第10話 四球

(やば、打ち損ねた)

 

 初打席の六球目、バットにボールが当たった瞬間、そう思った。

 

 二回裏、無死走者なしで迎えた一打席目、放った打球は結果としてツーベースになったけれど、手のひらに残った感触は、あまり好きなものではなかった。

 

 もっとバットの上のところに当たったほうが飛んでいくのに、もう少しだけ下の、真芯に近いところに当たってしまって、だから打球は、フライではなくライナーになった。

 

 打球速度でいえば会心の当たりといっていいのだろうけれど、たぶんスタンドまでは届かないなと、打った瞬間、すぐにそう思った。

 

(ちょっと沈んだ。ツーシーム、かな?)

 

 射水先輩のボールほど動きはしないけれど、ただのストレートだと思って打つと凡退しちゃうかも。たまたま今の当たりは外野の間を抜けてくれたけれど。

 

(でも、次に来たら打てる)

 

 自信、という言い方が正しいのかは分からないけれど、また同じボールが来たら反応できる、スタンドまで運べる。そのイメージはできていた。

 

 だけど次の打席は、その次にはならなかった。

 

 

 

『ボール! フォアボール!』

 

 四回裏の二打席目、三番の高岡先輩がツーベースを打って一死二塁となった場面、俺に対してはストライクが一球も来なかった。

 

(一塁が空いていたし、埋めたかったのかな?)

 

 ここまでお互いに無失点で、変にランナーを増やしたりはしたくないはずだけど、だからこそよりアウトを取りやすくてゲッツーを狙える一、二塁にしたかったのかな、なんてそんなふうに思っていた。

 

 実際に、それも理由のひとつだったのだろうけれど、それだけが理由でもないようだった。

 

 その次の打席、七回裏、一死走者なしの場面でも、俺に対してストライクが来なかったから。

 

『ボール! フォアボール!』

 

 前打席のシーンを巻き戻して再生したみたいに、主審がさっきと同じ判定を口にする。

 二打席とも明らかな敬遠ではなくて、キャッチャーは座ったまま捕球してはいたけれど、まともに勝負するつもりがないことぐらいは、俺にも分かった。

 

(……つまんない)

 

 最速で140キロが出せて、球種が豊富で、際どいコースを突くコントロールもある。

 だから、この対戦を結構楽しみにしていたのに、つまらない。


 この実質的な敬遠は、四打席目になっても変わらなかった。


『ボール! フォアボール!』


 九回裏、0−1。ツーアウト、ランナー一塁の場面。

 一塁が埋まっているのに、俺を塁に進めればランナーが二人になって、一塁走者は当然二塁に行くから、ワンヒットで同点にされてしまうのに、わざわざ俺を四球で歩かせた。


(……いいよ、もう。この人の投げる球ならたぶん全部打てるし、それに)

 

 きっと後悔する。

 俺の後ろを打つ五番打者の輪島さんは、確かにこの大会中調子が良くなくて、打率は二割を切っていた。

 この試合でも三打席中三打席、全てが凡退だった。

 でも、

 

(あんまり甘くみてると、痛い目に遭うんじゃないかなぁ?)

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