恵まれていないらしい。何度か言葉を言い換えていたけど、結構ひどいぞ。

 前世の会社員時代を思い出しそうになったじゃないか。モヤモヤする。僕は頭を振った。どうせなら楽しい記憶を思い出したい。


「じゃ、テントを張って、いかにも今から野営しますって感じにしておこうか。はい、テーブルと椅子を先にね」

「ほんと、助かるわ。カナリアが同僚だったら良かったのにな。騎鳥の操縦も上手いしさ」

「ありがとうなんだけど、ごめんね? 僕は王都でのんびり暮らすのが夢なんだ」

「速攻で振られたー!」


 そんな話をしながら、飲み物や軽食を提供する。

 もちろんテントも張った。チロロも呼んで全員で休憩する。

 騎士の一行に合図はしなかったけど気付いてもらえた。チロロに高高度を旋回してもらったからだ。


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