第6話 夏休み その1

あともう少しで夏休み。

あれからサークル活動も開始して七瀬先輩とも良好?な関係である。時折熱い視線を感じながら知らないふりをしている。若菜もいないしみんな楽しそう。


今日から夏休み。ダラダラしたい。そうだ漫画漬けの一日もいいな。と考えていたら

トトが来て

「空!休みだからといって怠けるのはイカン!ほれ!動いて。アビの手伝いでもしたらどうじゃ」

と後ろ足で蹴る仕草をした。


「トト、たまにはダラけるのダメ?」

「空はいつもダラけとる。全部家事はアビがやっておるしな」

「ああ、そこ言わないで。私が悪かったです。アビの手伝いしてきまーす」

と私はその場を離れた。


「アビ、何か手伝う?」

「空は今日から休みなのか?」

「あれ、言ってなかったかな?トトは知ってたよ。アビは人の話聞いてない事多いからね」

「いつもしっかり聞いてるつもりだが」

「何手伝う?」と私は聞いた。

「そうだな、買い物はどうだ。私も行くから少し待っていてくれ」

「はーい!」

アビと一緒に買い物なんて嬉しいなぁ。

最初に服を買いに行っていらいかな。


「空、行くぞ」

とアビが手を出した。私はアビの手を握った。

やっぱりゴツゴツした手。私はその手が好きだった。

商店街に着いた。アビは常連客でイケメンなのでお店のおばさん達に大人気だ。おまけや値引きは当たり前。おばさん達はアビが買い物に来るの楽しみにしてるようだ。

「あら、今日は可愛いお嬢さん連れてるね」

「ああ、私の恋人だ」

「若い子は良いねー!仲良くね。今日はこれサービスしておくから」

とりんごを3個おまけしてくれた。

アビが私のこと、恋人だって!嬉しい!

まだキスしかしてないけど。

私達は買い物を終えて自宅に戻った。


「ただいまー」

トトがお腹を出して仰向けで寝ていた。

えっ、犬も仰向けなの?

私は面白くて写真を撮っておいた。

アビが

「来週あたりビーチに行かないか?トトの魔法で車の運転出来るようになったから。空は行きたいか?」

「えっ!なんか急な話で。アビ運転もできるの?凄いよ!行きます。行きたいです」

「決まりだな。車のレンタルと、お弁当だな」

「あと、水着もね」

と私ははしゃいで言った。

「ねぇ、アビ。水着はどんな感じがいいかな?」

「空に任せる」

と素っ気ない返事をした。

「ハハハッ!愉快じゃ。空も女の子じゃ。アビもう少し相談に乗ってやるといいぞ」

トトはいつから目覚めてたのかやはり侮れない。

アビはあまり露出度があるのはイヤみたいだ。

私もビキニは苦手だから良かった。


ビーチに行く日。

アビは車に荷物を積み込み、私は忘れ物がないかチェックして、トトはもう車に乗っていた。

「出発進行!」

初めてのドライブ。私の心は踊っていた。

トトは案外歌が上手でびっくりした。トトは得意気に自慢の声を披露していた。

アビは苦笑していたが楽しんでいた。

そして、ビーチに到達した。


結構混んでる。アビは迷いなく場所を決める。

パラソルに椅子にテーブル。トトはもうバテてた。

トトには保冷剤入りのお座布と扇風機を用意した。

少しはマシなようだ。

私とアビは水着に着替えて海へ飛び込む。

気持ちーい!

アビの無駄のない美しい身体。

キラキラして眩しい。濡れてるアビも素敵。

私は変な妄想ばかりしていた。

周りの女子もウットリしてアビに注目していた。


アビが

「空。そろそろご飯にしよう。トトもお腹すかしてる頃だ」

「うん」と私はアビに駆け寄って手を繋いだ。


「トト、大丈夫?ご飯食べれる?」

「ワシは大丈夫じゃ。楽しんでおるか?空の水着姿可愛いぞ。なっアビ?」

「当たり前だ。空が一番だ」

「ありがとう、トト、アビ」

私は照れ臭かった。


すると、誰か呼んでいる声が聞こえてきた。

トトが

「交尾男だ!」と言った。

アビの表情は曇った。

「いやー偶然だね。遠くからでもアビさん目立ってたから、空ちゃんも来てるかなと思って」

七瀬先輩がにこやかに言った。

「先輩は一人ですか?」と私は聞いた。

「いや、家族と来てて。妹がどうしてもビーチに行きたいって言うから、僕が運転手でここ来たわけ」

「そうでしたか」

「アビさん、凄くいい身体してますね!トレーニングとかしてるんですか?僕は筋肉がないから羨ましくて。教えてほしいです」

と食いつき気味で話した。

「はぁ、特にない。毎日欠かさずトレーニングしていればこうなる」と不機嫌そうに答えた。

「明日、教えてくれませんか?」

「えっ?明日ですか?」と私が答えてしまった。

「わかった、教える」とアビが答えた。

「やったぁー、空ちゃん明日よろしくね。それに水着とっても可愛いよ」

と言って行ってしまった。

アビは不機嫌なままだ。

「ありゃ、空の事諦めておらんな!アビ教えるなんてよかったのか?」

「仕方ない、空の友達だから」

「アビ、ごめんなさい。アビが嫌なら私断るよ」

「大丈夫だ。アイツも必死なんだ」

とアビは遠くを見つめて言った。


「アビ帰ろうか。トトも疲れてるし。なんかごめんなさい」私は謝った。

「気にするな。空のせいではない。海はもういいのか?」アビは優しかった。

「うん、充分楽しんだよ。ありがとうアビ!」

彼は笑顔だった。

「早く帰ってワシはのんびりしたい」

とトトが駄々をこねていた。


自宅に着いた。トトを先に運んで、私とアビでささっと片付けをした。

明日を考えると少し憂鬱だが仕方ない。


アビと私はソファに座って一息ついた。

トトはグッスリ寝ていた。


私は彼に寄りかかっていた。彼は私の腰に手を回し優しくキスをしてくれた。

アビの匂いが心地良い。私は彼と何度もキスを交わした。


「アツアツじゃのう。その先は違う場所で頼む。

ワシは今日は疲れたからご飯はいらん。先に休む」

トトが言った。

「トトの悪趣味!」と私は不機嫌になった。

「すまん、仕方なかろう。ゆっくり楽しみなさい」

とニヤついて部屋に行った。

「もう、トトだったら」と私は憤慨していた。

アビは笑っていた。


「空、お腹空いてないか?」

「うん、空いてる」

「残り物でいいか?」

「うん」

私とアビは楽しく食事をした。


電話が鳴った。お世話になっていた親戚の叔母からだった。

「久しぶりだね。元気にしてたかい?一人じゃ寂しくないかい?」

「うん、大丈夫だよ。何とかやってるよ」

「そうかい。元気そうで良かった。姉達のお墓参り来週行くけど一緒に行かないかい?」

「ああ、ごめん。今年は私一人で行こうかな」

「わかったよ。何かあれば連絡してね。じゃあね」


叔母には優しくしてもらった。叔母夫婦には子供がいなかったから両親が亡くなってからの2年間は私を引き取り面倒を見てくれた。私には優しすぎて甘えすぎる自分が嫌いだった。だから一人暮らしを始めた。


「空、どうかしたか?」アビが心配そうに聞いた。

「あ、何でもないよ」と答えた。

「アビ先にお風呂どうぞ」

「そうだな」


両親の命日は来週だった。あれからもう3年になるんだ。あの時は辛かった。突然、一人になってしまって不安と寂しさでいっぱいだった。

今は家族がいる。

だけど、いつかは無くなるかりそめ家族。


「空、上がったから入れ」

アビがパンツ姿でウロウロしてた。

いつもの光景でホッとする。

「うん」


アビはソファで寝ていた。運転もしてたし疲れたんだろう。私はタオルケットをかけてあげた。

アビにキスをして私は部屋で休んだ。


翌朝、いつも通りトトが起こしにきた。

「空、起きるんじゃ!」

「ええ、もう朝?」

「昨日はあれからどうじゃった?」

「トト、いやらしい事考えてるでしょ?

もちろん健全です」

「何だ残念じゃ。ワシが気を効かしたのに」

「トトの思惑通りにはならないよ」


「いただきます」

「アビ、今日も凄く美味しいよ。ありがとう」

私は笑顔で食べる。

アビも嬉しそうに笑ってくれる。

「朝から仲が良いのー」

とトトがつぶやいた。

いつも楽しい食卓で私は幸せだ。

片付けは私の仕事。アビは掃除と洗濯をしていた。


インターホンが鳴った。

七瀬先輩だった。私はすっかり忘れていた。

「先輩、おはようございます」

「空ちゃん、おはよう。アビさんいる?」

「アビはまだ雑用やってるけど」


私はアビを呼びに行った。

アビは洗濯物を干している。

「七瀬先輩もう来ちゃった!私変わるから行ってあげて」

「ああ」アビはそう言うと先輩を出迎えた。


「アビさん、おはようございます」

「ああ」

「今日からよろしくお願いします」

と先輩は頭を下げた。

「キツイぞ。大丈夫か?」

「はい!」

先輩は元気よく返事をした。


早速トレーニングが始まった。

始まって30分ぐらいで先輩は根を上げていた。

アビは

「10分休憩」

先輩は声も出ない。


「交尾男は今日でもう来ないじゃろう」

トトがつぶやいた。

「トト、先輩のこと交尾男って呼ぶのやめてほしいの」私は注意した。

「本当の事じゃから仕方ない。アイツはまだ空のことが好きだから安心はできんぞ」

「私も気づいてたんだ。まだ思われてるって!だけど、私にはアビがいるし。どうしたらいい?」

「そうじゃな、空は自分の思いを貫けばいいのじゃ。よそ見をするな。惑わされるな。大切なものを見失うな」

時々、トトは納得することを言う。

私もその通りだと思った。


「アビ、お昼はどうしますか?」

と私はドア越しに聞いた。

返事がない?私はノックして中へ入った。

ヘトヘトの二人が床に寝そべっていた。

「大丈夫!今水分持ってくるね」

私はスポドリを渡した。

二人はグビグビ飲んでいた。

「暑いから水分大事だよ。脱水症状になったら大変なんだから、もう」

「空ちゃん、ごめん。僕が無理言ったから」

先輩は言った。

「無理はしないでください」

「すまん」アビは一言謝った。


「お昼ご飯食べよう」

4人で楽しく食事をした。

「空ちゃんは料理も上手なんだね。凄く美味しかった」先輩が言った。

「普通だよ。アビはもっと上手だから」

「えっ!アビさん料理もするんですか?」

「アビは家事は全部完璧にこなす主夫なの」

と私は言った。

「僕がかなうわけないよ。アビさん凄いよ」

先輩は項垂れていた。


アビが片付けをしてくれた。


先輩はまた明日と言って帰った。

もしかして、夏休み中ずっと来るの?

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