第7話 夏休み その2

先輩は毎日来ている。

アビも直ぐに諦めると思っていたようだが、意外としぶといと嘆いていた。


私とトトはアビの代わりに家事を頑張っている。


トトには伝えたから大丈夫。

今日は両親の命日なので私はお墓参りに出かけた。

本当は3人で来たかった。

「お父さん、お母さんお久しぶりです。もう3年が経ちました。今私は家族が増えて3人で暮らしています。とても素敵な二人なの。会って欲しかった。だから心配しないでね。私今凄く幸せなの」

両親に報告した。

なんとなく両親の笑った顔が浮かんだ。


私は自宅に戻った。

先輩も帰ってトトはお昼寝していた。

アビは?買い物かな?

静かな家は寂しい。

私は縁側でマンガを読んでいた。

「空、帰ったのか?」アビだった。

「うん、アビは買い物?」

「ああ、そうだ」

「お墓参りの事なぜ言わなかった?」

アビが聞いてきた。

「先輩のトレーニングあったし、私の両親の事だから言わなかった」

「家族なのに言って欲しかった」アビが言った。


私は涙が溢れて出した。


「アビ!本当は一緒に行こうと思ってた」

私はアビに抱きついて泣きじゃくった。

アビは私を優しく抱きしめてくれた。


「空にプレゼントがあるんだ」アビが言った。

「どうしたの?なんかの記念日?」

「今日は空の誕生日。おめでとう!」

と言って私にキスをした。

「交尾男から聞いたぞ!なぜ黙ってたのじゃ?」

トトは言った。

「私の誕生日が両親の命日だから誕生日が嫌いだったの。そもそも両親が事故に会ったのも私の為にプレゼントを買いに行った帰りに起きたから。忘れたかった」

「事情はわかったが、そろそろ祝ってもいいじゃろう?」トトが言った。

私は涙が止まらなかった。こんなに泣いたの両親が亡くなった時以来だった。


私の誕生日パーティーが始まった。

インターホンが鳴った。先輩だった。

みんなで食べて飲んで大騒ぎした。

先輩もアビも酔い潰れてた。トトは疲れた様子で部屋に入った。

私は後片付けをしてアビの寝顔にキスをして部屋に戻った。


朝になっていた。

「空、起きるんじゃ」

とトトが入ってきた。

「おはよう、トト」

「交尾男がなぜまだうちにいる?」

「酔い潰れてたからそのまま寝て朝になったんじゃない」

「アイツ最近ワシが会話できる事気づいた感じじゃったが?」

「ああ、そうかも」

「空は呑気じゃな。困る事になるからワシに話かけないように注意してくれ」

「はい、わかりました」


「空ちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「いやー、気がついたら朝だったよ。迷惑かけてごめん。今日は、帰ります。トレーニングは明日からお願いします」と言って帰った。


「帰ってくれて良かったじゃ」

トトは喜んでいた。

「アビ、おはよう」

「おはよう、空。具合はどう?」

「大丈夫。すっかり元気」

アビは笑っていた。


今日はいつもより涼しい日だった。

トトも過ごしやすいらしく元気だった。

アビは相変わらずトレーニングしている。

先輩がいないので私はホッとしていた。


昼下がり私は縁側でマンガを読んでいた。

アビが横に座って

「空、私はずっとこうしていたい」

「そうだね、私もだよ」


アビは私を強く抱きしめた。

私はたまらずアビにキスをした。


「お取り込み中すまんが来客だ」

トトが言った。


私は急いで出た。叔母夫婦だった。

「お墓参りの帰りで近いから寄ったの。元気そうね。空の顔見たら安心したわ」

「ありがとう、叔母さん。中に入って」


私はお茶を用意していた。

「あらー、犬飼ったの?可愛らしいわ。こっちへいらっしゃい」

「うん、トトって言うの」

「トトおいで」叔母は気に入ったらしい。

トトは叔母に捕まって抱っこされていた。


「いらっしゃいませ、アビと言います」


叔母はびっくりしていた。

「あら?空の彼氏かしら?」

「空にこんな素敵な人いたなんて、私嬉しいわ」

叔母は喜んでくれた。

「あ、紹介してなくてごめん」私は謝った。

「いいのよ。空には幸せになってもらわないとね」


叔母夫婦は安心したのか嬉しそうに帰って行った。


「トトごめん。叔母さん気に入ったみたいで」

「いんじゃ!犬だから仕方なかろう」

「見た目は可愛いからね」

と私はトトをからかった。

「空はひどいのー」


アビがきて

「トト、空、明日キャンプに行かないか?」

と言ってきた。

「急にどうしたの?」

「ああ、最近アイツのトレーニングばかりで息抜きしたくてな。どうかな?」

「ワシは空に任せる」

「私は3人なら行きたい。先輩は無しだよ」

「じゃあ、準備しよう」

アビも張り切っていた。

私から先輩にメールで連絡しておいた。


翌朝、車に荷物を積み込んで出発した。

またトトは自慢の声で熱唱していた。

私もトトと一緒に歌って騒いだ。


現地に到着した。

自然豊かな場所である。木々がゆらゆらして、川のせせらぎが心地よかった。

早速、テントを設置してタープを広げ、テーブルと椅子を置く。トトのお座布と扇風機も用意した。


トトにはペット用の虫除けスプレーをたくさんかけた。凄く匂いがキツイらしい。具合が悪いと寝ていた。

アビは釣りをしていた。楽しそうだ。

私はただボーっとしてた。それだけでよかった。

この数ヶ月でいろんな事が起こり過ぎて慌ただしかった。自然の豊かさに触れてると元気出るのかも。

私は知らないうちにうたた寝をしていた。


「空、空!」アビの声

「あっ、私寝ちゃった」

びっくりして目を覚ました。

「ヨダレ垂れてるぞ」

と言ってアビが拭いてくれた。

「ごめん」

アビは笑って私にチュッとした。

「空は可愛いぞ」

私はドキドキした。アビが可愛いって言ってくれた。嬉しい!

「顔が赤くなってるぞ。空、発情期じゃあるまいな?」

トトが言ってきた。

「トトにはデリカシーがないの?発情期って酷いよ」

と怒った。

「すまぬ。だがアビとて同じ気持ちじゃ。空と結ばれたいと思っておる」

「わかってる。私だって…。だけど帰るんだよね!ずっといられないじゃない!」

「そうじゃな」

「私、大切なものもう失いたくないの。これ以上アビとの関係が深まったら私耐えられない。もう苦しみたくないの」


トトは黙ったままだった。


アビが

「食事が出来たぞ」と呼んでいた。

私とトトは用意されたバーベキューを堪能した。

「すごく美味しい。アビは天才だね!」

アビは喜んでいた。私はアビの笑顔が大好きだ。

「この魚もうまいぞ。アビが釣った魚じゃな?」

「ああ」

トトも満足して喜んでいた。


夜も更けて3人は焚き火を囲んで談笑していた。

「そろそろ休まないか?ワシは眠い」

とトトが言った。

「そうだな」

アビは火の始末をしてくれた。

私はトトとテントに入った。

「空、アビを頼む」

とそそくさと自分のお座布で寝てしまった。

「もう、トトだったら」


アビが入ってきた。

私は胸が高鳴った。ドキドキする。

アビは私を後ろから優しく抱きしめてくれた。

「ずっとこうしたかった」

「アビ」

私はアビに口づけをした。何度も何度も熱いキスを交わした。

「アビ、私」

「空、わかっているよ」

「ごめん」

「空、愛してる」

アビは耳元で囁いた。

私は気持ちを抑えて必死に我慢した。

アビも同じ気持ちだった。

私はアビに包まれ心地良くて、いつの間にか寝てしまった。


川のせせらぎで目を覚ました。アビの腕枕が気持ち良かった。アビの寝顔は可愛いい。

トトは起きていた。

「進展あったかな?」ニヤッとしたように見えた。

「ないよ。私もアビも大人だから」

「残念じゃ!空も脱皮しないとな。未来は今の積み重ねじゃ。だから今を大切にして生きてほしいのじゃ」

「トトわかったよ」


アビが目を覚ました。

「空、おはよう。眠れたかい?」

「アビの腕枕が心地よくてグッスリだったよ」

アビは嬉しそうに笑っていた。


朝食を食べて帰る準備をした。

忘れ物がないように確認して出発。

自宅に着いた。

玄関先で先輩がウロウロしていた。

「先輩、今日もお休みのメールしましたけど」

と私は言った。

「うん、知ってる。空ちゃんの事気になって来ちゃった」

「先輩、私は友達です」

「わかってる。だけど諦められない」

と言って私にいきなりキスをした。

私はびっくりした。

アビは先輩を殴っていた。


「ごめん。僕帰ります」

と先輩はふらついて立ち上がれないでいた。

アビが肩を貸して自宅に入った。


先輩を寝かせて応急処置をする。

「空ちゃん、ごめんね。僕どうしようもない馬鹿なんだ。やっぱりアビさんにはかなわないや」

と言って寝てしまった。

「コヤツも空が好きで仕方ないのじゃ。キズと一緒に心も魔法で治るといいのじゃが。キズは治しておくか」

と言ってトトは呪文を唱えた。


アビは不機嫌な顔をしてる。

トトは

「アビ、アヤツの気持ちがわかるからトレーニングに付き合ったんじゃな」

「ああ」

「もう、終わりにしたらどうじゃ?」

「そうだな」

「お互い傷つけ合うだけじゃぞ」


アビはキャンプの片付けを始めた。

私も手伝った。

「アビ、ごめんなさい。私油断してて」

「気にするな」

アビは怒っていた。


私はどうしたら良かったのだろう。


お昼も過ぎてお腹が空いていた。

私は久しぶりに近所の定食屋の出前を頼んだ。

大好物のカツ丼が届いた。

トトが「美味そうじゃ」と言った。

「私、カツ丼大好きなんだ。美味しいから食べよう」とニコッとした。

「空の大好物か。これからは私が作る」

とアビは言っていた。

みんな満足していた。


先輩が起きてきた。

「おかしいなぁ?僕、殴られたはずなんだけど?あと美味しい匂いがしてきて」

「先輩の分もありますよ。どうぞ」

「ありがとう。お腹ペコペコで。いただきます」


先輩も必死に頑張っていたのだと思った。そして健気で可愛いとも思った。


アビが先輩に

「トレーニングは終了だ」

「えっ!どうしてですか?」

「これ以上教えることはない」

「わかりました」

と先輩はしょんぼりしていた。


先輩は項垂れて帰って行った。


「やれやれ、やっと平和じゃのう」

トトは体を伸ばして寛いでいた。

「あれ?アビは?」

「トレーニングでもしてるじゃろ」

「そうだね」

私もトトと一緒に寛いでいた。


あと1週間で夏休みも終わっちゃう!

アビとこのままでいいの?

私の心が望んでいる事はアビと…。

でも、苦しみたくない。どうしたらいいの。



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