第24話 分かってんだろうな?
『ストライク! バッターアウト‼︎』
高めのストレートに上市のバットが空を切り、審判が2つ目のアウトを宣言する。
その光景をネクストから見せられて、とっさに出た舌打ちを止められなかった。
ツーアウトランナーなしで2点差というこの状況じゃ、仮に俺がホームランを打ったってまだ1点差。俺のバットだけで試合を決めることはできない。俺と築城が出塁するのが負けないための最低条件だ。
(別に、やることは変わんねえけど)
要は打ちゃあいい。
打席に立ち、マウンドの深海と向き合う。
俺が直接この目で見た球種はストレートと高速シンカーの2つだけだが、他に速度を落とし変化量を増したチェンジアップ系の中速シンカーと、奇妙に浮き上がるらしいスライダーが手持ちにあるのは知っている。手の内はこれで全部のはずだ。
だからもう、様子見する必要はない。俺は初球から打ちにいった。
『ファール!』
その初球は高めに吹き上がるストレートだった。
ストライクゾーンに入っていると思ったから打ちにいったが、予測する軌道のさらに上を通る速球の下を振ってしまい、バックネットへのファールになる。
(くっそ、まだ上なのかよ)
捉えたつもりだっただけに歯噛みするが、向こうはこちらの心情などお構いなしにさっさと二球目を投じてくる。
速度感は初球と同じだが、軌道は途中で膝下へと沈んでいく。高速シンカーだ。
もう何度も見せられた球だが、良いコースに決まったせいで捉えきれなかった。打球がレフト方向のファールゾーンを転々とする。
初球はストレート、二球目は高速シンカー。なら次は?
放たれた三球目が、内角の低めへと沈んでいく。また高速シンカー? いや、
(遅い方のシンカーかよっ!)
高速シンカーよりも落ち幅が大きい。このまま振ってもバットは空を切るが、見逃せばボールゾーンまで落ちる。俺はなんとかバットを止めた。
『ボール!』
なんとかスイングの判定は取られずにボールになる。
これでカウントは2ストライク1ボール。
四球目に投じられたのはストレートだったが、これはやや外側へと外れていた。見逃してボールになる。
五球目に来たのは遅い方のシンカー。
ストライクゾーンからボールゾーンへと沈んでいく球に、なんとかバットを合わせる。打球はレフト方向へと転がりファールになった。
シンカー系はなんとかついていけるようになってきた。これならストレートを狙っていても、どうにかファールで逃げることくらいはできるはずだ。
だから来い、ストレート。
六球目、低い位置から投じられたボールが高めに向かっていく。そこから沈んでいく様子はない。ストレートだ。
ストライクゾーンをかすめるような球。見逃す理由はない、打つ。
そう思って振りにいった先のボールが、途中で軌道を変えた。
(スライダー⁉︎)
吹き上がっていく軌道そのままに、外へと逃げるように曲がっていく。
スイングはもう止められない。なら、当てるしかない。
踏み込み、バットを振り抜く。手のひらには、硬球の感触が確かにあった。
打球が三遊間に転がっていく。
抜けろ、走りながら心の中でそう叫ぶ。だが横目にショートが打球に追いつくのが見えた。
(ふっっざけんな!)
それでも捕球した位置は深い。俺は一塁ベース目前で、思わず頭から飛び込んだ。
『セーフ!』
味方ベンチが歓喜の声を上げているのが分かる。
だが俺自身は正直、あんなしょぼいヒットで塁に出ても素直には喜べない。
(まあ、なんでもいい。勝ちゃあいいんだ)
そのためには最低、次打者の築城が出塁する必要がある。
お前、分かってんだろうな? そういう意味をこめて俺は築城を睨みつけたが、打席に立つあいつはそれに気づく素振りさえない。それだけ集中しているのか。
(それでいい。打て。最低でも出ろ。この回で終わらせんな。そしたら)
相手の投手はもう深海しかいない。
もう一度俺に回してみろ、今度こそ決めてやる。
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