三十三話『ティリフ』

新しい町に着く。この町にも守衛さんが居てアルフさんはこの町にも来た事があるみたい。守衛さんが初めて会う僕に町の説明をしてくれた。街の名前は"ティリフ"と言う。ティリフでは海上貿易が盛んなんだって。


海の向こう。遠くの国々から物資を載せた貿易船が入港するための港が有り、さまざまな国の人や異なる人種の人が行き交い、貿易拠点として利用されているみたい。


そのためティリフに住む人々の多くは港の警備や行商人向けの宿泊施設などを経営している。貿易品を置いている店もあるんだって!


「お!おぉ〜!」

手続きを済ませて町の中へ。真っ先に目に飛び込んできたのは大きな船!守衛さんが言っていた通り、船の乗組員らしき人達が貨物を港に運び出しているところだった。


「行くぞ」

停泊している貿易船の大きさに呆気に取られていると、アルフさんに声をかけられる。おっといけない。前を進むアルフ。続くテイト。


通りが見えてきた。立ち並ぶ露店。遠くの国から来たであろう商品が並ぶ。見た事ない果物を使ったジュース。不思議な形をした工芸品。あざやかな色彩の装飾品など。目を引く商品が色々あってワクワクするなぁ!


本当は手に取ってどんな物かまじまじと確認したいが先を急ごう。気になる商品達に後ろ髪を引かれる気持ちになりながら歩く。


大きな建物に着いた。そこには"ティリフ港 貿易・警備統括センター”と書いてある。ノックをして中に入る。


規則正しく並べられた机に向かい制服を着た人達が書類に何か書き込んでいる。受付が有り、女性が二人の訪問に対応する。淡々とした口調。


「お待ちしておりましたアルフさま」

「そちらのお方は?……そうですかルイボルさまのご子息さまですね、分かりました」

「カロッサは二階におります」

「さっそくですがご案内致します」


「おう」

受付の女性の後に続き二階へ。一つの扉の前で立ち止まるとドアをノックした。


「カロッサさま、アルフさまがいらっしゃいましたのでお連れ致しました」


中から大きな声。

「おう!通してくれ!」


「こちらです」

女性が扉を開けると中には一人の男性。大柄な体格。日に焼けた肌。筋肉ムキムキ。たくわえられたヒゲ。"海の男"と言ったイメージ。


「お久しぶりですな!アルフさま!」


「久しいなカロッサ」

「にしても相変わらずデケェ声だな」


「ガハハ!」

「褒め言葉として受け取っておきます!」

「ん?…そちらは?」


女性がカロッサにテイトの事を説明。"はじめましてぇ〜"とあいさつ。カロッサの表情が険しくなる。お辞儀して退出する女性。

「ほう、君がルイボル殿の…」

「"竜の子"と言う事ですな」


「えっ?!」

「どうしてそれを?!竜の子について何か知っているんですかぁ?」


「いや、私は竜の子について詳しくは無いのだが、先日別件で逮捕した者がこんなものを持っておった」


カロッサが取り出したのは丸く切り出された紫色の水晶。小指ほどのサイズ。紫色の水晶はデータの記録や確認に利用されている。カロッサが水晶に魔力を込める。


「!」

「これって…僕?!」


空中に浮かび上がったのはテイトの顔写真と魔王の側近からの通達。『一つ。先の通達通り…』いつの間にか魔界で指名手配されてんじゃん!いつの間に写真を?詳細情報まで?


テイト・ノガールド/十七歳男/竜人/依頼内容…対象を魔王の前まで連れて来る。生死問わず。えっ?生死問わず?!ひえぇ。その様子に何か確信したカロッサ。口を開く。


「ノガールドと聞いてもしや?と思っておったが、やはりそうか…」

「どうやらこの水晶と同じものが裏社会で出回っておるようだ」

水晶を机の引き出しに戻すカロッサ。


「裏社会には魔界出身者や、魔人と関わりの深い者が多い」

「君を狙う刺客の数もこれまで以上に増える事が予想される」


「でっ、でも!」

「幹部の座?望むもの何でも?どうしてここまでして僕の事を?」


「ううむ」

「なぜ君がここまで狙われているかは正直分からないが、一つ分かっている事がある」

「君の父ルイボル・ノガールドは魔人達から"裏切り者"として忌み嫌われているのだ」


「裏切り者?それってどう言う?」

カロッサがテイトの質問に答えようとしたその時、今まで黙っていたアルフが口を開く。


「おいそんな事よりカロッサ」

「船はどうなった?準備出来たか?」


「あぁ、そうでしたそうでした」

「それに自己紹介もまだでしたな」

「私の名はカロッサ」

「この町の領主と、この統括センターのセンター長をしております」


「あっ、はい!よろしくお願いします」


…う〜ん、それにしてもアルフさん、親父の事については頑なに話そうとしないな。他の人が話そうとしてもさえぎられるし…やっぱり親父と何かあったのかしら?まぁいいか。


「しかし、トイロンから聞きましたがどうして船を?」

「遠方に向かうのならば、アルフさまが契約しておられるタクシーに乗れば良いものを」


「…フォスのところに行きてぇ」


「あぁ、確かにそれならば船が必要だ!ガハハ!そう言う事でしたか!分かりました!」

カロッサに案内され、船着場へ向かう二人。船だって!どんな船だろうな?ドキドキ。

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