✤英雄女王のお嫁さん✤

 ガルト公国の女王であり、国内最高英雄と謳われ公国の女王である私、シノブ・オオミヤ女王は頭を抱えていた。


 先だって国内にいた公国転覆を狙い、男である今代の勇者様を受け入れようとたくらむ、直系男子派が謀反を起こしたのをさっくりと沈静し、首謀者であるカワグチ伯爵やヨノ男爵、黒幕のウラワ公爵に腹を切らせ、さらし首にしたところである。

 一族の第一子までを粛清し、それ以下の子や親戚類は身分をはく奪し、大人は奴隷として鉱山や工場に送り、15歳以下の子は諸島の一つを修道院にしてそこに流した。


 で、やはり人間がやる事にはうっかりミスもあるもので。


「お嫁さんにして下さい」

「正気か貴様」


 目の前にいるのはものすごくやせこけた真っ白な小枝……の様な少年だった。

 ウラワ公爵の直系第一子だったのだが、見事に真っ白なので生まれた時から以下に幽閉されてたようだ。


 謀反を起こしたという事で屋敷類は全部解体するように、というお触れを出した途端、この白樺の小枝の様な少年が目の前に連れてこられたというわけだ。

 連れてきたのは我が弟であり騎士団長のマサユキ・オオミヤだった。

 破壊魔法で屋敷を吹っ飛ばした所、瓦礫の中から防御魔法で守られてこの子が出現したという。


「僕、家事得意です」

「うん?」

「公爵様は僕の作ったシェパーズパイとビーフシチューがお気に入りでした。僕が作ったことは知らないままでしたが」

「うん???」


 おかしな問答に私はちらりと弟を見た。


「どうやら彼は忌子として冷遇・隔離され、存在をなかったことにされたようです」

「は?ただのアルビノだろう?ウラワはそんな知識もなかったのか?」

「いえいえ。それがただのアルビノではなくてですね……。彼の髪と瞳をご覧ください」

「うん?」


 弟の言う通り、白樺の小枝をじっくりと見やる。

 髪は……白だが所々光が当たると虹彩が見え、瞳もアルビノの濁った赤ではなく、蜂蜜に近い琥珀……?


「イシュラークの!」

「はい。彼はあのエイラ・アスラーク国の街の名にもなった、ラナン・イシュラークの再来の様な姿でして……」

「あー、それではアルビノではない何かだとは思うな」

「ええ。ろくに調べもせずにただのアルビノとして隔離したかと。しかし、かのイシュラークの様に何者かに護られていると推測します」

「破壊魔法でも死なずに守られていたからな……」

「ええ」

「なので僕をお嫁さんにして下さい!」

「うん、ちょっと君は黙っていようか」

「はい!」


 ここぞとばかりにアピールしてくるが、今は弟と大事な話をだな……。

 あ、そうだ。


「チヨメ、チヨメはおるか!?」

「はい、ここに」


 私は側近である影でもあるチヨメを呼び出した。

 いつものメイド服で傍にいるのに気配を感じられないのはちょっと怖いんだがな。


「この白樺の小枝を少し預ける。磨き上げて人間に戻せ」

「かしこまりました」


 いきますよ、とひょいっと白樺の小枝を抱き上げて部屋を辞するチヨメ。

 去り際の寂しそうな、縋るような瞳がこちらをじっと見ていた。


「どうしますか?一応ウラワ公の第一子でありますが、あの英雄イシュラークの符号がですね……」

「解っている……。暫くは様子見だな。まずは白樺の小枝の様ななりでは放逐するにも無理だろう。それに隔離され、冷遇されていたようなので精神面もケアしないとな。健全な精神は健全な肉体からというだろう?」

「女王陛下のお心のままに。手放せないときは私が養子に迎えましょう。幸い、あの子の存在を知っているのは我等とチヨメ、公国魔術師のハルアキだけですので」

「え?あの実験狂いのマッドキャスター・ハルアキも知ってるのか……厄介だな」

「厄介ですよねぇ」


 マサユキはにやにやと笑い、こちらを見ている。


「暫くは様子見で」

「御意」


 こうして私と未来の嫁である、白樺の君こと公国最強の魔法剣士イシュタル・ラーナとの初邂逅は終わったのだった。

 マサユキだけが、この未来を予想していたとかなんとか……。

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