第14話 ネクスト

 俺の前を打つ三番打者、上市くんが追い込まれていた。


 カウントはツーストライク、スリーボール。


 この場面で相手投手の新発田くんが投じたのは、ここまでうちの打線を苦しめ続けたボール、縦スライダー。


 この球をヒットにできたのは、今のところ高岡先輩ただ一人。


 コースは際どい。だけど上市くんはスイングの体勢に入っていた。当たり前だ。フルカウントで見逃せるボールじゃない。


 でも、たぶん外れてる。


 予測は当たっていた。鋭い変化、凄まじい落差。

 ベルト線の高さに投じられていたボールは、急激な変化を見せて外角低めへと折れ曲がっていく。


 見逃せばボール。だけどスイングは始まっている。


 ヒットになればいい。そうでなくてもせめてファールになれば、打ち直せる。


 だけどスイング軌道は、折れ曲がる変化の軌道からわずかに外れている。

 ギリギリ、当たらない。


(当たらない。だから)


 止まって。バットを止めて。

 そうすればボール。そうすれば四球で出塁できる。

 そうすればもう一度、新発田くんと対戦できる。


 だから、


(止まれっ!)


『……ボールッ! ファアボール!』


 審判の判定が、球場内に響く。

 止まった。止めてくれた。


 だから、これで、


『四番、ライト、築城くん』


 もう一度、回ってくる。


 打席が。


 再戦する、チャンスが。

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