王とは?

@Rui570

王とは?

 ここは異世界にある王国・ピーサー。この国の中央にある大きな城の広い庭で二人の男性が木刀で修行をしている。一人は中学生くらいの少年で、もう一人は大学生くらいの青年だ。大学生くらいの青年は両手の木刀で相手の木刀を叩き落とし、そのまま突き倒した。

「イテテテ…流石は兄上だ…」

突き倒された少年は尻餅をついて、痛そうに腰を撫でている。

「俺の勝ちだな、ロキ。相変わらず弱っちいな。」

 この少年の名はロキ・ブライソン。15歳のピーサーの王子だ。そして、ロキを木刀で突き倒したのはロキの兄である18歳のソン。

ロキは悔しそうに木刀を手に立ち上がる。

「兄上、もう一度勝負を…」

「いいだろう…だが、俺が勝つさ…!」

その時、一人の男性が歩いてきた。

「やぁ、二人共。修行は頑張っているようだな。」

「父上…」

ロキとその兄は男性にお辞儀をする。

 この男性はオディン・ブライソン。ピーサーの国王でロキとソンの父親にあたる存在だ。

「ソンよ、見事な出来だな。お前こそ新たな王にふさわしい…!」

「ありがとうございます、父上。」

ロキもオディンの隣に立って声をかける。

「父上、僕もいつの日か…強く優しい王になれるよう…頑張ります…!兄上のように強く…あなた様のように…賢く、優しい王になるために…!」

「お前なぁ…いつも修行の結果は俺と比べてダメダメじゃないか!お前は正義感も強くていい奴だが、弱けりゃ意味がないんだよ!」

その時、一人の衛兵が慌てて駆け寄ってきた。

「どうした?」

「国王陛下、大変です!ドラゴルドからドラゴニアンたちが…!」

 ドラゴルド。それは凶悪なドラゴンの種族・ドラゴニアンが住んでいる恐怖と暗黒の国。ドラゴルドからピーサーを侵略するべく、ドラゴンの獣人たちの種族・ドラゴニアンが襲撃してきたのだ。

「二人共、いくぞ…何としても迎え撃つのだ!」

オディンとソン、ロキはドラゴニアンたちが襲撃している城下町へ急いだ。




 城下町。ここではドラゴルドのドラゴニアンたちによって地獄のような光景が広がっていた。家や店が破壊され、襲われた人々が逃げ惑っている。

 そこへ、ロキとソン、衛兵を従えたピーサーの王・オディンが駆けつけた。

「お前たち、これ以上わが国を脅かすのなら…我々が許さんぞ!」

オディンが大声を上げると、ドラゴニアンたちは吠えて突進してきた。どうやらもう戦うしかないみたいだ。

「全世界は俺たちドラゴニアンがもらう!」

ドラゴニアンの王・ゴーンの一言を合図に、ドラゴニアンたちが突撃してきた。オディン率いるピーサーの戦士たちも受けて立つ。




「父上……それに兄上も……凄まじい強さだ…!よし…僕だって…!」

 父や兄が武器で次々とドラゴニアンたちをなぎ倒していくのを見て、ロキも短剣を両手に一本ずつ持って向かっていく。

「いくぜ!」

一体のドラゴニアンはうなりながら強烈なパンチを繰り出した。ロキはそれをかわして短剣で反撃する。次の瞬間、後ろからまた別の攻撃がきてロキは膝をついてしまった。そして、真正面にいるドラゴニアンの攻撃を受けて吹っ飛ばされてしまう。倒れているロキは床に落ちている短剣を拾い、真正面を見上げるが、既に大勢のドラゴニアン達に囲まれてしまっている。

「フフフ…まずお前から地獄へ送ってやる…!」

ロキが死を覚悟した瞬間、銀色の鎧を纏った一人の戦士が棍棒で強烈な打撃を与えた。それによって周囲のドラゴニアンたちが一気に吹っ飛ぶ。ソンだ。

「相変わらずかっこ悪いな、ロキ。」

ソンはロキを見て笑うと、ドラゴニアンたちに殴りかかっていく。

「僕だって…うおぉぉ!」

立ち上がったロキは突撃していくが、ドラゴニアンたちはびくともしない。

「この弱虫王子め!」

ドラゴニアンの攻撃を受け、ロキは再び吹っ飛ばされてしまった。

「…くっそぉ…」

倒れているロキにゴーンがとどめを刺そうと両手の爪を伸ばした瞬間、空中から金色の光線が放たれた。それを受けてゴーンは吹っ飛ばされてしまう。

「この国と…この国に住む命を奪う者は…私が許さんぞ!」

白馬に乗ったオディンが槍を構えて地面に着地する。

「おのれぇ…者ども、やってしまえ!」

ゴーンの命令を受けたドラゴニアンたちがオディンに襲いかかっていく。オディンも武器の長槍で受けて立つ。

「ピーサーよ、我に力を…!」

その言葉と同時にオディンが長槍を振り上げた瞬間、金色の光線が滝のように降ってきた。その光線を浴びてドラゴニアンたちが消滅していく。

「な…なんて強さなんだ…!」

ロキは圧倒的な力で敵を倒していく自身の父を見てそう呟いた。




 ソンは棍棒でドラゴニアンの一体を殴り倒した。その直後に後ろから飛びかかってきた一体のドラゴニアンによる攻撃が当たってしまう。

「わっ!」

振り向いた瞬間には次の攻撃がきていた。ソンはそれを棍棒で受け止める。

「ちょっと待て!わかった、俺の負けだ…!」

「フン……」

それを聞いたドラゴニアンは鼻で笑い、立ち去ろうと後ろを向く。その瞬間、ソンは勢いよく棍棒を投げつけた。

「うわっ!」

棍棒が背中に直撃し、よろめいた瞬間にソンは棍棒をキャッチし、そのまま数度殴りつけた。

「く……ひ……卑怯………」

ソンは殺したドラゴニアンにつばを吐きつける。

「勝てばいいんだから卑怯だなんて知ったことか!」

 卑怯な戦い方をしたソンだが、それにはロキもオディンも気づかなかった。




 追い詰められたグーンは地面に倒れている。逃げようとするが、体中に痛みが走って体が思うように動かない。オディンは倒れているグーンの喉元に長槍を突きつけ、

「お前の負けだ!分かったら大人しく国へ帰れ!」

「お…おのれぇ……」

グーンはゆっくり立ち上がり、降参の印に両手を上げる。オディンが槍を収めようとした瞬間、グーンは爪を伸ばした。降参すると見せかけて不意打ちを仕掛けるつもりだ。ロキは短剣で向かっていくが、間に合わない。爪がオディンに触れる寸前、ソンが飛んできて光を纏った棍棒で殴りつけた。

「う……」

大ダメージを受けたグーンはその場で倒れ込み、動かなくなった。

「この国の平和を脅かす者は……死あるのみ…」

ソンは父の元へと歩み寄った。

「父上、衛兵の何人かが犠牲となりましたが、ドラゴニアンたちは皆倒しました。」

「そうか…。ご苦労だったな……ソン。」

 会話している二人を近くで見ていたロキは父がなぜか辛そうな感じだと思ったが、それは何故かわからなかった。わかるのは自分が兄や父の足を引っ張ってしまったことだ。修行の成果を発揮できず、戦う相手からは弱虫王子と馬鹿にされた。こうなってしまったら…さらに修行をつけていかないと!




 数日後。ロキは城の自分の部屋にいた。

「おい、何をしている?」

振り向くと、ソンがいた。

「兄上…明日から僕は…修行の旅に出るんだ…。そのための荷物をまとめているんだ。」

それを聞いたソンは一瞬驚いたが、やがてゲラゲラと大笑いし始めた。

「何がおかしいんだ?」

「普段の修行がなっていないお前が異世界で修行だと?笑わせないでくれ!できるわけないだろ!」

「そんなことない!僕だって……兄上のように強く、父上のように優しくて賢く、誰からも尊敬される王になりたいんだ!」

ソンはロキの襟元を掴む。

「ふざけるな!お前みたいな…優しいだけの弱虫が…王になれると思うか!」

「やめろ!」

気がつくと、そこにはいつの間にか来ていたオディンが立っていた。

「ソン、ロキに修行の旅の許可は私がした。」

ソンは舌打ちをすると、不満そうな表情で部屋を出て行った。

「ありがとうございます、父上。」

「気にするな。お前が自分から異世界に旅立つとは驚いたぞ。」

「このままでは強くて優しくて誰からも尊敬される王になれないと感じたんです。」

「そうか。お前も…頑張れば良き王になれるだろう…」

オディンは優しく微笑む。ロキも荷造りに戻る。




 翌日。

「それでは行ってまいります。」

「うむ…達者でな…」

オディンがそう言うと、ピーサーの王妃でもある母・フリガが優しく声をかける。

「気をつけていってくるのですよ。」

「はい。僕は、新たな王にふさわしき人物になって帰ってきます…!いつの日か…必ず…!」

それを聞いてソンも口を開く。

「フン…無理しなくたっていいんだぜ……弟よ…」

ロキは白馬に乗って城を後にした。




 城を後にしたロキは白馬に乗って突き進んでいく。しばらく経った瞬間、ロキが乗っていた白馬の背中から大きな翼が出てきた。この白馬の正体はペガサスで陸を走るだけでなく、翼を高速で羽ばたかせて空を飛ぶこともできるのだ。ロキのペガサスは宙に浮いてから咆哮を上げる。

「あとは異世界に飛ぶだけだな…」

ロキの言葉を合図に、ペガサスは目から青いレーザー光線を発射した。それによって光の穴が開く。ロキのペガサスは目から発射する光線で光の異次元の穴を開き、一瞬で異世界へ移動することができるのだ。

「よし、行くぜ!」

ロキを乗せたペガサスは異次元の穴を潜り抜けていった。異世界では何がロキを待っているのだろう?




 ペガサスが開いた光の穴を潜り抜け、やがて地面に着地した。空は晴れている。ピーサーによく似た光景が辺り一面に広がっている。

「ここは…異世界ではないのか…」

困惑していた時、空いっぱいに黒い雲が立ち込めた。そして、雷鳴が響き渡る。ロキの表情が緊張に包まれた瞬間、雷鳴と共に黒いドラゴンが牙をむき出しにして飛びかかってきた。

「うぉっ!」

ロキは転がってかわすと、ドラゴンの方を向いて短剣を構える。

「よし…今度は僕の番だ…!」

ロキが斬りかかった瞬間、後ろから強烈な攻撃が来た。

「うわぁ!」

気がつくと、いつの間にか一つ目の巨人が立っていた。

「サイクロプスか……。こいつはかなり手ごわそうだな…」

サイクロプスと言われた巨人の背後からも2体のサイクロプスが現れた。三体のサイクロプスが棍棒を構えて襲いかかってきた。ロキも短剣で向かっていく。

ロキは短剣でサイクロプスを突き刺そうとするが、逆にサイクロプスの一撃を受けて吹っ飛んでしまう。

「くっそ…」

サイクロプスの一体が棍棒を持って駆け出し、勢いよく振り下ろした。ロキはサイクロプスの両足の間を潜り抜けてかわすと、そのまま背中に飛びついて短剣で斬りつけた。

「ぐぅ…」

背中を斬られたサイクロプスは反撃しようと振り向くが、その瞬間、ロキが短剣をその一つ目に突き刺した。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」

苦しそうに発狂するサイクロプスの一体は一つ目を両手で抑え、動きを止めてしまう。そのすきにロキは棍棒を奪って勢いよく叩きつけた。今度はサイクロプスが跳ね飛ばされる。

「これでとどめだ!」

ロキが短剣を跳ね飛ばしたサイクロプスの胸部に突き刺した。それによってサイクロプスの一体が絶命し、動きが完全に止まる。

 なんとか一体倒した束の間、先程の黒いドラゴンがもう一体のドラゴンを連れて飛びかかってきた。ロキはそれを飛び下がってかわす。

「今度は仲間を連れてきたのか!」

その時、Uターンしてきたドラゴンの一体によって弾き飛ばされてしまう。

ロキはドラゴンめがけて短剣を投げつけるが、しっぽを勢いよく振ってロキが投げた短剣を弾き飛ばしてしまう。

「嘘だろ…修行はまだ始まっていないのに…」

結局僕は無力なのだろうか?

「待て!ワシらが相手じゃ!」

その声に振り向くと、自分と同じくらいの年齢の若い美少女を連れた一人の老人が立っている。

「貴様ら、ワシらが返り討ちにしてやるからかかってこい!」

それを聞いたサイクロプスやドラゴンたちが老人たちに向かってくる。

「さぁ…いくぞい!」

老人は持っていた杖を構える。老人の隣の美少女も斧を手に向かっていく。

「グォォ!」

サイクロプスは持っていた棍棒を振り下ろすが、老人は素早くかわすと、飛び上がって杖で顔面に強烈な一撃を与える。老人はさらに杖で相手の棍棒を叩き落とすと、杖を一つ目に叩きつけ、最後に胸部に突き刺す。

「グォォ……」

サイクロプスの一体は弱弱しい声を上げ、やがて絶命した。

「老人だからと言ってワシを舐めない方がいいぞい。」

老人の一言にドラゴンは牙をむき出しにして突進してきた。

「こっちについてこんかい!」

老人は走り出し、ドラゴンもそれを追っていく。




 最後の一体のサイクロプスは棍棒で美少女に殴りかかった。美少女も斧で応戦する。サイクロプスは左手の指から爪を伸ばし、攻撃を仕掛けるが、美少女はかわして高く飛び上がる。そして、斧を振り下ろした。強烈な一撃でサイクロプスの棍棒が折れてしまう。

「どう?このまま降参するなら見逃してあげるけど…」

すると、サイクロプスはうなりながら殴りかかってくる。

「もう容赦しないから。」

そう言うと、美少女は投げ矢を取り出すと、そのまま投げつけた。サイクロプスは折れた棍棒でそれを叩きつけるが、その瞬間に爆発が起きた。この投げ矢は刺さらなかったとしても触れたら爆発する仕掛けになってるのだ。

 投げ矢の爆発に相手が怯んだ瞬間を美少女は見逃さなかった。怯んだ隙に持っていた斧を投げつける。

「ギャァァァ!」

斧は胸部に突き刺さり、サイクロプスは絶命した。




 老人はドラゴンから必死に逃げていた。その前方からももう一匹のドラゴンが現れる。一匹のドラゴンが口から炎を吐く。老人はもう一匹のドラゴンの頭に飛び乗る。それでもドラゴンは炎を吐き出す。老人が飛び降りた瞬間、、炎は別のドラゴンに燃え移った。

「グォォォォ!」

炎の熱に耐えられず、ドラゴンは慌ててどこかへと飛んでいった。炎を吐いた方もどこかへと飛んでいく。




 老人と美少女は逃げて行くドラゴンを見て笑みを浮かべた。そこへ、ロキが近づいて来る。

「助けてくださりありがとうございました。」

「いいや、それより君は何者だ?」

「僕はロキ・ブライソン。ピーサーの王子です。」

それを聞いて二人は驚いた。

「なんじゃと?ピーサーの王子がなぜこのスマブライムに?」

「スマブライム?」

初めて聞く世界の名にロキはきょとんとする。

「まあとりあえず、話はワシらの家でしよう。」

老人と美少女は歩き出し、ロキもペガサスも後をついていく。




 老人の家は山の中にあった。

「ほほう…君は強く、優しく、賢い王になるための修行をするために旅立ってここに来たという訳か?」

「はい。どうか…僕を鍛えてください!」

ロキは目の前の老人に土下座をする。老人はロキの必死な表情を見つめて口を開く。

「よかろう。ただし、ワシの修行はかなりきついから覚悟しておくんだぞ。」

「はい、ありがとうございます。」

そんなロキに隣で話を聞いていた美少女が肩を叩く。

「私も修行をするから…一緒に頑張ろう…!」

「は、はい…」

ロキは美少女の笑顔を前に緊張してしまう。

「私はヒメ。よろしくね。」

「は、はい。よろしく…お願いします…」

そんなロキに老人も声をかける。

「申し遅れた…ワシの名はマスタ。ヒメの祖父だ。」

それを聞いてロキは驚く。まさか祖父と孫だったとは…!




 翌朝。ロキが目覚めた瞬間、マスタが目の前に立っていた。

「ロキ、早速修行を始めるからついてくるんじゃ。」

「は…はい。」

ロキは起き上がってマスタについていく。最初の修行はなんなんだ?




 マスタの家を出たロキはヒメと共に歩いていくマスタの後をついていく。

「ヒメ、昨日聞き忘れたけど、このスマブライムってなんなんだ?」

「ここには人間だけじゃなくて様々な怪物たちも住んでいるのよ。人間と共存しようとする怪物と人間を襲う怪物がね。」

「なるほど。色々な怪物がこの世界にはいるのか…」

ロキがスマブライムについて理解した瞬間、

「さぁ、着いたぞ。」

三人がたどり着いたのは海だった。

「師匠、ここで一体何をするのです?」

「ここで君はひたすら波を耐え続けろ。」

マスタがそう言い終えた瞬間、大きな波がやってきた。波の勢いはすごく、ロキは後ろに倒れる。

「これを…ひたすら耐え続けるのか……」

ロキはゆっくりと立ち上がるが、また次の波がきて再び倒れてしまう。

「波は君に襲いかかってくる敵だと思え。」

「は、はい…」

ロキは波に怯まないよう、必死に踏ん張るが、波の勢いは少しずつ増していく。

「もう…限界だぁ!」

耐えていたロキは次々とくる波の勢いに耐えられず、砂浜に倒れこむ。




 その様子をマスタとヒメが離れたところで見ていた。

「お爺ちゃん、いきなりあの特訓は不味いんじゃないって思ったけど…」

「たしかにな。だが、彼は一応耐えることはできていなくはない。」

その時、ロキに近づいていく不気味な背びれが見えた。

「あれって…」

「分かっている…」

背びれを見た瞬間、ヒメはロキに駆け寄った。




 海から何かが近づいていることも知らず、ロキは砂浜で倒れている。その時、水中から何かが飛び出したかと思うとそのまま牙をむき出しにしてロキに襲いかかってきた。ロキも転がってかわす。襲いかかってきたのは鮫だった。鮫は砂浜に寝そべった状態でロキに襲いかかる。

「こいつ…!」

ロキが短剣を出した瞬間、ヒメが目の前に降り立ち、鮫の後ろに回り込むと尾を掴んでぶん回して投げ飛ばした。投げ飛ばされた鮫は逃げるように消えていった。

「何かが襲ってくる場合は私がなんとかするからロキ君は修行に集中して。」

ロキは頷くと、再び海と向かい合うように立つ。荒々しい波が再びロキに向かってくる。これまで以上に勢いがある。

「うわぁ!」

波を受けてロキは後ろに吹っ飛び、倒れこむ。そこへ、マスタが歩いてくる。

「修行はこれからだぞ…」

ロキは気を失っている。




 やがて、目を覚ましたロキはマスタ、ヒメと共に家に戻った。

「次はここで逆立ちをしなさい。」

マスタの言う通りロキは逆立ちをする。

「これで…何をするのです?」

すると、ヒメが水の入ったコップをロキの両足の平に乗せた。

「ちょっと…」

「今からその状態で一時間瞑想だ。ちょっとでもこぼれてはだめだ。」

そう言われてロキは目を閉じる。

 瞑想が始まった。ロキはバランスを保つことに集中しようと深呼吸をするが、時が経つにつれ両腕が少しずつしびれてくる。

「バランスを保って。」とヒメ。

その時、コップが揺れ始めた。バランスを取り戻そうと、ロキが焦った瞬間に体が傾いてバランスが崩れてしまい、ロキは倒れ、コップも地面に落ちて水もこぼれてしまった。

「くっそぉ…」

ロキは悔しそうに落ちているコップを見つめる。




 今度は剣の修行だ。ロキとヒメが木刀を持っている。

「どこからでもかかってきなさい。」

ロキは頷くと、持っていた木刀で攻撃を仕掛けるが、ヒメは素早くかわして突きを放つ。

「うわっ!」

突きが脇腹に当たり、ロキは尻餅をつく。ヒメは木刀を振り下ろすが、ロキはそれを木刀で受け止めて立ち上がると、反撃に移る。しかし、ロキが木刀を振り下ろした瞬間、ヒメは後ろに一歩下がって避けると、ロキの両手に攻撃した。

「くっ!」

ロキの手から木刀が離れ、その瞬間にヒメはロキを突き倒す。

「わぁっ!」

ロキはそのまま仰向けに倒れ、近くの池に落ちてしまった。

「ごめん、やり過ぎた。大丈夫?」

ヒメが心配そうにロキを見つめる。

「平気平気…」

その時からロキの表情は暗くなるのだった。




 ロキがマスタの弟子入りをして数週間経つが、ロキは未だに上達しない。

「何?修行をやめる?」

「はい。今までお世話になりました。」

ロキは荷物を持って外で待っている白馬に近づく。

「待ちなさい。君は頑張っていたじゃないか。一体どうしたんだ?」

「すみません。僕は…強くなれませんから…」

「でも、頑張ればきっと報われるんだから…」

「もう…どうせ僕なんか弱虫なんだよ!」

ヒメの言葉を遮り、ロキはどんどん外に出て行ってしまう。




 ロキを乗せた白馬はまっすぐスマブライムの陸を走っていく。

 僕は強くて優しく、誰からも尊敬される王に…父の後継ぎとしてふさわしい人間になりたかった。けれど、修行を積んでも失敗ばかりだからもういい。僕は王にはなれない。父上、母上…申し訳ない。

「ロキ君!」

振り向くと、ヒメが走ってくるのが見えた。

「反対されても僕は戻らないよ。」

「せめて話は聞いてくれるかな?」

ロキは白馬を降りる。

「ロキ君は強くて優しい王になるために旅に出たんだよね?」

「そうだけど…もういいよ。初めから僕は弱虫だから。」

ヒメはロキの手を取る。

「これだけは聞いて。私は一生懸命なロキ君が好き。何かのために必死に頑張れば…ロキ君には王になる資格があるよ…!」

「何かのために頑張る…」

 僕はピーサーにいた頃も弱虫だったけど、両親は見捨てたりしなかった。それはなぜなのかはあの頃はわからなかったけど、今わかった気がする。僕が必死に頑張っていたから見捨てなかったんだ。

「ヒメ…僕は修行を続けるよ…!」




 その頃、ピーサーではソンとオディンが口論になっていた。

「なぜ俺を王として認めない!」

「ロキは修行中だ!放っておくわけにはいかん!」

ソンはイライラしていた。いつまで経ってもオディンが王として認めないからだ。

「明らかに俺の方が王にふさわしいのに…ふざけるな!」

ソンは棍棒で殴りかかる。オディンも槍で受けて立つ。

「ロキの帰りを待とう。」

それを聞いてソンは棍棒をおろす。オディンが気を許した瞬間、ソンは隠し持っていた刃物を父の腹部に突き刺した。苦しそうに膝をついたオディンをソンは容赦なく殴りつけ、さらに槍を奪って胸部を貫いてしまう。

「弟さえいなければ…」

ソンの顔が険しくなる。

「ソン、あなたはなんてことを…!」

口論を聞いた母のガフリが近づいてきた瞬間、ソンは槍でガフリを貫く。

「う……」

ガフリは血を流してその場で倒れ込む。

「ロキ、次はお前だ…」




 オディンが死亡したことも知らず、ロキは剣術の修行に励んでいた。

「だいぶ良くなってきたぞ、ロキ。」

その時、ペガサスが大慌てで飛んできた。それに驚いてヒメは池に落ちそうになるが、ロキが右手を引っ張って救う。

「大丈夫か?」

「ありがとう。今のロキ君、かっこいいよ。」

「そ…そんな…ことないよ…」

ロキが顔を赤くして照れた時、ペガサスが一枚の手紙を渡した。

「なんだ、これ?」

紙を広げると、それは兄からの手紙だった。

「父は俺が殺した。お前さえ死ねば俺はピーサーの王になれる。悔しければピーサーに戻れ。」

手紙を読んだロキは膝をつく。

「そんな…兄上が…父上を…こんなの嘘だ!」

その時、ピーサーにいるはずの兄の声が聞こえた。これはテレパシーだ。

「今すぐ国に戻れ!」

兄の声を聞き、ロキはペガサスにまたがる。

「待って!修行中よ!」

ヒメがロキの腕をつかむ。

「でも、僕の国が危ないんだ。」

そこへ、マスタが歩いてくる。

「行ってこい。今のお前なら修行は身についている。学んだことを思い出せ。」

それを聞いてヒメはロキの腕を離す。

「絶対に負けないで。」

「僕は負けない。約束するよ。」

ロキはヒメとキスを交わすと、ペガサスに乗って飛び去っていった。




 異次元の穴を潜り抜け、故郷に戻ったロキは真っ直ぐ城に向かった。城の門を潜り抜けた瞬間、

「よく戻ったな、弟よ。」

真正面にソンが立っていた。

「兄上、父上を殺したなんて…」

「あれは本当だ。俺は優れた力を持っているのに…ロキが修行中だからって王にしない…だから殺したんだ。」

ソンは持っていた棍棒と父が使用していた槍を弟に突きつける。

「王が決まらないのも、父上が死んだのも全てお前のせいなんだよ!」

それを聞いた瞬間、ロキの表情が怒りで歪む。

「王になりたいからって…ふざけるな!」

「なんだと、この弱虫が!」

ソンは持っていた長槍で殴る。

「お前に王は無理だ。お前を殺し、俺は王になる。だから国のことは心配するな!」

ソンは棍棒を振り下ろした。ロキも短剣で反撃する。

「兄上、僕は分かったんだ。両親が弱い僕を見捨てなかった理由をね。自分以外の何かのために必死に奮闘する者こそが王にふさわしい。僕はそれを学んだ。」

「黙れ!それなら…異世界にも俺の実力を見せつけてやる…!これで俺は全世界の王だ!」

「そうはさせない!」

ロキは短剣で向かっていく。

「お前が俺に勝てる訳ないだろ!」

ソンは棍棒を背中に背負い、長槍でいく。しかし、ロキは攻撃をしゃがんだり、跳んだりして正確にかわしていき、短剣で反撃する。反撃を受けてソンはよろめく。

「この俺が…こんな弱虫に…」

ロキはゆっくりと兄に近づく。

「ロキ、待て。俺が悪かった。」

ソンの一言を聞いてロキが気を許した瞬間、

「今だ…」

ソンは背負っていた棍棒をロキの足めがけて投げた。ロキはそれを跳んでかわすが、宙に浮いている瞬間、ソンの槍がロキの胸部を突く。地面に転がり込んだロキをソンは棍棒で叩きまくる。

「く…卑怯だ…」

「だから何だ?勝てばいいのだから卑怯かなんてどうでもいいだろ!」

この時、ロキは初めて理解した。ソンは強いのではなく、卑怯な戦法で相手を苦戦させていただけで力は強くないんだ。傲慢で自分勝手な卑劣漢。こんな奴が王になるとは最悪だ。

その時、大勢の人々のブーイングが聞こえた。

「なんだ?」

ロキが周囲を見回すと、いつの間にか大勢の国民たちが集まっていた。旅に出たロキが帰還した噂を聞いて駆けつけてきたのだ。

「これで次の王とかふざけるな!」

「そうだそうだ。このハ卑怯者!」

それを聞いたソンは国民に向けて槍を向けた。

「俺のことを卑怯者だと?それならここで散るがいい…!」

ソンが槍から光線を発射した時、一人の戦士が国民の盾になった。ロキだ。

「…アンタみたいな…自分勝手で傲慢で卑怯な奴が王になったら…この国は滅びるぜ…」

「なんだとぉ…!貴様ぁ…ぶっ殺してやる!」

大ダメージを負い、倒れているロキに棍棒と槍を向けた瞬間、ロキが隠し持っていた短剣を投げた。

「ぐわっ!」

短剣が当たり、持っていた武器を落としてしまう。ロキは起き上がって短剣を構える。

「父よ…母よ…我に力を…!」

その時、ロキの右手の剣が金色の光に包まれた。

「これで終わりだ!」

ロキの剣がソンの鎧に直撃し、ソンは大きく吹っ飛ぶ。

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

ロキの勝利だ。その瞬間に国民の歓声が響き渡る。




 後日。ソンは悔しそうに城を見つめる。

「もう少しで俺が王になれたのに…畜生…」

悔しそうに呟くと、その場を去っていった。自身の正確が仇になって追放の身となったのだ。




 城。ここでは金色の鎧、二本の角がついた兜を身につけた一人の青年が玉座に座っていた。ロキだ。ロキは王として認められたのだ。

「あなた様のような心優しく、お強い方が王になられてお父上もお喜びでしょう…」

「私は王になれたが、まだまだこれからだ。」

ロキは側近に答えると、玉座を立って外に出た。

「父上…母上…どうか…私のことを…見守りながら…安らかにお休みください…」

 王となったロキは王として国の平和を守りぬくために生きることを決意するのだった。

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