第5話 大学生のあたし。

 大学生になって、あたしの前に現れたチャンスの神様は

 どういうわけか、頭のテッペンに一本だけ

 たった一本だけ、髪の毛を生やしていた。

 それはまるで長寿アニメのお父さんのように。

 とにかく、今度は掴む場所があるわけで

 あたしはわき目も振らず、一心不乱にソレに飛びつくと

 一本だけの髪を鷲掴みにしてやった。


 ――やった!


 とうとう捕まえた!

 そう思ったとき、神様の啜り泣きが聞こえてきた。

 見れば、ハラハラと切なそうに涙を流している。

 まるで、そんなに乱暴に掴まれたら

 最後の一本の、大事な大事な髪の毛が

 抜けて失くなってしまうよ。

 と、言わんばかりに。


 その姿があんまり可哀相で、あたしはそっと手を離した。

 神様は肩を震わせて鼻をすすりながら、トボトボと歩いて遠ざかり

 数メートル離れた場所で振り返ると

 あたしに向かって、アカンベーをしてみせてから走って逃げた。

 神様の小馬鹿にしたような笑い声を聞きながら

 あたしの頭は怒りでドカンと噴火して地団駄を踏んだ。


 ――翌日。


 付き合い始めて三日目のシュンペイくんを

 サークルのミヤコ先輩に寝盗られた。

 ちょっとだけ悔しくて情けない。

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