第17話 公式大会に向けて

 練習試合後、星朋高校へ向かうバスの中で、俺は今日の試合と今後の対策について考えを巡らせていた。


 形はどうあれ、勝てたという事実はプラス材料ではあるのだろう。

 とはいえ、


(強豪校とはいえ、一、二年中心のチーム相手にここまで手こずっているようじゃなあ……)


 守りの点で言えば、射水のピッチングは決して悪くなかったし、守備の乱れもなかった。

 問題はやはり打線か。


(一年生投手相手にヒット三本のみ、か)


 確かに相手ピッチャーは好投手ではあったが、一年生投手相手にヒット三本で完投されかけたと考えると素直に喜べない。

 他に得られたものと言えば……。


(築城は一応、ホームランを打ったな)


 一本のみで、それ以外の三打席は全て凡退。

 とはいえ、そのうち二打席はあわやホームランという当たりの外野フライ。内容としてはそこまで悪くない。

 だがそれをスタンドまで運べなかったあたりは課題ではある。原因としては高校レベルでの一線級投手との対戦経験不足と、打球を押し込み切るだけの筋力不足、肉体の未成熟さあたりか。


 どちらも一朝一夕で身につけられるものではないが。まして築城はまだ身長もまだ伸び続けているようだし、現時点では身体に過度な負荷をかけるのは避けたい。それを踏まえると望ましいのはやはり、より実践経験を積ませることか。


 築城が新発田から放ったホームランを、改めて脳内で振り返る。


 新発田が投じたボールは決して失投ではなかった。

 インローの難しいコース、それもあれだけのキレを誇る変化球をスタンドまで運んだあたりはやはり、非凡なバッターであることは間違いない。


 一線級の投手との対戦をより多く経験させる。それが築城の成長を促進させる最善の手段だろう。

 とはいえ、それもなかなか難しい。


(うちには複数の強豪校と練習試合を組んでもらうようなツテがないからな……)


 他校も暇ではない。同じ練習試合をするならよりレベルの高い高校と対戦した方が得るものが大きい。好投手を抱えるような強豪校で、わざわざうちとやりたいと言ってくれる高校はそう多くないだろう。

 そうなると、経験を得る方法は一つしかない。


(実戦で経験を積んでもらうほかないな)


 もっとも、その実戦で結果を出して欲しいのだから矛盾もいいところなのだが。

 とはいえ本番とも言える夏季大会の前に、春季大会がある。


 正直、いつの時期の大会でもいいから結果を出したいうち……というか俺個人の立場からすれば、他校も本番と捉えるであろう夏季大会より、その夏季大会のシード権さえ得られればいいという高校もあるだろう春季大会に力を入れた方が勝ち進みやすいのではないかという思いもある。


(まあどちらにせよ、勝たなければ得られるものも得られないのは変わらない)


 当たり前だが、より多く経験を積ませるためには勝つ必要が、勝ち続ける必要があるのだ。結局のところ目的は大して変わらない。

 春季大会で一つでも多く勝つ、勝ち続ける。それしかない。

 と、そこまで考えて、


(さっきからぐるぐると、同じことを考えているだけだな……)


 考えているようで考えていない。なんだ、大会で勝ち上がるために大会で勝ち上がるしかないって。疲れているのか、俺は。そこで勝ち上がるために、公式戦までの期間でできることはないかという話だというのに。


(まあでも、そうだな。目下まず取り組まなければいけないことは……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る