第13話 三番手投手

 打球音がグラウンド内に響く。

 アウトコースのストレートを、輪島が捉えた。

  

(いったか?)


 打球はライナーとなり、フィールド上を駆け抜ける。

 角度はいい。白球が内野の頭を一瞬で通り過ぎていく。外野は深めの守備位置で守っているが、その頭も超えた。

 そして、

 

「いったぞ!」

 

 ベンチ内で誰かがそう叫んだ。

 その言葉どおり、白球はスタンドを超える。

 築城とは違う、突き刺さるような打球が観客席に叩きつけられた。


(勝った、か)

 

 その打球に、勝利にベンチ内が湧き上がる中、俺はひっそりと安堵の息をこぼした。

 


          ※


 

「次の、準決勝の対戦相手ですか?」


「うおっ⁉︎」


 送迎バスで学校へと戻る道中、俺の後ろの座席に座っていた船橋が、俺が見ていたスマホの画面を覗き込んでいた。思わず変な声が出てしまう。


「人のスマホを勝手に覗き込むなよ」


「すみません、盗み見るつもりはなかったんですが、目に入ってしまったので。それで、次の対戦相手は?」


「……水見高校だよ」


 俺は他校の試合結果が示されたスマホの画面を船橋に向けてやった。


「八対六、ですか。結構な乱打戦ですね」


「まあ、どちらも強打が売りのチームだしな」


「このチーム相手じゃ、さすがに投手戦に持ち込むのは厳しいですかね」


「ある程度、点の取り合いになることは覚悟しなければならないだろうな」


 射水も柏崎もここまでよく抑えているが、次の対戦相手は打撃力に関していえばこれまでの相手より一段上だ。一、二失点で済ませるのは難しいだろう。


「打撃戦で、うちのチームが勝てますかね?」


「楽観的なことは言えないが、クリーンナップまでの得点能力に限っていえば、そう劣ってはいないと思う。ここでどれだけ点が取れるか、だな」


「クリーンナップというのは、輪島までということですか?」


 この春季大会で輪島があまり成績を残せていないからだろうか、わざわざ名指しでそう確認してきた。


「厳しいなお前は。まあ、あいつにも一発が出たし、調子は上向いてくるだろう。少なくとも前打者の築城を簡単に塁に出したくはないと、そう思わせるだけの怖さは与えられるはずだ」


 俺の返答に、船橋が睨めつけるような視線とともに口を開いた。


「俺は、六番の俺には期待してくれないんですか? って意味で言ったんですけど?」


 そっちか!

 いやだが確かに、いまさらだがすごく失礼なことを言ってしまっているな、俺は。

 返答もつい、しどろもどろとしたものになってしまう。


「いや、それはまあ、そうだな……」


「冗談ですよ」

 

 船橋が息を漏らすようにして笑う。


「俺も自分の打撃成績は分かっていますし、俺を含めた下位で、一点でも追加点が取れたら儲けもの、って感じですよね」


「いや、まあ、そうだな」


 いや、自分をそんなに冷静に分析されても困るが。

 

「実際、監督はうちの打線で、水見高校から何点取れると思っているんですか?」


 推し量るような視線とともに尋ねられるが、こちらもあまりスッキリとした返答をしてやることはできなかった。


「打線は水物だから、何点と具体的に予測するのは難しいな。高岡と築城に最低三回、打席が回る。その二人か打ってくれるかどうかももちろんそうだが、二人の前にランナーが何人出てくれるかにもよるしな。ただ」


「ただ?」


「二番手投手までの間に何点取れるかは、重要になってくる」


 船橋は少し顔をしかめつつ、俺の言葉に同意した。


「……確かに向こうの投手陣は、実力的には三番手、最後に出てくるピッチャーが一番手強いでしょうしね」


「ああ」


 頷く。水見高校の実質的なエースはこの三番手投手だ。なにせ、


「防御率0点台。短いイニング限定のリリーフのみとはいえ、この数字はちょっと異常だ」

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