アヌビスの使い

きんつば

第1話 助ける

私はエジプトが大好きな大学一年生

青山空あおやまそら


サークルもエジプト同好会に入部している。

1つ上の先輩、七瀬一馬ななせかずまさんが私を誘ってくれた。


私の友人、小林若菜こばやしわかなは七瀬先輩に一目惚れして

エジプトが好きでもないのに入部した。


今日は同好会メンバーで、都内で開かれているエジプト展を見に行く日である。

私はとてもワクワクしていた。間近で実物を見られるなんて幸せ。七瀬先輩もはしゃいでいた。

私達はチケットを買って中へ入った。

私は感動して立ちすくんでいた。

大きな石像、彩りどりの装飾品、木製の棺など

一気に目に飛び込んでくる。

「うわぁ、本物は凄いよー!」


私がエジプト好きになったのも母の影響である。

母はマンガ好きで中でも王家の紋章の愛読者である。

私は小さい頃から母のマンガを読んで育ってきた。

例外なく私も王家の紋章の大ファンである。


心踊りながら観覧した。

中でもツタンカーメン王の黄金のマスクと黄金の棺は目を見張る物だった。メンフィスとキャロルの事を思い出し涙が出そうになった。

七瀬先輩が

「空ちゃん、どうしたの?感動してるの?」

「はい、私泣きそうなくらい感動してます」

「そっかぁ、見にきて良かったね」

とハンカチを差し出してくれた。

七瀬先輩はいつも優しくて気の利く人だ。

フワッといい香りのするハンカチだった。


皆んなで会場を後にして七瀬先輩が

「これから皆んなで食事に行かない?」

と言っていた。

私は携帯がないのに気がついた。

あれ?どこかで落としたかな?さっきのエジプト展で写真撮影したときかも!

「ごめん、私携帯落としたみたいだから、ちょっと戻って探してきます」と言った。

「空ちゃん大丈夫?僕も一緒に行くよ。皆んな先行ってて」と七瀬先輩が駆け寄ってきた。

「七瀬先輩が居ないと楽しくない。だから食事行きましょうよ。空は大丈夫だから」

と若菜は七瀬先輩の腕をグイッと引っ張って一緒に行ってしまった。


私は急いで会場へ引き返した。

係員の方に落とし物が届いてないか確認したが無いと言われ、またチケットを買って中へ入った。

「お客様!あと30分で閉館となりますがよろしいのですか?」と聞かれたが仕方なかった。


ほとんど人もいない。

自分が見学したルートを見て歩いた。

角の方に何か光った。私の携帯!良かったぁ!と

安心して拾いあげバックの中へ入れた。


「うぐぅ、まずい」と奥の方から聞こえた。

私はそーっと声の方を見ると、アヌビスの姿をした人が立っていた。そしてそのまま倒れた。


私は夢?まさかタイムスリップ?

心臓がバクバクしたが、ゆっくり近づいた。

するとそこには黒髪のイケメン男子が倒れていた。

「あのー、大丈夫ですか?」と声をかける。

「すまんが、トトを呼んでくれ!」

「えっ、トト?」

「私の相棒だ」

「近くにいるんですか?」

「わからない」

私は頭の中が混乱していた。


係員の方が来て

「どうしました?大丈夫ですか?お知り合いですか?」

私はすかさず

「はい、大丈夫です。連れて帰りますので」

と彼をなんとか立たせて会場を出た。

彼は「すまない」と言ってくれた。

タクシーに乗り私の自宅へ運んだ。


私は2年前、両親を交通事故で亡くしている。

去年までは親戚の家で暮らしていたが、今年から大学生になった事を機に両親と暮らしてた家で一人暮らしを始めた。


彼をまずソファに寝かせた。

とても苦しそうにしているのでお水を飲ませる。

「ありがとう」と彼は弱々しく言った。

私はたくさん聞きたい事だらけだったが止めておいた。隣の部屋に布団を敷いて彼に休んでもらうことにした。

彼は「トトを探してくれ、頼む」

「あのー、携帯で連絡すればすぐ分かると思いますが?」

「そんなものはない!」

「随分とアナログですね」

「トトが居ないと私は死ぬ」

「えっ、死ぬって!大袈裟です。見たところ血も出てないし、大丈夫そうですが?」

「頼む、トトを探してくれ」

「わかりました。今日は遅いので明日探します。だから休んで下さい」

「頼む」と言って彼は眠りについた。


何だか訳がわからない。あの時見たアヌビスは誰?

この彼がアヌビス?私頭でもおかしくなったのかな?それにトトって誰?

結局、何も分からないまま。

明日警察に行って事情を話そう。

私も疲れたので休むことにした。

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