第10話 お別れとメッセージ
朝になっていた。
私はたくさん泣いて瞼が腫れていた。
アビは私を丹念に隅々まで愛してくれた。
アビが目を覚ました。
私を見つめて「もう少しだけ」
と言って優しく愛撫してくれる。
私は胸が張り裂けそうだった。
こんな思い本当はしたくなかった!
「アビ時間だよ」
「わかってる」
「アビ!」
「わかってる!わかってるよ」
アビのやりきれない気持ちが溢れ出していた。
トトが待っていた。
「トト、おはよう」
「おはよう、アビはどうじゃ?」
「あまり大丈夫じゃないかも」
「そうか」
トトは何か考えてるようだった。
「トト、準備は整ったのか?」
アビが言った。
「大丈夫じゃ。帰れるぞ」
アビがご飯作ってくれた。
美味しい朝食も今日が最後か。
「いただきます」
「アビ、今日も最高に美味しいよ。ありがとう」
アビは笑顔だった。
「行ってきまーす」
アビが見送ってくれた。
屋上でお弁当を味わって食べた。私の好物ばかりが入っている。涙が出てきて止まらない。アビ凄く美味しかったよ。
自宅に戻った。
「ただいま」
誰も出てこない。あれ?まさか!
私は急いで居間に行った。
綺麗に飾ってパーティーのような料理が並んでる。
「うわー、すごい」
トトとアビが出てきて
「空、いままでたくさんありがとう」
と言われた。
私は感動して涙が溢れた。
アビが私を抱きしめてくれる。
3人は楽しいひとときを過ごした。
「空、世話になった。全部空のお陰じゃよ。感謝しておるぞ」
「私も家族が増えて楽しかった。トトは頼れるジジイだったから居ないと寂しいよ」
「何がジジイじゃ」
私はトトを抱きしめた。
「名をもらった時から空は私のかけがえのない特別な存在になっていた。私は空を愛することが出来て幸せだった。空、私を信じて欲しい。いつまでも愛してる」
「うん、私もアビに出会えて本当に幸せだったの。だから離れたくない。今日が最後だなんて嘘であってほしい。アビ、私も愛してる」
アビは私を強く抱きしめ、長いキスをした。
「アビ、そろそろ時間だ」
「ああ」
と二人は外に出た。
私も見送りに出た。
突然、私は誰かに攫われた。
空中を飛んでいる。
「空ー!今助ける」アビの声がした。
「アビー!」私は叫んだ。
「空落ち着くんじゃ。大丈夫じゃから。抵抗はするなよ」トトの声がした。
「はい」
アビが見えた。アヌビスの姿をしていた。
最初に出会った姿だ。アビの肩にはトトもいた。
私はよくわからないまま、真っ白い何もない空間に飛ばされた。そこには誰もいない。不安になる。
アビ、トト助けて!ここはどこ?
するとアビとトトが現れ青い石を渡された。
「これを持ってあそこの光の方へ走れ。空は元の場所に戻れるから。愛してる」
と言ってアビとトトは何かに吸い込まれるように消えてしまった。
「アビー!トトー!」
私は急いで光の方へ走った。
そして意識がなくなった。
「空ちゃん!空ちゃん!」
誰か呼んでる?アビ?目が覚めた。
そこはあの時のエジプト展の会場だった。
「空ちゃん、良かった。突然倒れたから。大丈夫?病院いく?」
七瀬先輩だった。
「今日は何日ですか?」と聞いた。
「え?5月15日だよ。頭を打った?」
やっぱりあの日に戻ったんだ。
もしかしたら今日ここでアビに会えるかもしれない。私の心は高鳴った。
「大丈夫です」と答えて立ち上がった。
「僕ついていようか?」
七瀬先輩は心配そうに私を見た。
「本当に大丈夫です」
「先輩、空は大丈夫だって言ってるから行きましょう」
と若菜は先輩の腕を引っ張って行ってしまった。
サークルのみんなも帰って行った。
私は会場であの時が来るのを待った。
人がいなくなってきた。
あと30分で閉館する。私はドキドキした。
アビ!現れて!お願い!
だけど、アビは現れなかった。
「お客様、閉館になりますので」
と係員に声をかけられた。
「はい、今出ます」
私はあの時に戻れないと理解した。
自宅に戻った。
「ただいま」
もちろん誰もいない。真っ暗な家の中。静まり返る空間。私は寂しさに押し潰されそうになっていた。
アビ、トト。今頃何してるのかな?
涙が出て止まらない。もう抱きしめてくれる人もいない。
会いたい。会いたい。アビに会いたい。
私は毎日がちっとも楽しくなかった。ただ大学に行って、サークルも参加はするだけで興味がなかった。七瀬先輩も心配しているようだったが私は素っ気ない態度をしていた。
「空、元気?」
理緒だった。
「まあ、普通だよ。どうしたの?」
「若菜がさ珍しく来て。空が元気ないからって」
「あ、そうなんだ。大丈夫だよ」と私は答えた。
「何かあったの?好きな人でもできた?」
と聞かれた。
「まあ、そんなとこかな。ありがとう心配してくれて」
「いつでも恋愛相談乗るからね」
と理緒は去って行った。
もうすぐ七夕だった。
七夕かぁ。私はため息が出た
明日は七夕祭り。
私は柳に飾り付けをしていた。
アビとの大切な思い出が詰まってる。
電話が鳴った。七瀬先輩だった。
「空ちゃん、いま大丈夫?」
「はい」
「明日の七夕祭り一緒に行かない?」
「いいですよ」
「やったぁ、僕迎えに行くから」
「はい、待ってますね。では」
お祭り当日。
私は浴衣に着替えて外に出て先輩を待っていた。
「空ちゃん、お待たせ。浴衣姿可愛いね」
先輩は笑顔だった。
「そうですか?ありがとうございます」
「空ちゃん、あの時から雰囲気変わったよね。でも僕はどっちの空ちゃんも好きだから」
先輩は照れ臭く言った。
「お祭り行きましょう」
と私は聞かないふりをした。
「あっ、そうだね」
両側には出店があって、通路は凄い人混みだった。
先輩は私の手を握って
「迷子にならないように」
と嬉しそうだった。
「先輩は金魚すくい得意ですよね。行きましょう」
「空ちゃん、何で知ってるの?」
「いや、前に言ってたような気がしたから」
「そっか、バレてたんだ。空ちゃんにサプライズしたかったのに残念だな」
私はうっかり言ってしまった。
私だけが持っている記憶。
辛いよ…
「空ちゃんもする?」
「しようかな。先輩コツ教えて下さい」
と言うと先輩は金魚すくいのコツを教えてくれた。
結局、私はゼロ匹、先輩は8匹ゲットした。
花火が始まった。
先輩が私の方を向いて
「空ちゃん、僕と付き合って下さい」
と告白してきた。
「先輩、ごめんなさい。私好きな人がいるんです。
だからお付き合いは出来ません」
ハッキリと返事をした。
「残念だな。そうかなって思ってた。最近の空ちゃん様子が変だったから。僕ね、空ちゃんに一目惚れだったんだ」
と彼は悲しい顔をしていた。
「本当にごめんなさい」
私は謝るしかなかった。
先輩に自宅まで送ってもらった。
私は一人で七夕の続きをした。
アビと短冊に願い事を書いて吊るしたように。
ふと携帯を見るとメッセージが入っていた。
あれ、誰だろう?
「空、アビは今人間になるために試練を受けている。戻るのに何年かかるか分からない。どうかアビを信じてほしい。トト」
えっ!!トトが!!
私は驚いて全身が震えていた。
急いで返信したがエラーで届かない。
何回も試したがダメだった。
お願い!アビ。私の元に必ず戻ってきて。
また、トトと3人で暮らしたい。
私は一人で泣いていた。震えが止まらない。
アビ!トト!今すぐ会いたい!
ふとアビの匂いがした。私は彼に包まれてるような感覚になって、とても暖かな気持ちになった。
アビ、ありがとう。
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