✤婚約破棄されたので

「よってお前との婚約を破棄する!」


 はい、たった今婚約破棄の言葉を頂きましたのは私、ウィルプレスト伯爵家長女、メルクリウス・アウラ、ウィルプレストです。

 現在、第三王子であるマリク様のご生誕祭に、兄と共にお呼ばれしたので参った所です。

 本来であれば私は兄のエスコートではなく、第三王子のエスコートでこの場にいるはずなんですけれどね?

 5歳の頃、どうでもいい第三王子からの要望わがままで婚約者という間柄になって以来10年。

 一応私はそれなりの勉学やマナー、教養、政治経済、嗜み程度の魔法や剣術、文官としての資格等を余儀なくされたんですが、それもこれも目の前にいる3人の娘さんを侍らせた第三バカ王子の為だったのですが……。

 その間、第三王子はなんもせんと悠々自適を通り過ぎて、何の重責もない立場をいいことに放蕩三昧。

 一応もっともらしい言い訳は『私が勉学で忙しくて相手にしてくれなかったから』だそうで。

 でもこれで第三王子バカとの縁もすっぱりきっぱりあと腐れなく断ち切れるとおもうと、自然に笑顔になるというもの。


「お前は愛想がないわ俺の誘いを無視するわ、たまに会っても苦言ばかりで……」

「まぁそうですわよね」

「は?そうかそうか、今やっと気づいたか!反省してももう遅いぞ!俺はこの可愛げがあって胸も大きい包容力のあるカナリア嬢、テセーラ嬢、エリー嬢を嫁に迎えるんだからな!泣いて許しを懇願しても無駄だからな!」


 ふふん!と私を指さして笑う第三王子バカとバカ娘たち。

 そもそもあなたら男爵と騎士爵と街の商人の娘らですよね?

 商人の娘であるエリー嬢はともかく、おふた方の親御さんはそれをよしとしているのでしょうか?

 ちらりとみれば親子さんらは頭を抱えたり顔面蒼白になっていたり、商人さんは泡吹いて倒れました。

 そう、それこそが身分であり立場上の正しい反応なのです。


「言い訳位なら聞いてやらんでもないぞ?」


 私に婚約破棄を叩きつけていい気分なご様子で、そうおっしゃられたものですから私は一つ咳ばらいをしてから口を開きました。


「そもそも私は5歳の頃からきっぱり言ってますよね?あなたと懇意になるのも夫婦になるのも嫌だと。それを無理矢理権力で強引に私の家に圧力までかけて婚約させたのはそちらですよね?」

「……!」

「それに、私は貴方のせいでこの10年やりたくもない花嫁修業をして、王妃様に呼ばれた挙句、あなたの愚痴を延々と聞かされ、果てには王様も参加しての愚痴大会を毎月2回はされるのですが、精神的慰謝料をとってもいいですよね?これ。ねぇ、宰相様」

「なっ!?」


 未だに王様王妃様はいらっしゃってないが、宰相と財務大臣だけはすみっこに居たのを確認している。

 視線をそちらに向けて問いかければ、宰相はものすごくいい笑顔で頷いた。


「そうだね、先触れも出さずに突然来て持て成せとか、勝手に連れ出しては誘拐未遂になったり、学校に入ってからは見目いい女生徒にちょっかい出しまくってもみ消したり酷かったからね。精神的慰謝料取ってもいいよ、メルクリウス嬢」

「そもそもちょっかい出されて断って行き場をなくしてしまった女生徒への謝罪金は全部メルクリウス嬢の品質維持費から出てるから、今までのも計上しておくね」


 宰相様と財務大臣様、お二人の言質が取れましたので一安心です。

 あの第三王子バカは放蕩三昧だけでなく、ちょっと気に入った娘さんを呼び出しては権力に物を言わせて一晩のアバンチュールを迫り、終わったら即退学させていましたからね。

 それに対しての謝罪費は私が王家から頂いている第三王子バカの嫁になるための品質維持費から出しております。

 なので私はあの第三王子バカが学校に上がってからはドレス一枚仕立てられてません。

 そもそも、使う気が無かったのでため込んだお金は差引額全部返上できますし。


「お、お前たち何を……!」

「まぁしょうがないか、バカだし」

「バカですからねぇ。自分の立場すら理解できてないとかドン引きですよ」


 うんうん、と頷きあう宰相様と財務大臣様。


「立場だと?俺はこの国の第三王子だぞ!?こんな面白みもない女とは別れて、見目の良い女たちと暮らす事の何がわるい!」


 第三王子バカ、ギャンギャン吠える。

 吠えまくってせき込んで、傍で飲み物をサーブしていた給仕から飲み物をひったくり、一気に煽る。


「まぁでも、予定通りに婚約破棄で来たからいいんじゃない?メルクリウス嬢」

「そうだね。現時点を持って第三王子マリクの王位継承権のはく奪、および王族からの廃嫡とする。これは王がお決めになったことである!」


 宰相様が懐に入れた書状をびらりと第三王子バカに見せる。


「は?まてまてまて。なぜ父上がそんなことを?母上が反対するであろう!?」


 王族からの廃嫡、という言葉を聞いて三人の娘さんたちは一歩、後ずさった。

 やっと自分の置かれている状況を理解したみたい。


「今まで甘やかしていた分、自分でどうにか自立しろと言われてませんでした?」

「そ、それは学校を卒業してからでも……」

「そもそも。王位継承権がであるのに何で焦らないのか不思議でしたよ」

「は?第五位??俺は三男だぞ!?」

「ええ、三男ですね。我が国の法では、まずは王の弟……アルブレス王弟殿下が第二位にはいるんですよ。で、次兄のナイア第二王子殿下、王弟の御子息のルティア様と続き、その次が貴方なんですよ。知らなかったんですか?」

「……なん……だと?」


 第三王子バカ、呆然とする。


「それに、王位継承権はほぼ望めなくても、真面目に誠意を見せていればメルクリウス嬢の入り婿としてウィルプレスト伯になれただろうに、いま言われたように、嫌われているので可能性0ですもんね」


 財務大臣様はそう頷きながら言った。


「財務大臣の言う通りですね。一応形式上婚約破棄になったので、金輪際メルクリウス嬢への接近禁止、来年の卒業と同時に王家より籍が抜かれますので、ご自分で生活なさる術を学校で学べばよいかと」


 宰相様はにこやかにそう宣告した。

 あ、傍にいた娘さんたちがそそくさと第三王子バカから離れていきますね。


「カナリア嬢?テセーラ嬢?エリー嬢!どこへ行く!」

「申し訳りません、私、お父様から婚約者は選べと言われておりますので……」

「剣の腕も見込めない人はちょっと……」

「成績が下の下では……」


 それぞれ、思い思いの三行半を叩きつけて、第三王子の元を去っていったが、まぁ今回の事は皆の記憶に刻み込まれたし、今まで第三王子肩書で散々いい思いしてたのも知られているし、人の口に戸は立てられないしで今後は結婚は望めないでしょうね。

 ご愁傷様です。


「というわけで、ごきげんよう第三王子殿下。元が付こうが何だろうが、今後私に近寄らないでくださいね?」

「メ、メル……」

「ウィルプレスト伯令嬢、ですわ。今後は他人として関わらず、記憶せず、視界にも入れずに生きていきましょうね」


 と、私はカテーシーと共に最高にいい笑顔を向けてくるりと第三王子の横を通り過ぎた。

 第三王子はがっくりと項垂れ、近くの椅子に座ったが、誰も心配そうに寄る者はいなかった。

 そして……、私はお二人にエスコートされて会場から裏口へ続く扉に案内されました。

 暫く歩き、周りに誰もいないことを確認すると、ふう、と息を吐きお二人の袖を引きました。


「お待たせいたしましたわ。

「ようやくあなたを手に入れられましたね、我が愛しの、メルクリウス」

「今すぐこんな国から出て三人で暮らしたいけれどね、王様や王妃様には今回の恩もあるから暫くはこの国にいるけれどいいかい?メル」

「ええ。の御尽力のおかげですもの。私はの為であればなんでも致しますわ」


 宰相様……カーシーン・レンブラント公爵様とその弟である財務大臣様……エッケバルト・レンブラント様にぎゅっと抱きしめられた私はとても幸せな気分になりました。


 第三王子からの度重なる無体にストレスをため込んだ私は、度々このお二人に剣の稽古をつけてもらっておりました。

 その際、お二人はとても紳士的に、慈しみを込めて私をと呼び、私もまたお二人をと呼び親交を深めていったのです。

 年の差ですか?20かそこらですが、貴族の中では普通です、普通。

 伯爵家の中でも鳴かず飛ばずな我が家なので、第三王子の横やりが無くても後妻コースでしたでしょう。


「王様と王妃様に感謝のご挨拶をしたいわ」

「じゃぁ後日、セッティングをするよ」

「メルの好きなお菓子も用意するからね」


 ああ、楽しみですね。

 これで私は憂いなく、お兄様方のお嫁さんになれそうです。


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