灰色の脳細胞

 君が犯人だ。

 なぜならば君が犯人だからだ。


 斑鳩烏悠は言った。

「何故貴方は今まで私の元に現れなかったの? とても長い間貴方の事を待っていたのに」

 フッと彼は笑い。柔らかい表情で言う。

「このエンディングの為さ。きみに相応しい最後を看取る為に」

 わたしは看護用電動ベッドの背もたれを上げると、彼に触れる為に枝のような腕をゆっくりと上げて枝先を彼に届くように近づけた。

「貴方が消える直前に言った言葉はこの為だったのね」

 枝先が彼を透き通り彼は呼応する様に少し後ろに下がる。

「僕は君の全てを知っている様にきみは僕の全てを知っているんだ。最後の言葉の意味なんてとうのとうに理解してるだろう」

「何故私が殺したと言ったの」

「それはラストの為だろう。きみはその為に悪を醸成させた。安楽椅子探偵の最低で最高のラストを飾る為にね」

 彼は小窓に掛かったカーテンに手をやり、部屋に微かに明かりを差し入れる。

「きみが殺したとボクが言って最後を迎えるのは探偵として最上の名誉だ。そして、それは、逆説でもある」

「陳腐だと言いたいのね」

 呼気が乱れ瞼は重くなる。上げた手は力を失いだらりとベッドの縁に垂れ下がる。

「そうだよ。だから、こそ、相応しいんだ。ミステリではない何かを彩る最低の意趣返し。仕組まれた模倣」

「貴方は最後にこう言った」

「“きみは天罰を受けるべきだ” 今でも覚えているよ。この言葉を投げた時にしたきみの顔を」

 焦点が合わず顔を上げる力も無くなった老婆は搾り出す様に言った。

「どんな、顔、していた?の」

 フッと笑い私の胸元に頭に乗った絹帽をゆっくり乗せた。

「真っ赤に高揚していたよ。期待に胸躍ったのがすぐにわかった」

 私の手を握ると、

「やっと殺せるのか。って感じで笑っていたんだ」

 その時、私の瞳は生気を失い灰色に濁っていた。

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