転生魔族公爵と転生伯爵令嬢の奇妙なご縁

 ほら、よくあるじゃない?

 一目見てその人と結婚するんだろうなって解る瞬間。

 それを今、目の前で体験したのよ。


 でも、結婚とかそんなものではなく、『あ、このひと同郷だ』っていうものでしたの。

 何だかんだで私はメイリオ伯爵家の次女として生まれたので、その内政略結婚のコマにされるんでしょうね、っておもってたの。

 だってはそういうのばかりでしたもの。

 親は家門より高い位の家に、少しでも財産が有り良家への縁結びの為に、私がデビュタントをしたあたりから奔走していたのは知っておりました。

 でも、まさかそれが魔族の公爵家の御当主とかとは思わなくてっよ?


「あとはお若い二人だけで」


 とか三文芝居の両親はこの際おきまして、私は目の前で大きな体をちょっと縮こまセている魔族の公爵様に向き合いました。

 純粋な魔族なので肌は青く、瞳は金色と紅色のオッドアイ。

 つややかな黒髪に頭部には見事な山羊さんの……一対の捩じりと溝のある角が。

 そして私の目の前には50年前に抜け落ちたという角が1本と、それを加工して作られたという角骨の魔法杖が。


「私の一族の角は武器や魔法の杖に加工できるようなので、婚姻成立のプレゼントとして花嫁に贈る風習があるのですが、ご迷惑だったでしょうか?」

「いえ、とても手に馴染む魔法杖ですね。……発動までのタイムラグも魔力ロスもないです」


 魔法杖を手に取り、簡単な光球ライトの魔法をつかい、ふわふわと動かした。

 私はどうも魔力量が多いらしいので、人間用の杖ですと魔力操作や発動までに余分な手間が必要になりますの。

 でもこの、旦那様になる方の……レイヤー・ジョウザン・オーバーレイ公爵の角骨で出来た魔法杖はそんなことが一切なく、むしろ魔力量が少なくても倍の効果がでております。


「それはよかった。ヒラギノ・メイリオ令嬢は私との結婚を承諾して頂いたとみてよろしでしょうか?」

「ありがとうございます。それとその……お聞きしたいことが」

「なんなりと」


 とても紳士的なこの120歳の方はにこりと微笑んだ。

 なので私も遠慮なく質問することにした。


「私の名前を聞いてちょっと笑ったのって、フォント名だからですか?」

「ゴフッ!」


 いえ、私自身この名前はないわーって感じですので、笑う人のいるのではないかと思っていたのですが。

 みごとにビンゴでしたのね。


「すみません、その……」

「ゴシックとかミンチョウでなくてよかったとは思っております」

「ゴフッ!」


 肩を震わせ手で顔を覆い吹き出すのをこらえている巨体の120歳。

 ちょっと萌えますわね。


「わ、わらうつもりなんてないんですよ……でも、でも……仕事で使ってて……あははは。自分の名前ですら笑ってしまう時があるのに……!」

「貴方の名前もある意味……ですものね」


 漫画を描いていたりデザインやクリエイトな仕事をしていないと解らないでしょうね、その名前。


「同郷……とみてよろしくて?」

「はい。私はこちらに転生する前は小説メインの出版社……『シュウスイ』に勤める編集者でした」

「あら、同じような職業でしたのね。私はファッション系の……『ミセスフレンズ』のデザイナーでしたの」


 お互いまた、大笑い。

 私の元仕事で役に立ったのはドレスのデザインで、今ではちょっとしたブティックも経営していたりする。


「いやはや、結婚相手が同郷の方でよかった」

「わたくしもですわ」


 この世界はなんというか、生まれた時から結婚相手が決まっていたり、適齢期まで決まらなくても突然嫁いだ相手が10歳も年下だったとかよくありますので、恋愛ではないにしろであるのは安心感が違いますね。


「魔族国に来ていただくことにありますが、それでも大丈夫ですか?」

「魔王城がお空をくるくる飛んでいるのですよね。楽しみです」

「父が城勤めですので、見学できるかどうか聞いてみますよ」

「本当ですの!?」

「はい。現魔王様とは昔馴染みでして、そろそろ結婚しろといられていたのでご挨拶に伺いたいと言えば大丈夫かと」

「ありがとうございます!旦那様!」


 私の感謝の言葉に、レイヤー様は旦那様……と小声て繰り返しては感動しておられました。


 なにせよ、私の魔族国公爵家への嫁入りは、悲壮感や不満など何もなく、つつがなく済みましたのです。



 PS:魔王城に招待されて魔王様とお話しましたら、結構な現代知識がおありの様で、私や旦那様の勤めていた出版社の雑誌をいくつも頂きました。

 なんでも、そういうスキルを持っている人をご存じの様で、定期的にがくるそうです。愛されてますねぇ。




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