私、転職します。聖女じゃありませんので

「セリーシャ!しらばっくれるというのか!?」


 目の前いる金髪キラキラがなんか言っている。

 というかアレ、私の婚約者でしたっけ。いらんのに。

 ここは王族やら国の重鎮、両親と祖父母が勢ぞろいしている応接間。

 くっそ、逃げ場がない。


「お姉様……」


 妹のユリアちゃんが心配そうに金髪キラ男の横で私を見た。

 うーん。詰んだのかなぁ。




 私の名はセリーシャ・フォン・ベンアフラック。

 向こう見ず的な家名だけれど、これでも歴とした王国創立から続く由緒正しい公爵家だ。

 まぁ代々先陣切ってドーン!敵の真ん中に突っ込んでってはドーン!な将を輩出しているから、間違った家名ではないんだけれどね。

 実際、お父様が特攻軍大将だし。


「何とか言ったらどうだ!セリーシャ!私を無視するな!」


 ああ、はいはい。すいませんねぇ。

 こちらとしても意に添わぬ婚約なので最低限のお付き合いしかしてないから、名前さえ記憶にないんだよね。


「ユリアや近辺の者から証拠は挙がっているんだ、自分を認めて何か言えばどうだ」

「ハルカス様。あまりお姉様を刺激なさらないで!」


 あ、そうだそうだ。ハルカスだった。ついでに言えばこの国の第一王子だったわ。

 ビルの名前だってのは思い出したんだけれど、世界一お金持ちの国の世界一高いビルとか巨大猿が立て籠もったビルとかではなかったか。


 さて、もう気付いていると思うけれど、私は現代日本からこの世界に転生した人間だ。

 なので幼い頃より快適に過ごしていたあの時代を、ある程度取り戻すべく尽力したり、父親や祖父のコネを使って「私、こういうの考えたんです~♪」って企画書見せたりして、この国の生活基準値を大幅にアップしてきたんだよね。

 主にインフラと水回りと衛生関連と食の改善。

 あとは某アイドル農業番組を見ていたので土壌改善して収穫も大幅にふやした。

 で、ついた敬称は【聖女】だった。


「いい加減、自分が【聖女】って認めたらどうなんだセリーシャ!」

「お姉様!意地張らないで認めちゃって下さいよぉ!」


 そうなのだ。

 ウチは男が騎士系スキル、女が回復系スキルを持って生まれるので、私も回復魔法が使える。

 小さい頃そこらにいた幽霊の話を聞いて成仏させたり、人に憑いたのをこっそりを消滅したり、悪い呪いは10倍返しで呪い主とそれを依頼した家に引き取ってもらったりね。

 大きくなってからも神殿ではなく小さな町の治療院で、その力を奮った。

 なんで神殿じゃないんだというと、あいつらうっさいから。

 やれ多額の寄付だの貴族相手だから優先しろだのと。

 キレて書置きのこして一日でやめたったわ!

 そんなことをしていたら【聖女】と呼ばれ始め、噂を聞いたこのハルカス殿下が婚約者になってしまったわけだ。

 ひとり身でいいのに。

 現代日本にいたせいか、別に結婚に夢も無ければしたいとも思わないし、何よりこの男尊女卑激しい世の中では何もできず、後継ぎを産む生産器になるだけだ。

 そんなのごめん被るね!

 なのでまぁ、婚約者になった時から【お前とはが違うのだよ】とばかりに徹底的な差を見せつけ、さらに厳しく接し、時には無視し、なんならパーティのエスコート等の約束をすっぽかしたりしたんだけれど……。


「私を導いてくれるのはセリーシャしかいないのだ!」


 とか言ってくるんですか?


「お姉様ぁ。もう諦めましょうよー。この人私じゃダメなんですってばー」


 ユリアちゃん匙投げたかー。

 ユリアちゃんは私の三歳下の妹ちゃんです。

 すっごく可愛いし、頭もよいし、愛想もよい。

 本来ならアルカス程度(※ハルカスです、お姉様)には勿体ないんだけれど、お姉様が嫌なら私が……と引き受けてくれた。

 まぁ元々、ユリアちゃんを犠牲にしてまで白を切り続けたくはなかったんだよね。

 婚約破棄さえできて、晴れて自由の身になれれば。


「どうしてそこまで【聖女】が嫌なんですか?お姉様」


 ユリアちゃんはこてん、と首を傾げて聞いてきた。

 その返答を聞き逃さまいと、周りの人らは静かに聞き耳を立てているのがわかった。


「確かに、私は【聖女】の称号をもっています」

「おお!やはり!」

「ハルカス様黙って。お姉様が続けられない」


 ユリアちゃんも王子に対してわりと凜辣だな。


「でも、それは通過点にしか過ぎないのです」

「【聖女】が通過点……とは?」


 王様が初めて口を開いた。

 そりゃあ【聖女】という国で保護して奉る系の称号をもった私が通過点、とかいったんだから、その先に何があるのかと思うだろう。

 でも、こればかりは仕方がない。


 昔から指輪にまつわるお話とか、ブリテンの騎士王とかそれ系の冒険譚が隙だった。

 運命を背負い、戦いに赴く姿はなんと悲しくて愛しくて、そして美しく醜悪なのか。

 【聖女】の職業の説明書を見ていたら、とある稀少職業への前提職でもあることが解った。

 いや、別になくても回復スキルが全種レベルマックスであれば、【聖女】とみなすらしいんだけれど。

 そこらへん、この世界のシステムは大雑把だった。

 ちゃんとしたスキルツリーと派生職業の設定方法を考えておこうよ……、新人かよ。


「私は、この【聖女】を前提職として【重装聖騎士クロスパラディン】になって世界を見て回りたいのです」


 私の言葉に、みな静まり返る。

 そうだろうそうだろう、驚いて声も出まい。

 なにせこの職業、【聖女】と【騎士】を経ていなければたどり着けないのだ。

 形式的に聖騎士パラディンされることはあっても、職業としてではない。

 言ってしまえばお飾りだ。

 だからですね、この五大王国最初の【重装聖騎士クロスパラディン】になってやろうってんですよ。

 あははははは!!


(お姉様、顔、顔!)

(おっと。ごめんなさい、ユリアちゃん)


「【重装聖騎士クロスパラディン】とは……。ふむ、確かにその素質はある」

「ベンアフラック公!?」


 お爺様はそう判断してくれたようだ。

 なにせ私の剣の腕はお爺様仕込み。

 今では5本に1本は取れましてよ!


「まぁ確かに、常々から息子には過ぎた娘ではあったが……。そうか……【重装聖騎士クロスパラディン】になりたいとはな……」

「父上!言った通りでしょう!?セリーシャはすごいんですよ!私は一生その手伝いをしたいんです!」


 何言ってんだお前。


「あ、では私はお姉様の身の回りのお世話をしたく思います!ハルカス殿下ではできませんでしょう?」


 ユリアちゃんも何言ってるのかな?かな???


「はぁ……。セリーシャ嬢に嫌われたくないしなぁ……。うむ、ではハルカスよ。今後は王子の位を退き、国とセリーシャ嬢との専属の窓口担当となり、その成長を支援せよ。予算は後程会議で決めようぞ」

「ありがとうございます!国王陛下!」

「そして、ユリア・フォン・ベンアフラック嬢、そなたは姉の側使え扱いでよいのかな?」

「はい!うちはもう兄上が三人もおりますから家は大丈夫です」


 いやいやいや。何言ってるの二人とも!

 それに国王陛下!

 手塩に育ててきた第一王子ですよ?

 本妻、妾こみで他に息子が3人、娘が4人いるとはいえ、その判断はどうなのか。


「息子が何をしたいか、どうすれば幸せになれるのか、その許可を出す判断をしたまでだ。ではセリーシャ嬢、【重装聖騎士クロスパラディン】への道を歩むがよい。聡明なそなたの事だ、もう十分に計画は練っておるし、必要なアイテムや宝のありかなども把握済なのだろう?」

「……はい」


 むう、なんか見透かされてる。


「周りの者もよいな。今後はセリーシャ嬢の邪魔はするな。あと他の四王国に知らせを」

「はい!早速手配します!」

「ではセリーシャ嬢。後日、私の庇護下にあり、私の権限の一端を与えるという装具を作らせよう。これを五大王国の貴族や領主、街長、ギルド長に徹底させるので協力は惜しまぬだろうよ」

「はい?」


 ???という表情の私に、ユリアとハルカス様がこっそりと注釈してくれた。


(諸国修行の旅のついでに、バカ貴族を叩き潰していいってことですわ、お姉様)

(まじかー!?)

(その程度で予算が引き出せるのです。資金面は私が尽力いたしましょう。私もついていきますので安心して下さいセリーシャ嬢)

(って、ハルカス様、変わり身が早い!)


 その後、三人で話し合った結果、ハルカス様はなんと商才があり、国で一番のマリモ商会を経営していた。

 なんでも私の生み出す料理レシピや特許を率先して買い、それを元にお小遣いでどうにか立ち上げたらしい。

 それが当りに当たって、今では五大王国のいろんなところに支店がある。

 旅先で何か足りないものがあれば、そこから持っていってほしいとのこと。

 ユリアちゃんも早速、私の修行や転職アイテムのある場所と世界地図を見比べ、ルート計算に入っている。

 なんだこの手厚いサポートは。


「婚約破棄されて一人でふらふらしようとおもったんだけれどねぇ」

「無理ですわね」

「無理ですね」


 二人はにっこりと笑うのだった……。


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