第7話 舐めてんのか?

『四番、ファースト、山下くん。背番号3』


 打席に向かいながら、マウンドへと目を向ける。

 そこに立っているのは、星朋高校のエース、射水ではなく、二番手投手の柏崎だった。

 

 舐められてる。俺たちがそう捉えるのは自然なことだろう。


 だというのに、

 

(なにやってんだ、あいつらは)

 

 俺の初打席は二回表になってから。当然、前には一人のランナーもいなかった。

 

 常時130キロ出るかどうかの二番手投手相手に、上位打線が三者凡退というのはどうにも情けない。


 サウスポーのサイドスロー投手、というのは確かにそこそこ珍しいかもしれないが、それだけだ。

 ストレートも変化球も、大した球を投げているようには見えない。

 

 だというのに前打者三人のうち、一人は三振、残り二人もポップフライに打ち取られている。


(案外、打ちにくい投手なのか?)


 そう思って、見ることに徹した一球目はスライダー。

 これが内角低めに決まり、ストライクになる。


(別に、大した球じゃねえよな?)


 視界から消えるような鋭さがあるわけでもなく、追いきれないほどの変化量があるわけでもない。

 悪い球ではないが、次に同じボールが甘いコースに来ればスタンドまで運べる。追い込まれてからコーナーに決められてもファールで逃げられる、その程度のボールだ。


 二球目も、先ほどと同じインローへのスライダー。俺はこの球に手を出した。

 手応えは悪くなかったが、打球はレフトのファールゾーンへと切れていく。


(ボール球だったな)


 一球目と同じようなコースに、同じ球種が来たものだから思わず手を出してしまったが、あのコースでは打ってもファールにしかならない。わざわざ相手バッテリーにストライクを一つ、くれてやったようなものだ。


(まあ、それでも打ち取られる気はしねえけど)


 やはりボール自体は大したことない。

 とはいえこれで2ストライク。追い込まれた。

 三球で決めに来るか?


 その三球目、相手投手が投じてきたのはアウトハイへのストレートだった。


 際どいコースではあるが、ストライクゾーンには入っている。見逃すわけにはいかない。俺はこの球を打ちにいった。

 バットとボールが衝突し、手のひらにその感触が響く。


(いっただろ)


 俺はバットを放り投げて、一塁へと向かった。

 

 だが打球は俺の予想よりも失速し、最後は相手センターのグラブに吸い込まれていった。アウトの判定がグラウンドに響く。


 俺は舌打ちしそうになるのを堪えつつ、内心で首を傾げていた。


(ちょっと、ボールの下を叩きすぎたか?)


 初見でボールを見極めきれなかったのか、思ったより伸びるのか?

 俺はベンチへ戻りつつ、マウンドで胸を撫で下ろすように息を吐き出していた相手投手を一瞥する。


(案外、手こずるかもしんねーな、この投手)


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