第16話 グラウンドボールピッチャー
(さすがに、ちょっと甘かったな)
レフトスタンドに突き刺さった打球を見届けて、思う。
二回表、先頭打者の四番、
これを見逃してくれるようなバッターじゃない。完璧に捉えられ、スタントまで運ばれた。ランナーがいなかったのが不幸中の幸いか。
主審にタイムを要求し、マウンドへと駆け寄る。
「ごめん」
俺がマウンドにまで辿り着いてすぐ、射水はそう言って頭を下げた。
「外してもいいボールだったのに、甘く入った。あんな球を見逃してくれるバッターじゃないのに」
「打たれたもんはもうどうしようもない。それより切り替えろよ。まだ同点、後続さえ打ち取ればいい」
「うん」
頷く射水に、気落ちした様子はない。思っていたよりショックは受けていないようだ。それならこれ以上、無駄なことを言う必要もない。
「後続、断ち切るぞ」
最後にそれだけを繰り返し伝えて、キャッチャーボックスへと戻る。
『五番、キャッチャー、窪田くん』
後続のバッターが打席へと入る。
初球、俺は先ほどと同じく外寄りの速球を要求する。
(こいつにも一発がある。油断するなよ)
とはいえ射水はそもそも、ストライクゾーンの隅を突くようなタイプではない。
そこまでのコントロールがないこともあるが、速球が動く分、変にストライクゾーンの隅を狙ってもそこからブレる。
ゆえに構えるミットは基本真ん中よりで、アウトコースを狙うときはやや外へ、インコースを狙うときはやや内へと構える。そうすれば勝手に、外ならより外へ、内ならより内へと沈みながら走り抜けていく。
だから今も、構えるミットは真ん中やや外寄りに構えた。
高めにさえ浮かなければ、お前の速球が完璧に捉えられることはそうそうない。うちの内野陣なら、守備範囲内のゴロなら確実に処理してくれる。
だからとにかく腕を振って、ボールを低めに集めろ。それだけでいい。
別に、そんな俺の考えが伝わったわけでもないだろうが、勢いの乗った速球が低めへと投じられた。
このボールをうまく捉えるのは難しい。
事実、この球に手を出した窪田はボールの上っ面を叩いた。
打球は一、二塁間へと転がっていく。
打球スピードはあるが、セカンドの滑川の守備範囲内だ。問題なくさばいてアウトにする。
「ワンナウト!」
守備陣へと向けて叫ぶ。
一発こそ浴びたものの、射水の調子は悪くない。ボールはまずまず低めに集められているし、球威もある。前試合、結局リリーフ登板こそしたものの先発を回避したことがプラスに出ているのかもしれない。
事実、続く六番をショートゴロ、七番をサードゴロに仕留めて後続を打ち取った。
射水のピッチングは通用している。もちろん油断はできないが、この調子ならある程度、抑えられる。
(あとは得点、だよな)
ベンチに戻りながら、思う。
射水の調子が悪くないとはいえ、この打線を相手にするならばおそらくあと数本、長打を打たれることは避けれらない。失点はどこかでするだろう。
向こうの三番手投手、実質エースである
(それまでに、どんなに少なくともあと2点以上、なんとかもぎ取らねえとな……)
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