4分間で読み終わるミステリ 『探偵らしく振る舞わねば終わらない部屋』

「こりゃ大変だ!すぐに警察を…』

 そう言った刹那、果実を叩き割った様な音が響き、彼の頭は柘榴になって床に飛び散った。


「なん…だ、これは…」

 Aは一瞬の静けさの後、こう言った。

「恐らく、この空間では、探偵らしく振る舞わねば彼の様な目に遭う…と、そういう事じゃあないか?」


 Aの淡々とした言葉に、その場に居る面々は戦慄した。

 同時に行為行動を行うのが怖ろしく、呆然と立ち尽くしていた。


「でも、そんな事言ってられる場合じゃないじゃない!人が死んだ!訳が分からないけど、ここは孤島じゃないの!誰かに助けを求めたり、救急車を呼んだり…!!しな」

 果実が砕ける音。彼女の頭も柘榴になった。


 Aは続けて、

「つまりは、こういう事だ。探偵らしく、演繹法による推理。推察。洞察。これらを用いて、自らの頭脳を巡らせ、手掛かりを他に頼ることなく収集し、真実の果実を手にしなければならない…と。何故なら、此処に居る全員、探偵だからね」


 Aは誰も居ない部屋の中で推理を披露してみせた。


「なん…だ、これは…」は、著者が熟考した結果、探偵と云う存在が口にする事はNGと見做されたらしく、Aが流暢に弁舌を振るう最中に頭が弾け飛んでいたのだった。


 Aはその様子を間近に見ていた筈で、一人部屋の中でごちて居るだけだと理解しているにも関わらず、動揺など一切見せずに相変わらずの振る舞いで、自らの頭脳によって齎された推理を見事に披露仕切る事で物語を終結に導いたのだった。

 QED。

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