第2話 探し物
朝になった。昨日の出来事を考えていたらあまり眠れなかった。
彼の具合を見に行った。
彼の顔の一部が黒く変色していた。布団をめくって見ると右手、右足も黒く変色していた。
えっ!何かの伝染病?大変だぁ!私はパニックになりそうだった。彼が目を覚ました。
「すまん、これを持って行け。トトを探すのに役に立つ」と小さな赤い石を渡された。
私は深呼吸して気持ちを落ち着かせて聞いてみた。
「あのー、何かの病気ですか?」
「ああ、これか?呪いだ」
「呪い?」
「トトにしかとけない」
「トトさんはどんな方ですか?」
「黒い犬だ!」
「犬?えっ!人じゃなかったの?犬を探せばいいのですか?」
「そうだ。急いでほしい!」
と切羽詰まった様子だった。
私は保健所へ連絡して向かった。
犬が保管されている場所へ案内された。
「どんな犬ですか?」
「黒い犬です」
「犬種は何かな?」
「ああ、頼まれたもので黒い犬としか聞いてなくて」と言った。
「じゃあ、こちらへどうぞ」たくさんの犬がいた。
私は黒い大きな犬だと思い込んでいた。
小さい声で「トトさん何処ですか?」と言うと
「ここ」
えっ、今確かに聞こえた。
「ここじゃよ!早く出せ!」
と渋く低い声が聞こえてくる。
檻の中を見ると、可愛いらしい黒いトイプードルが座っていた。
「トトさんですか?」
「そうだ。アヌビスから頼まれたんじゃな」
「はい、迎えに来ました」
係のおじさんは不思議そうに私を見ていた。
「あんた、犬と会話できるのか?」
「イヤ、まさか!あ、あのこの犬です。この黒いトイプードルです。引き取ります」
と慌てて言った。
手続きを取って引き取る事に成功した。
私は急いでタクシーに乗り自宅へ戻った。
アヌビスは弱っていて朝よりも黒い部分が増えていた。
「こりゃー酷いな!アヌビスもう大丈夫じゃ。今呪いをといてやる」
と言うと呪文を唱え始めた。
すると、黒い部分がみるみるとなくなっていく。
「トト、すまない。セトの使いにやられた」
「いや、ワシが人間に捕まったからじゃよ。そのせいじゃ。お前は普段は強いからな」
私はさっぱり会話についていけてない。
「あのー、説明して頂けますか?」
トトが話し始めた。
「ワシらはアヌビス様の使いじゃ。普段ワシらがいるのは地獄の入口で、逃げ出す魂を見張る仕事をしている。アヌビスの使いは全部で8人いるのだが、最近は地獄も魂で溢れかえっていて見張るのも一苦労な状態なのじゃ。それで、逃げ出した魂を追ってこの日本にワープしてきたわけ。逃げ出した魂が人間に乗り移る前に処分しないと大変な事が起きるからのう。アヌビスがその魂を始末したからそれは大丈夫だったのじゃが、セトの使いも一緒にワープしてきたのに気がつかなくてな。ワシも油断して野良犬だと勘違いされて捕まるし、それに気を取られてアヌビスがセトの使いに呪いをかけられてしまったのじゃ。ちなみにセトの使いはセトの分身でな、アヌビス様とは宿敵の関係なんじゃ」
「はぁ、私には信じられない話で、どう理解していいのか?」
私は混乱していた。
「まぁ、普通の反応だわな。そもそも人間に関わる事はないからな」
「それと、もう一つ頼みがあるが聞いてくれるか?」とトトは言った。
「はい?なんでしょう」
「うーむ、少々不具合が起きて見つかるまでの間ここに居候させてもらえんか?」
「はい?見つかる間?」
「ワシが捕まった時、ワープする為に必要な青い石を落としたようで、その石が見つかればワシらは帰る。それまでの間いいじゃろうか?」
とトトにお願いされた。
少し沈黙が流れた。
私はどうしようか考えていた。この一軒家で一人暮らしは寂しい。両親の思い出もたくさん詰まっている。また、賑やかに暮らしたいと思った。
「いいですよ!私一人暮らしで寂しかったから大歓迎です」
と笑顔で答えた。
「ありがとう。お嬢さん!」とトトに感謝された。
「私は青山空といいます。空でいいです」
と挨拶した。
「ほぉ、空かぁ。良い名だ!ワシはトト。アヌビスの相棒じゃ。よろしく頼む」とトトは答えた。
「そちらの彼は?アヌビスさんですか?」
「私はアヌビスの使いだ。よろしく頼む」
と彼は堅苦しく挨拶した。
「お名前は?」
「名前はない!アヌビスの使いだからな」
と彼は不機嫌そうだった。
「アヌビスの使いはアヌビス様に選ばれた逞しく強靭な魂を持つ者だけがなれるのじゃ。逃げ出した魂や暴れる魂を食べて生きてる存在だから名前はないのじゃ」
とトトは説明してくれた。
私は可哀想に思えた。
「私からの提案ですが、ここに居る間のお名前決めませんか?」
「おお、いい考えじゃ」トトは賛成してくれた。
「アヌビスを略してアビはどうですか?」
と私は言った。
「呼びやすくて良い名前じゃ」
トトは笑ってるように見えたが、なんせ犬だから表情が分かりづらい。
「じゃあ、決まり。今日からアビね」
と私は彼を見て言った。
「私はアビなのか?」
「そうよ!」
「名前は良いもんじゃろう、アビ」
「ああ、何だか嬉しいものだな」
と彼はにこやかに呟いた。
不思議な共同生活が始まった。
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